☆捧げ物&頂き物☆
□幼馴染とあたし
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「ふん、だ!
あゆがなんてもう知らないもんね!!」
「あたしだって!英二なんて知らない!!」
幼馴染の英二と最後にした会話。
かれこれもう3日前の話だ。
休み時間に教室の中心でみんなと楽しそうに騒いでいる英二を横目で見ながら、あたしは密かにため息をついた。そして、そんな英二を自分の視界から消すように窓の外を見る。
あたしと英二は家が隣同士で、母親同士も仲が良いから保育園に通っていた頃からよく一緒に遊んだ仲・・・所謂幼馴染というやつだ。
だからというわけではないけれど、あたしは昔から英二とはよく小競り合いをしている。お互い精神年齢が決して高くないからこそ、どうでもいいことで喧嘩になりやすいわけだ。
両親や英二のお兄ちゃん、お姉ちゃんはそんなあたしたちを微笑ましいという目で見ているけれど、やっぱり何度やっても喧嘩というものは気持ちの良いものではない。
現に今だって内心凄くモヤモヤするし、イライラする。こちらに見向きもしないで英二が友だちと楽しそうにしているのを見ると尚更だ。
「・・・まるで、あたしだけ気にしてるみたいじゃん・・・。」
「何を?」
「そりゃ、喧嘩のこt・・・!?」
自分の独り言に割り込んできた優し気な声。ハッと顔を上げると、そこには穏やかな微笑みを浮かべる不二くんの姿があった。
ニコニコしながらあたしの前の席に座る不二くんは、あたしのクラスメイトだ。そして、テニス部に所属する英二のチームメイトでもある。
だから比較的彼と話をすることは多いんだけど、今は正直不二くんと話をしたくない。
不二くんは、恐ろしいほどに鋭い。それに何より、彼と話しているとどうしても英二のことがちらつく。
早くどこかへ行ってほしいというあたしの願望をよそに、不二くんは微笑んだまま口を開いた。
「英二と喧嘩したんだ?」
「・・・うん。」
「今度の原因は何?
この前は確か、英二のお姉さんが作ってくれたケーキの、最後の一つの奪い合いだよね。」
「そんなこともあったね。」
「で、今回は?」
「・・・チャンネル争い。」
「ぶふっ!」
あたしが白状すると、不二くんは吹き出した。不二くんはこう見えてツボが浅い。
今のどこに笑う要素があったのかはわからないけど。
それに、あたしにとっては笑い事じゃない。
「どこに笑うところがあったの?」
「あはは、ごめんごめん。
そんなことで喧嘩しちゃうあたり、流石英二とあゆがさんだなって思って。」
「・・・。」
否定できない。
今思えば本当にくだらない争いだったけど、そのくだらない争いで3日間も英二と話ができていない。今までこんなに喧嘩が長引くことはなかったから、ストレスはたまる一方だ。
・・・謝るタイミングが見つからないのは、辛い。
一通り笑って徐々に落ち着きを取り戻し始めた不二くんは、改めてあたしを見た。
不二くんの表情は、相変わらず微笑み一色。だけど、その微笑みはさっきまでと雰囲気がまるで違う。
「ねぇ、あゆがさん。」
「?」
「今日、あゆがさんも部活あるだろ?」
「うん。」
「じゃあ・・・僕と一緒に帰ろうよ。」
何かを企んでいるであろうあくどい微笑みを浮かべながら、不二くんはそう言った。