☆捧げ物&頂き物☆

□迷いの行方
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≪迷いは災いの元≫

今年、日吉が初詣で引いたおみくじにそう書かれていた。
おみくじ自体の結果は「吉」であるが、日吉はそればかり気になっていた。
吉と書いてあるおみくじをソっと財布の中にしまった。

「(たかが、おみくじだろ)」

そう自分では思っていても、その言葉がなぜか妙に引っかかり、頭に残っていた。



冬休み明け初日の登校日は、だるいだるいと言いながらも渋々学校へ登校している生徒がわんさかといた。
だが、普段から部活動に励んでいる日吉は違った。
毎日毎日、一時も体調を崩さずテニス部へと来ていたからだ。
それは日吉だけに限らず、体育会系の部活に所属している生徒はほぼ毎日学校に通っていたため、だるいも何もないのである。
日吉は朝練を終え、登校するや否やおはようなんて言えるようなクラスメイトはあまりいないため、終始無言でいつもの席につく。
周りからは、「やべ!宿題忘れた!」「あれ、身長伸びた?」などの長期休み明け恒例の会話が繰り広げられている。
そんな中でも、日吉は一言も発することなく授業の準備及び予習に取り掛かる。
そんな日吉に対して、誰ひとり目を向けることはなかったが、

「へー予習してんだねー。」

と、隣の席から日吉が久しぶりに聞いた声がした。
日吉は、何の躊躇もなく声の主に返事を返した。

「まぁな。
他の奴らが浮かれているうちに、勉学でも下剋上だ。」

「日吉はそればっかだよね。」

「・・お前は、もしかして宿題終わらせただけで満足しているんじゃないだろうな?」

「満足満足。
だってさー、来年の今頃は受験どころで遊ぶ暇ないんだから今のうち遊んでおかなきゃね。」

「相変わらず呑気だな」

「呑気でけっこーでーす。」

他愛もない会話を日吉としていたのは、日吉とクラスメイトの直美だ。
この様子だと、冬休みは遊んでばかりいたのだろう・・そう思っていた日吉だったが。

「あー!
絶対今、「こいつは遊んでばっかいたのか」って思ってるでしょ!」

「違うのか?」

「私、一応生徒会なんだからね!」

「・・・あぁ」

「何その間!!」

「お前みたいな呑気なのが、よく生徒会に入れたな。」

「でしょでしょ!もっと褒めて!」

「・・・・・」

「なんで無言になるの!」

「跡部さんの足、引っ張ってないだろうな」

「私が?跡部さんの?んなわけないよ!!
私、勉強はできないけど仕事はできるよ!」

自信ありげに言う直美だが、日吉はそんな直美に呆れていたのだ。
「これは絶対足をひっぱているな・・」としか思えなかったからだ。

氷帝学園の生徒会長・跡部景吾は、日吉が所属している氷帝男子テニス部の部長でもあり、頭もよく、生徒や教師からの信頼も厚い上にスバ抜けてのお金持ち&高ルックスの持ち主だ。
そんな彼は、女子たちを魅了するあまり彼を「様」づけで呼んでいる。
日吉は、そんな跡部を目標にし彼を越えようと日々努力をしているのだ。

「俺もできれば生徒会には入りたかったんだがな。」

「まぁ・・うん。
今思えば生徒会総選挙って戦争だったもんね。
あの跡部さんが生徒会長じゃしょうがないよね。」

「そんな超がつくほどの倍率をくぐりぬけてお前は生徒会副会長になった・・と。」

「それほどでも〜」

「俺でもなれなかった副会長をお前がなるなんてな・・」

「あー覚えてる覚えてる。
日吉も副会長候補だったもんね。」

「こんな呑気なヤツに・・」

「おんなじ部活に所属してるから跡部さんあんまりススメなかったのかもね。」

「じゃあ樺地はどう説明するんだ。」

「いや樺地くんは特別でしょ。」

「ウス」

「「?!」」

いきなりの声で、同じタイミングでビクついた二人は声の主の方を見ると、噂をしていた樺地が二人の後ろに立っていたのだ。

「お、驚かせるなよ・・」

「ビックリしたぁ・・」

二人はまた同じタイミングで樺地の方を振り向くと、樺地はいつもの無表情で二人を見ていた。
そんな樺地は直美に用があったようで、

「この案件、今日まで・・です」

「え、あんけ・・うわ!忘れてた!」

一瞬「?」となっていた直美は何か思い出したのか、ガバっとイスから立ちあがると全速力で教室から飛び出していった。
それを追いかけるように、樺地も直美の後について行く。
それを茫然と見つめていた日吉は、
「やっぱり足引っ張ってんじゃねぇか」と呆れながらつぶやいていた。

そして、あわただしく教室からでてきた直美は朝のHRギリギリで席に着くことになったのだ。
まだ終わっていない生徒会の案件が残っていたらしい。

「・・・ふぅ」

小さな息を吐き出すと、直美は浮かない顔をしながら机に突っ伏した。
HRが始まるというのに、机に突っ伏し始めるのはいつものことだが日吉はちらっと見えた直美の浮かない横顔に少し疑問を感じた。
いつもヘラヘラしている直美のあんな顔を、日吉は見たことがなかったからだ。
話しかけようにも、日吉は自分から直美に話をかけるほどの勇気は持ち合わせていなかったようだ。
そして、直美は午前の授業が終了してもなお、ずっと浮かない顔のままであったのだ。

