☆捧げ物&頂き物☆

□優しい彼と優しい彼女
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青学校舎の裏側に不二と栞はそれぞれお弁当箱を持ち訪れていた。
校舎の裏側と言っても、日当たりは良く芝生も綺麗だった。
おまけに人の気配もない。
二人でお昼を食べるには絶好の場所だった。
ここに来るまでにド緊張状態だった栞もこの場所に来てから不思議と緊張も和らいだ。

「すごい・・こんなところ青学にあったんですね。」

「知ってる人は少ないよ。
同じ部活の人にも僕は教えてないしね。」

「・・あの、私に教えても良かったんですか?」

「うん。
別に問題ないと思ったしね。
それに、君をここに連れてきたいと思ってたしね。」

不二はそう栞に笑顔を向けながら言った。

「どうゆうことでしょうか?」

「・・1人でここにいるのもいいかもしれないけど、やっぱり1人でいるのも寂しいからね。
英二はちょっと口が軽いから・・」

「他にテニス部の方とかクラスの方とかとは一緒にここで食べてないんですか?」

「うん。
でも君と会った時、この子なら大丈夫かもって思ったんだ。」

あまりにも思わせぶりなセリフで栞はまた少し緊張してしまう。
そんなセリフを普通に口にしてしまうなんてやっぱりかっこいいなと栞はドキドキしながら思っていた。

「じゃあ、食べようか。」

「は、はい!」

二人はそれぞれお弁当箱を取り出して「いただきます」と口にだしてから箱を開ける。
栞の弁当は色鮮やかで、いかにも女の子のお弁当という感じだった。

「可愛いね。」

「あっ・・ありがとうございます。」

お弁当の中身に対して「可愛い」と言ったのであって栞自身にその言葉を向けていないと本人もわかっているのだが、変に意識をしてしまう。
お弁当を食べるだけでこんなにドキドキしているなら彼と手を繋いだ時なんて、もしかしたら本当にうれしさのあまり死んでしまうのではないかと思わず栞は考える。

「自分で作ってるのかい?」

「はい・・一応は。」

「家庭的なんだね。」

「ありがとうございます。
でもまだまだ・・。
不二先輩のお弁当もオシャレですね。」

「今日は姉さんが作ってくれたんだ。」

「お姉さんいらっしゃるんですね。」

「うん。弟もいるんだ。」

家族の話、趣味の話、テニスの話、部活の話、友達の話・・それぞれ不二も栞も会話が途絶えることなく楽しくお昼を過ごすことができたらしい。
こんな楽しい時間がずっと続けばいいのにと栞は思っていた。

だが、楽しい時はすぐ終わってしまう。

「もう時間だね。
楽しかったよ、君とのお昼。」

「私も楽しかったです。
ありがとうございました。」

言葉遣いも行動も礼儀正しい栞は不二に対して深々とお辞儀をする。
とても綺麗なお辞儀だ。

「いいよ。僕の方こそありがとう。
・・また誘ってもいいかな?」

「は、はい!
ぜひ、よろしくお願いいたします!」

「また」という言葉が嬉しかった栞は今にもガッツポーズを決めたい気分だった。
今は緊張というより嬉しさの方が勝っている。
憧れの不二とお昼を過ごせたことは栞は一生忘れることはできないだろう。

「教室まで送ってくよ。」

「そ、そんな悪いです・・。
先輩の教室と少し遠いでですし、本当に大丈夫ですから!」

必死に大丈夫だと抗議する栞をみて不二は「わかったよ。階段には気をつけて。」と納得してくれたらしく、校舎の中でお互い挨拶をして別れた。

栞は自分の教室まで行く廊下で少し頬を緩めて顔を赤くしていた。
それを丁度タイミング良く見かけた未央は栞に近づいて少しニヤニヤする。

「どうだった?」

「未央ちゃん・・」

「良かった?」

「うん、楽しかったよ。
未央ちゃんありがとう。」

「どんなこと話したの?」

「それは・・ちょっと言えないかなあ」

「えー!」

話の内容が気になる未央は栞にすり寄って聞こうと頑張っているが、栞は微笑んで「教えないよ」と優しく答える。
不二が誰にも教えていなかった秘密の場所に自分を連れて行ってくれた、という喜びは誰にも話すことはできないだろう。
なぜならそれは不二と栞、二人だけの秘密の証拠であったからだ。

栞は今日あったことをいつまでも忘れないように心に強く留めた。
 
 
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