☆捧げ物&頂き物☆

□迷いの行方
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時は流れ、卒業式。
天候は良好で、絶好の卒業式日和となった。
その中でも、卒業生代表である跡部景吾の答辞は、卒業生誰しもが涙に包まれた素晴らしい答辞をしたらしい。
その後の在校生代表である直美による送辞も、跡部の答辞の追い打ちをかけるように素晴らしい送辞だった。
今年の卒業式は、最高だったと教員の間でも話題となっていた。
卒業式を終えた卒業生たちは、家族や友人と帰宅するか、自分の所属していた部活動へ顔に出しに行くかの二つに分かれていた。

直美は、そんな卒業生が外から見渡せる屋上に来ていた。
心地の良い春風で、直美の髪を揺らす。

「こんなところにいたのか。」

「あれ、日吉部活は?」

「跡部さん達が下級生の女子達に捕まって部活どころじゃないからな。」

日吉が屋上から見下ろした視線の先には、大勢の女子に囲まれるのを阻止している1年生のテニス部員の輪と、その輪の中には参った顔をしている元3年生のテニス部員達と、さらにその輪の中にいる、涼しい顔をした跡部がいた。
そんな跡部をみて日吉は呆れているが、直美は、跡部をジっと見て視線を動かさない。
そんな直美をみた日吉は、直美に向かって、何かを言おうとしていたが日吉の口からは出て来る前に、直美の方が先に口を開いた。

「・・私、跡部さんのこと好きなのかもしれない。」

直美の言った言葉は、日吉のほぼ予想していたものだった。

「私、跡部さんに好きって言った方がいいと思う?」

その言葉に、日吉は迷う。
ここで、「やめろ」と言うべきなのか「言ってこい」と言うべきなのか。
どちらの方が自分のために、彼女のためになるのか。
日吉は迷ってしまった時、
「そうか、俺はコイツが好きだったんだ」と始めて気がついたのだ。

「やめろ」と言ってしまえば、直美は跡部のところに行かない。
そうすれば自分と付き合えるチャンスがあるかもしれないが、
「言ってこい」と言ってしまえば、もしかしたら直美は跡部のものになってしまうかもしれない。
跡部のことを好きと言っている直美に対して、日吉は「俺はお前が、」なんてことはもう言えなかった。

「日吉?」

「・・俺にはわからない。
お前がどうすれば幸せになれるなんて、俺は迷ってばかりだ。」

「日吉?ごめんどーゆうこと?」

「俺に相談しないで、自分の意志で行くかいかないか決めたらいい。
お前の定めは、お前が決めろ。」

「ご、ごめんね。
そうだよね、聞かれても困るよね。
本当にごめん。」

「跡部さんが、好きなんだろ?」

「うん、好き。
日吉は、好きな人いる?
私みたいに、想ってる人はいる?」

「・・・俺が、そんなこと想ってるヤツいると思うか?」

日吉は鼻であしらうようにフっと笑う。
直美にはその日吉が少し悲しそうな表情をしていたのを幽かに感じていた。

「行くならとっとと行け。
跡部さんは、中途半端が嫌いって言っただろ?」

「うん、そうだね。
私、行くね。」

直美は、早歩きで日吉の横を通り過ぎようとしたとき、思わず日吉は手を出したが直美の手を触れることなく直美は屋上から出て行ってしまう。
屋上に1人になった日吉は、直美が出て行った屋上のドアをただただ見つめていた。

そんな日吉が抱いていたのは、「迷い」と「後悔」だった。

 
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