そして、日吉は昼休みにでも聞いてやろうと決めていたのだが、直美は昼休みが始まるチャイムが鳴るや否や、すぐにイスから立ち上がりそそくさと教室から出て言ったのだ。
弁当袋と水筒を持ってきているあたり、学食にいくわけでもなければ、自動販売機に行くわけでもない。
少し理由が気になった日吉は、直美の後をつけることにしたのだが、途中で不覚にも直美を見失ってしまい、広々とした学校内を昼休みいっぱいまで探し回っていたのだが、見つからなかった。
授業チャイムギリギリになっても戻って子尾ない直美を心配して、日吉は5時限目の授業をサボり、直美を探していた。

「・・アイツ何処行きやがったんだ・・」

日吉が思いあたる場所はひたすら探したのだが見つからない。
これだけ広い氷帝学園の中なのだから行き違いにはなっているかもしれないが、どうにも日吉は胸騒ぎがしていたのだ。
そして、日吉の中には直美をほっとけないという感情が芽生えていたのだ。
・・そして、日吉が直美を探し続けて40分後のことだ。
学園内の思いっきり裏側に直美は体育座りで顔をうずくめてジっとしていたのだ。
日吉がその光景を見たとき、ホっとしたと同時に、「こいつは寝てるのか」と思ったほどだった。

「直美、お前こんなところで、」

何してるんだよっと言う前に、直美はビクっとして顔をあげると、彼女の目からは大量の涙があふれ出ていた。
目は腫れぼったくなっていて、どれだけ長い時間泣いていたのかがわかる証拠であった。
それを見てしまった日吉は驚いてはいたが、すぐ冷静になり、

「どうしたんだよ。」

「・・・・・・」

「のんき野郎の次は、泣き虫にでもなったのか?」

そう言われた直美はハっとしてゴシゴシと自分の服の袖で、乱暴に涙を拭く。

「授業までサボりやがって」

「それは日吉も同じだよ」

鼻声まじりの声で日吉と目を合わせないようにしていたが、日吉が隣に座りこみ、聞いてくるものだから直美はバツの悪そうな顔で口を開く。

「跡部さんに、怒られた。」

「・・・・」

日吉は、だいたい予想していただろう答えに、驚きはしなかった。

「朝、やり忘れてた仕事をやりに生徒会室に行ったら、跡部さんがいてね。
全部私がやり残した仕事やっていてくれて、お礼言おうとしたら、礼はいいから昼休みに生徒会室来いって言われちゃって。
多分、怒られるんだろうなってずっと思ってて午前の授業憂鬱に思ってたけど、予想以上に・・その・・キツく言われちゃってさ。」

「跡部さんは、中途半端なヤツが嫌いだからな。」

「うん、言ってたよ。
お前みたいな中途半端なヤツに時期生徒会長は任せられないって。」

「俺も言われたことがあるからな。」

日吉と直美は、お互い跡部の次を引き継ぐ者同士。
春になれば、3年生はいなくなり自分たちが最高学年となる。
それは同時に、氷帝学園を支えてきた跡部景吾という存在もいなくなるというわけだ。
その後継者に、二人は選ばれている同士だ。

「私、別に跡部さん目当てで生徒会に立候補したわけじゃないけど、跡部さんと一緒に仕事していくうちに、惹かれるものってあるよね・・。
私、黙ってても跡部さんみたいになれると思ってたけど全然そんなことないよね。
なんでそんなこと思ってたんだろ。」

「自然と跡部さんみたいになれるなら、俺ももうなってる。」

「たしかに。」

「意識だけでも人は変わる。
だからお前は、跡部さんの次だという自覚を持った方がいい。
そーゆう努力をしろ。」

「ごもっとも・・だね。」

日吉は、これ以外にまだ言いたいことが山ほどあるが、これくらいの言葉しか照れくさくてかけてやることができない。
頑張れなんて、言えるはずもない。

「跡部さんは、お前のために言ってやってるんだ。
少しはその期待に答えてみたらどうだ。」

「でも、もう私跡部さんに失望されてるんじゃ・・」

「本当に失望しているヤツに、跡部さんはわざわざ呼び出して叱ったりしない。
それくらい直美に期待してるってことだ。」

その言葉で直美はハっと目を見開いて日吉の目を見る。
日吉の言った言葉が直美は心に突き刺さったのだ。

「期待・・跡部さんが?」

「そーゆう人だ。あの人は。」

「そ、そっか。
ありがとう、日吉・・私頑張る。」

「・・・・」

ここで、「ああ、頑張れよ」なんて言えればいいものを、と日吉は自分の意気地のなさに若干イラついていたが、直美が納得したのか、ヘラっといつもの笑顔を日吉に向けた。
その笑顔を見た日吉は「迷いがあっても凶にはならなかったな」とひそかに思っていたことは直美は知る由もない。


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