松 夢小説

□色松と恐怖体験
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その声はまぎれもなくカラ松兄さんの声だった。

「カラ松兄さんっ」

解放された腕で、私はカラ松兄さんを抱きしめ返す。
顔をカラ松兄さんの青いパーカーに埋めると、カラ松兄さんの匂いがした。
まだ一日すらたっていないのに、とても懐かしい匂いだった。

そう思っていると、いつのまにか足が痛みから解放され、逆にくすぐったい感覚に陥っていた。
まるで、猫に傷口を舐められているような。
カラ松兄さんの肩から顔をだすと、一松兄さんが一生懸命ふくらはぎからでる血をチロチロと舐めていてくれた。

「一松兄さん」

名前を呼ぶと、一松兄さんはハっとなっておそるおそる私の方を向き、今にも泣き出しそうな顔で、

「ごめん…本当にごめん名前」

カラ松兄さんが私の上から降りると、フラッフラの私を優しく立たせてくれた。
ふくらはぎに痛々しく噛み痕が残っている。
これじゃ、走れそうにもない。
立つのが精いっぱいという所だ。

「なんだと?!
お前らなんで意識が、」

今までニコニコと笑っていたウェイトレスが焦った表情で私達3人を睨んでいた。

「フッ、グール…。
中々イケている、だが生憎。
俺は松野家に生まれし次男、松野カラ松だからな。
ちなみに俺は中学2年の時、すでに堕天使と契約をかわしている。」

いつものようにイタいカラ松兄さんと、

「こんなシリアスな状況でよくそんなクソな中二病発言できんな、ぶっ殺すぞクソ松。」

カラ松兄さんに厳しい闇オーラ全開の一松兄さん。
これはいつもの私の兄さん達だ。

「ちっ失敗か…。
もっと多くスパイスを摂取させなければダメだということか、だったらなぜこんなに…」

自分の計算違いだった展開に、1人でブツブツとつぶやいているウェイトレス兼人食い化け物は相当イライラしているようだった。
化物は自分の血が上っている頭を抱えて、私達のことは今眼中にもなかった。

「…今のうちに逃げた方がよさそうだな。
名前、俺がおぶるからのってくれないか。」

兄さん達に噛まれた足と首筋は、もう血はそこまででていないものの、噛まれた時の痛みの余韻と貧血で若干クラクラしているため、走れるような状態ではなかったた。
だから私はカラ松兄さんにおぶってもらった。

こうやっておぶってもらうのは何年ぶりだろうか。

私が小さいの頃はよく兄さん達におぶってもらっていたのを思いだす。
恐さとカラ松兄さんにおぶってもらったことによる若干の安心さで、私はカラ松兄さんのパーカーのフードに顔をうずくめて、カラ松兄さんの首に回している両腕をギュっと抱きしめるように力をいれた。

フードからは、カラ松兄さんがいつもつけている変な香水の匂いと家の匂いがする。
それが懐かしくて今にも泣きそうになる。

「一松、走るぞ。」

カラ松兄さんの言葉に一松は小さくうなずくと、2人はレストランの出口に向かって走り出す。
レストランのスライドガラス式の出入り口なのだが、ドアの前に立っても反応がない。

「っち、やっぱり外に出さないようにしてたのか…」

「俺らなら普通に壊せそうだけどね。」

一松兄さんの発言に、私もカラ松兄さんもあまり驚かなかった。
相手が化け物なら、こっちだって兄弟喧嘩で鍛えているある意味化け物並みの力を持っている兄2人がいる。
一松兄さんは蹴りで、カラ松兄さんは片腕の肘を使ってガラス式のドアを思いっきり突き破り、ガシャーンとガラスが割れる音がして、外に出られる状態となった。
カラ松兄さんは、拳でたたき割ることもできたのだろうけど、ガラスの破片が私に刺さらないように配慮して、肘にしてくれたのだろう。

今更だが、相手の化け物とも良い勝負になるのではないかと一瞬思ったが、よくよく考えるとその力は人間相手じゃないと恐らく通用しないだろう。
相手が普通の人間ならば、反撃の1つや2つは余裕だったかもしれない。

レストランの外へでて、急いでレンタカーを置いている場所へと走る。
いくら化け物だからといって、例外な化け物じゃなければ車のスピードには追いつけないハズだ。
私はカラ松兄さんにおぶられながら、顔を後ろに向ければ、先程まで頭を抱えて唸っていたウェイトレスと厨房にいたシェフ達が鬼のような顔をしてこちらに向かってくる。
きっと、さっき2人が割ったガラスの音で我に返ったんだろう。

