服部平次

□そんな事と言うけれど
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『せやから、なんでそないに怒っとるか話せっちゅーとんねん!』
「いーやーや!言わんでも分からへんの?!」


学校からの帰り道。並んで歩きながらも顔を合わせず足を進める。


『心当たりはないって言うてるやろー?!』
「探偵なんやったらちょちょいと推理させてみせぇや!」
『ど阿呆!俺の推理力はそないしょうもないことに使わへんのや!!』
「しょうもないやてぇ?!このガングロ男!」
『ガングロは関係ないわ!このあんぽんたん!』
「あんぽんたーん?!」


本当に腹が立つ。これが愛しい彼女への態度だとは。横腹に一発グーパンチをかましてやる。


『いたっ!何さらしとんねん!』
「あーすまんすまん。手が滑ってもうた」
『なんちゅう棒読みや。この暴力女』
「あーっそ。ほんならそんな暴力女とはさっさと別れればー?」
『なんやて?』
「今日仲良さげに話しとった可愛い子ちゃんとでも付き合えばええやん」


イライラしてつい口走る機嫌が悪い理由。言った後ではっと我にかえる。


『はは〜ん。なるほどな。それで機嫌悪いんか』
「べ、別に!」
『ヤキモチやなんてかわええとこあるやんけ。千紗』
「ちゃ、ちゃうもん。ヤキモチなんて…」


図星をつかれて口ごもる。悔しいからヤキモチだなんて言いたくなかったのに。

そんな私を知らずに(いや、知っててわざとかも)平次はニヤニヤしながら言う。


『俺とかわええ子が話してたんが嫌やったんやろ?なぁ?』
「うるっさいなぁ!別に嫌とちゃうし!」
『へぇ〜?ほんならホンマに俺がその子と付き合ってもええん?』
「か、勝手にしたらええやん」
『素直やないの〜』


つまらなさそうに平次がため息をこぼす。素直じゃないことなんて私が一番よく分かってる。

それが可愛げがないことだって。


『千紗?どないしたん?』
「…どうせ、私は素直やないし可愛くもないわ」
『は?』
「でも、しゃあないやん!ムカつくもんはムカつくねんもん!!」
『…ふは!分かった分かった。とりあえず落ち着きや』
「何で笑うねん?!もう嫌や!こんなん私ばっか好きみたいやん!」
『お前、そないな事考えててん?しょーもな』
「しょっ…なんよ、それ」


こっちは真剣に悩んでるのに。しょーもないってなによ。私ばっかり、本当にムカつく。

不覚にも涙が出そうになって顔を逸らす。


『いらん心配せんでも、俺はお前以外の女には興味ないっちゅうねん』
「え……」
『あークソ。こないに小っ恥ずかしいこと言わせんなや』
「平次…」


照れたような彼の横顔。いつもそんな言葉、頼んだって言ってくれないのに。

恥ずかしいけど嬉しくて。少しだけ私も素直になろうと思えた。


「…おおきに、平次。大好きやで」
『千紗…』
「さ!早う帰ろ!ケーキでも奢ってや!!」
『はぁ?!なんで俺が奢らなあかんねん!』
「私を怒らせた罰!つべこべ言わず奢らんかい!」
『ったく…。ムードもへったくれもないやっちゃなぁ』
「何か言うた?」
『何でもあらへん!』


いつも通りの何気ない1日。並んで歩きながら、どちらからともなく繋いだ手が仲良しの合図。

















そんな事と言うけれど
(おいこら!どんだけ食うねん!俺を破綻させる気か?!)
(まだまだ!私を怒らせた罰は重いで〜!)

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