☆捧げ物&頂き物☆
□幼馴染とあたし
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「ごめんねあゆがさん。
待ったでしょ?」
「ううん。
あたしもさっき終わったところだから。」
結局あの後断ることなんてできるはずもなく、あたしは不二くんと二人で帰ることになった。
別に、不二くんのことが嫌いなわけではない。
ただ、さっきのあくどい笑みは絶対に企んでる時の顔だ。
何を企んでるのかは知らないけれど、こういう時の不二くんにはあまり関わらないほうがいいっていうことをあたしは知ってる。
「じゃあ、帰ろうか。家まで送っていくよ。」
「えっ、別にいいよ。」
「遠慮しないで。」
半ば強引に押し切ろうとする不二くんに負け、あたしは流されるがまま「・・・じゃあ、お願いします。」と承諾してしまった。
不二くんに家まで送ってもらう。
これは、青学の女子生徒なら誰もが憧れるシチュエーションだ。
自分の横を歩く不二くんをチラッと見る。
顔だけではなく歩き方まで綺麗な彼はまるで絵本の中から出てきた王子様のようで。
そんな彼の横を歩いているのだから、気分はまるでお姫様だ。
だけど、やっぱり・・・。
「ふふっ、やっぱり僕じゃ不満かな?」
「え、」
「さっきから上の空だもの。本当は僕じゃなくて、英二と帰りたかったんだよね?」
「・・・うん。」
不二くんの言う通りだ。
図星すぎるその言葉に、あたしはうなずくしかなかった。
喧嘩をしているとはいえ、英二と話すことができないのはやっぱり寂しい。
声を聞くことができていても、あたしと話していないのだったら意味がない。
こういう時、あたしの日常にどれだけ英二が影響してるのか実感する。
「・・・英二と、お話したいよ・・・。」
「うん。」
「いつもみたいに、一緒にくだらないことで笑いあいたい・・・。」
「うん。」
「・・・仲直り、したいよぉ・・・。」
ようやく自分の口から出てきた本音。
その願いが口から零れ落ちるのとともに、目から涙もこぼれそうになる。
そして、そんな自分に嫌気がさした。
結局あたしは英二がいないとダメなんだ。
視線を伏せているから見えないけど、不二くんはどんな表情をしているのだろう。
急に立ち止まって自己都合で泣きそうになる女子なんだ。
きっと呆れかえってその微笑みも崩れているに違いない。
とにかく、急にこんなことになって不二くんは困っているはず。原因はあたしなんだからちゃんと謝らなくちゃ。
これくらいのことで謝れないようじゃ、一生英二と仲直りなんてできやしない。
そう思って顔をあげようとしたその時。
「あゆが!!」
3日間聞いていなかったあたしを呼ぶその声。ずっと聞きたかったその一言。
その声の主を、あたしが間違えるわけがなかった。
「英二・・・!」
顔を上げてみると、そこには息を切らせた英二がいた。
ああ、英二だ・・・英二だ・・・!
言葉に詰まるあたしをよそに、英二はあたしを見るやいなや物凄い剣幕で不二くんの方を見た。
そしてその胸倉を思い切り掴み、口を開く。
「不二!あゆが泣かせたのかよ!?」
その言葉で、今自分が泣いていることに気づく。
我慢していた涙はどうやら限界だったらしい。拭っても拭っても涙は止まらなかった。
「おい不二!」
「僕じゃない・・・とは言えなくもないけど、実質英二が泣かせたんだよ。」
「え、」
英二が泣かせた。
珍しく微笑んでいない不二くんにそう言われ、英二は言葉に詰まった。
それと同時に胸倉を掴む手が緩んだらしく、不二くんはあっさりとその手を払う。そしてすぐにまたいつもの微笑みに戻り、静かに口を開いた。
「詳しい話はあゆがさんに聞くといいよ。
じゃあ、僕はこれで退散するね。」
「え、」
「ごめんねあゆがさん。
家まで送るって言ったのに約束守れなくて。」
不二くんはそう言い残して去っていった。
そして、不二くんがいなくなったということは今あたしは英二と二人きりなわけで。
予想だにしていなかった展開に、自分の頭が混乱しているのがわかる。
どうしようこれ・・・やっぱり、あたしからすぐに謝ったほうがいいよね。
英二と仲直りをするチャンス。これは絶対に逃したくない。
「・・・あゆが。」
先に口を開いたのは英二だった。
「不二が言ってたこと・・・本当?」
「・・・。」
何も言わないあたしを見てどう思ったのかはわからないけど、英二は眉を下げてこちらへ駆け寄った。
そして、その温かい右手であたしの涙を拭う。ちょっとしたことだけど、不覚にもあたしはどきっとした。
そんなことを悟られたくなくて、やめてほしいと訴えようとしたその時。
「!?」
あたしの意思は、言葉として口から出ることはなかった。
英二がそのままあたしのことを抱きしめたからだ。
力強く、だけど優しくあたしを包む英二。
昔は確かにこうやって近すぎるスキンシップをとっていたけれど、中学に入ってからは互いに意識してかはわからないがほとんどなくなっていった。
昔とは違う男の子特有のがっしりとした体格。それは英二だけど英二じゃないみたいだ。
そして密着していることにより、英二の体温が、鼓動が、あたしに伝わってくる。
あたしのこの鼓動も体温も、きっと英二に伝わってしまっているだろう。
そう思うと、どうしても顔が赤らむのを抑えられなかった。
「あ、あの、英二」
「ごめんね。」
表情は見えない。
だけどハッキリと英二の声は聞こえた。
突然の謝罪の言葉に、出かかっていた言葉をまた飲み込む。
英二はそのまま、泣きそうな声で続けた。
「謝るタイミングがわからなくなっちゃって。
・・・本当は、もっと早くに謝らなきゃって思ってたんだけど・・・。」
「うん・・・あたしこそ、ごめんなさい・・・。」
ずっと言いたかった一言。
・・・やっと言うことができた。
心の中でつっかえていたものがスッととれるような感覚だ。うん、すっきりした。
すっきりするのと同時に、自分の涙がいつの間にか止まっていたのがわかった。
「へへっ・・・じゃあ、一緒に帰ろ!」
「うんっ!!」
その日、あたしは英二と3日ぶりに帰った。
道中で手を繋いだのは、二人だけの内緒の話。