☆捧げ物&頂き物☆
□優しい彼と優しい彼女
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こんな想い知らなかった。
青春学園中等部2年の波多野栞は、3年の不二周助に初めての恋をしてしまった。
彼が所属しているテニス部が練習しているコートの前を通りかかると、栞はいつも不二周助に釘づけになる。
周りの部員が目に入らないほど、栞は不二にメロメロなのだ。
それをおもしろがっているのか、栞の友人の柊未央は少しばかりそれをネタにして栞を困らせている。
「あ、栞見てみて。不二先輩。」
「え?!」
穏やかで優しい栞は、すぐ人の言うことを信じてしまうことがある。
現に今も未央に騙されている。
「なんてね。」
「もう未央ちゃん・・」
「ごめんごめん。
単純な栞も可愛い可愛い。」
そう言われて栞は少しプクっと頬を膨らませる。
からかわれても彼女は一切怒鳴ったり本気で怒ったりはしない。
からかわれるとすぐ頭に血が上る同じ2年の海堂薫とは大違いだ。
・・なんてことを未央はチラっと思っていたがこんなことを偶然通りかかった海堂本人にでも聞かれたら自分が殺されそうだと思い、未央はあえて口には出さなかった。
「にしても・・栞がうらやましい。」
「え?」
「だってちゃんと好きって思える人がいるんだもん」
「で、でも私の好きは・・その・・尊敬とかもあるし・・憧れっていうか・・」
未央の言葉に完全にパニくってしまった栞はアタフタと早口で、しかもだんだん小さくなりながら話すが、未央は栞が発する言葉はあまり理解できなかった。
でも栞が言おうとしていることはだいたいわかる。
「大丈夫大丈夫。
私はだれにも言わないし、不二先輩にも言わないよ。」
「本当?」
「本当本当。
私こう見えて口は固い方なのでね。」
「・・・・」
栞は未央に対しての疑いの目をかけた。」
「あー信じてないなー?」
「絶対ダメだからね!」
「言わないってば!
・・でももうバレt「あー!不二見て見てぇ〜!」」
でももうバレてるかも、と未央が言おうとしていた時、未央のセリフにかぶるようにどこかで聞いたような声が二人の後ろから聞こえた。
「ほらほら、あの2年生。」
「あれ、君たち・・」
「!?!?」
「あ、不二先輩と菊丸先輩。」
不二周助のいきなりの登場で栞は発作でも起きるんじゃないのかと思うくらい心臓がバクっと飛び跳ねた。
たまたま栞と未央が歩いていた廊下に不二と菊丸も後ろから歩いていたのだ。
言えばこれは偶然だ。
誰も何もしかけてはいない。
「偶然ですね」
「そうだにゃ〜。」
未央と菊丸が淡々と話してる中、不二はその場に硬直している栞に声をかける。
「もう怪我は大丈夫?」
「あっ・・だ、大丈夫です・・!」
「よかった。
あの時は僕もビックリしたよ。」
不二が言う、"あの時"というのは栞と男子生徒がぶつかって階段から落ちそうになったあの事件のことだ。
幸いたまたま通りかかった不二が栞を受け止めたことで、栞は大きな怪我をせずにすんだのだ。
正直言えば、栞は階段から落ちそうになったことよりも不二に助けられ、一緒に保健室まで行ってもらったことの方が何よりも事件であった。
そして栞自身は気づいていないが、その時に不二と一緒にいた菊丸英二は、栞が不二のことを好きだということがわかってしまったらしい。
それに気をつかったのか、二人を見つけるや否や菊丸はわざと大きな声をだして二人に声をかけるフリをして、不二と栞をくっつけようとしていたのだ。
そんな菊丸の作戦を察した未央はあることを思いついたのだ。
「あーごめん栞。
私先生に呼ばれてたんだった。」
「え、それどうゆう…」
未央は栞と不二を2人きりにさせようと思い、ふとした嘘をついた。
それを察した菊丸も便乗する。
「あーー!
確か俺も昼練行こっかなーって思ってたんだよね〜」
「あれ、英二今日はゆっくりご飯食べるって…」
「き、気分が変わったんだにゃ!」
「なんだ、それなら僕も行ーー」
僕も行くよ、と不二が言おうとしていたのを菊丸は「ダメダメダメ!」と必死に訴える。
それを不審に思った不二はまゆを潜めて困った顔をした。
不二周助は勘が鋭い。
それは菊丸も痛いほどわかっているため、慎重に嘘をつきと押そうとしている。」
「どうしてだい?」
「気分…かにゃ。」
菊丸と不二がやり取りしている隣では未央と栞も何やら揉めあっていた。
「未央ちゃん無理だよそんなの…」
「大丈夫大丈夫!
栞ならやれると信じてる!」
「私緊張して死んじゃうよ!」
「葬式には行ってやる」
「でも…」
その後に何かを訴えようとした栞だが、それは未央によって阻止される。
「不二先輩、菊丸先輩。
私は急ぎなのでこれにて失礼します。」
未央は、不二と菊丸に軽い挨拶とお辞儀をしてその場から逃げるように早歩きでこの場から遠ざかった。
「み、未央ちゃ・・」と栞は未央の後をついていこうとしたが、思わずその場で立ち止まってしまう。
そして菊丸も、
「んじゃ不二、俺も行くねん!」
「あ、うん・・」
風のように不二と栞の場から去っていった。
二人取り残された栞と不二は未央と菊丸の二人が去っていた廊下の先をポカンとしばらく見つめていた。
正直、栞は気まづくて仕方がなかった。
いくら不二が好きとはいえ、こんな状況だ。
栞はどうすれば・・と焦っていると苦笑した不二が口を開いた。
「お互い相手がいなくなっちゃたね。」
「あ!そ、そうですね・・」
「お昼、食べた?」
「これから食べようとしたので・・」
「よかったらお昼一緒に食べない?」
「えっ!?」
不二の言葉に栞は目を見開き、そのまま不二の方を見て硬直してしまう。
まさか不二からお昼を誘われるなんて思ってもみなかったからだ。
ただ、驚きすぎて「はい」とすぐには答えられなかった。
そんな栞をみて不二は不安な顔をする。
「もし嫌ならムリにとは言わないけど・・」
その言葉でやっと我に返った栞はすぐに返事を言った。
「全然大丈夫です!」
「そう?よかった。」
不安な顔から笑顔になる不二を見て栞はずっと瞳を輝かせていた。