トリップガール!

□5
1ページ/2ページ


「野々村。帰るで」
「あ、うん。今行く」


放課後。お昼同様、教室まで迎えに来た服部くん。和葉ちゃんの方をちらっと見れば、目が合う。


「あ…か、和葉ちゃんも一緒に帰らない?」
「あー、ごめん!今日は部活行かなあかんねん」
「そっか。じゃあ、また明日」
「うん!また明日なー!」


笑顔で手を振ってくれてるけど、気になってるに決まってる。気まずさを感じながら教室を出た。


「あの、服部くん」
「なんや」
「せめて、教室に迎えに来るのは辞めない?和葉ちゃんに申し訳なくて」
「和葉?なんであいつの名前が出てくんねん」
「嘘でしょ…。本当に気付いてないの?服部くんが私を呼びに来る度、寂しそうな顔してるのに」
「なんで寂しいねん。昼かて一緒に食うたやろ」
「や、そうなんだけどそうじゃなくて!えー、なんて言えばいいのかなぁ」


どう伝えれば波風立てずに和葉ちゃんの寂しさを教えられるか悩んでいると、ぺちっとデコピンされる。


「あいたっ」
「余計なこと考えんでええ。和葉のことは俺に任しとき」
「そ、そうだね。それとなく説明してもらえると、すごく嬉しい」
「お。工藤からお前の調査結果が届いたで」
「え、早いね。昨日の今日で」
「あいつには優秀な仲間が沢山おるからな」
「確かに。人脈えぐいよね」
「せやねん。しかも、子供っちゅう立場もちゃっかり利用しおって。ほんま、凄いやっちゃで」


コナンくんの話をする時の服部くんは楽しそうで、本当に仲良しなのが伝わる。少し羨ましい。


「え…」
「ん?どうかした?」
「ああ、いや。なんでもあらへん」
「もしかして、お父さんと血が繋がってないこと?」
「知っとったんか」
「うん。お父さんは隠してるつもりだけど、お母さんと話してるの聞いちゃったんだ。お母さん、私を気持ち悪がっててさ。ほら、もうひとつの記憶のせいで、言動とかおかしいとこ沢山あったみたいで。でも、小さい頃とかそんなのわかんないじゃん」
「まぁ、せやな」
「お母さんは自分から生まれた子が気持ち悪いと思う自分に耐えられなくて、逃げるように外に恋人を作って、再婚して。お父さんは私を気持ち悪いと思うお母さんを許せなくて、結局離婚しちゃってさ。本当のお父さんは顔も覚えてないけど、きっと本当のお父さんも、私のせいで逃げちゃったんだよ」


大切な人が少しづつ、自分から離れていくのを幼いながらに感じて。私は普通じゃないんだと知った。もうひとつの記憶は、誰にも話しちゃいけないんだって。


「アホ。真実かもわからへん勝手な憶測で自分を責めんな。生まれる環境や状態は選べんのや。誰のせいでもないことを、自分のせいにする必要あらへんで」
「…服部くんは、優しいね」
「普通や。現実は小説より奇なりって言うやろ。生まれ持ったもんは変えられへん。それなら、まるごと楽しまな損ってもんやろ」
「さすが名探偵。言葉の重みが違いますな」
「やかましわ」
「あいたっ」


冗談めかして言う私のおでこをデコピンする服部くん。その顔は笑ってて、つられて笑顔になる。

実の親にさえ受け入れてもらえなかった、もうひとつの記憶。ずっと大嫌いだった、もうひとつの自分。少しだけ、好きになれそうだった。


「野々村。何味にする」
「え?何が」
「何がってたい焼きに決まっとるやろ」
「え、わ!ほんとだ!いつの間にたい焼き屋さんに!」
「ぼーっと歩きすぎやろ。危なっかしい奴やな」
「あはは。ごめん。えー、何にしよ。王道のあんこかな。でもカスタードも捨てがたい!」
「ほんなら、あんことカスタード1個ずつ」
「はいよ!まいどあり!」


服部くんはたい焼きを2つ受け取って、それをどちらも半分こして私に差し出す。受け取ったそれはとても温かい。


「ありがとう。お金払うよ」
「捜査協力の礼や。有難く受け取っとき」
「ふふ。じゃあ、そうする。美味しそう!いただきまーす」
「どや?美味いやろ」
「美味しい!しっぽまであんこぎっしり!」
「はは。予想通りの反応やわ」


監視役で一緒に居てくれるだけだとわかっていても、まるで普通の友達みたいな空気が、とても嬉しくて。噛み締めるようにたい焼きを頬張った。
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