短編
□廃れた花に笑顔を
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電車の音を聞いていた。
時折小刻みに車両が揺れ動く時に鳴るあの音。
ガタン、ゴトン。
幼い頃から妙にあの音が苦手で車両の中で眠った記憶は一度としてない。
あの走行音を聞くたびにまな板の上、包丁で何かを切り落とす場面が浮かんでくる。
車両の中、椅子に座ってその音を耳にするたび、乗降客が一人ずつ切り落とされる場面が脳裏に浮かぶ。だからこの音は苦手なんだ。
ガタン、ゴトン。
電車の音を聞きながら瞳を開ければ、どうやら計算を間違えてしまったらしい。
横を向いて、そこにある便器を見るにどうやら、ここは便所の一室、それも開いている扉から顔を覗いて確認するに、一番奥の個室、といったところだ。
俺は便器の隣で壁に背を預けて眠っていたらしい。どれぐらい眠っていたのかは分からない。
だけど少なくとも此処はまだ東都の中ではあるだろう。そこまで酷く計算を間違えてはいないはずだ。
「はぁ…」
最悪だ。本当に災難だ。そもそもどうして此処に飛んできたのかを思い出す。
俺は東都の地下、棄てられた電車の中をカルムの仲間と調べて回っていた。