「カラ松兄さん、追いかけてきてる!」

「あぁ、でも車はもう少しだぞ!」

「あった…!」

一松兄さんが声をだすと、レンタカーが見えた。
2人はそれに向かって一直線に走る。
私は再び後ろを見ると、だんだん近づいてきている化け物達に鳥肌がたった。

「着いたぞ!」

車の前まで着くと、カラ松兄さんは私をおろして「一松と名前は後ろに乗ってくれ」と指示がでたので、私も一松兄さんもそれに従った。
カラ松兄さんは1人、前の運転席にのりこみ車のキーを素早くだして差し込むが、

「エンジンがっ!」

車は、中途半端な音をだす。
キキキキとエンジンがかかりそうでかからない音。
こうゆう状況は、ホラー映画などでよくあるシーンだが、実際自分達がこのような立場になってみるとものすごく恐くてたまらない。

「おいクソ松早くしねぇと…」

そう一松兄さんが言いかけた時だった。


ダンダンダンダンッ


「ひっ!」

追いついてきた化け物たちが、車の窓を叩く。
さっきまで、人間の顔をしていたシェフもウェイトレスも、人間の顔をしていなかった。
まさに恐ろしい化け物の顔。

怪物たちの人間の肉と血を求める声と、車の窓をたたく音しか今は聞こえない。
私は気持ち悪くて怖くて怖くて怖くて、窓の外を見ないように、隣に座っている一松兄さんの腰にしがみつきながら「怖い怖いよ」と呟きながら泣く。

「名前、大丈夫…」

今にも消えそうな声で一松兄さんはそう言って、しがみつく私を守るように覆いかぶさって抱きしめてくれる。
でも、一松兄さんも身体は震えていた。
怖いのは、カラ松兄さんも一松兄さんも同じなんだ。

「っ…ついた!」

車のエンジンが入る音がすると、カラ松兄さんは安堵した声でそう言った。
そしてすぐに、アクセルを踏んで外にいた化け物達を轢く勢いで車を発進させた。

そのあとのことは、あまり覚えてない。

カラ松兄さんは必死に化け物達から逃げようと車を運転していて、私と一松兄さんに抱きしめ合いながら目を閉じ、そのまま意識が飛んでいった。
安心感と疲労で睡魔が襲ってきていたのだ。
それから私が目を覚ましたのは一松兄さんに声をかけられてからのことだった。

「名前起きて」

ゆっくり目を覚ますと、私はハっとして「あの後どうなったの?!」と一松兄さんに問いかける。
そしたら一松兄さんは「着いた」と車の外を見る。
そして私は窓越しに見る懐かしい我が家を見て泣きそうになった。

「なんとか帰ってこれたな。」

運転席に座ってるカラ松兄さんもちょっと疲れながら、でも安心した顔で言った。
一松兄さんも安堵していた。
私達は車から降りて玄関に行こうとすると、タイミングがよく引き戸式の玄関ドアが開いて、

「あ、一松兄さん達おかえり〜!」

「割と遅かったね。」

「CRただいま〜!」

「いや、十四松兄さんずっと家にいたよね?」

「おっ。おかえり〜。
なんか俺にお土産でも買ってきた?」

トド松兄さん、チョロ松兄さん、十四松兄さん、おそ松兄さんが出て来る。
半日しか時間が経ってないのにもかかわらず、兄さん達が恋しくて懐かしくてしょうがない。
私が今まで我慢してきた涙が一気にあふれ出て、目の前にいたおそ松兄さんに飛び付くように思いっきり抱きついた。

「おそ松…おそ松兄さんっ!」

「うぉっ?!
どうしたよ名前!
もしかしてお兄ちゃんのこと寂しくなっ、って…え?」」

決して可愛いとは言えない妹らしくない汚い泣き方なのは自分でも自覚していたが、おそ松兄さんは小さい子供を慰めるように優しく私の頭を撫でてくれたと思えば、すぐにその手を止めた。
きっと、私の首筋の痛々しい噛み痕を見たからであろう。
他の兄さん達もそれに気付いたようだった。

「ちょっエグッ!
名前怪我してるじゃん!
一松兄さん達、名前本当どうしたの?!」

おそ松兄さんも、チョロ松兄さんも、十四松兄さんも、トド松兄さんも、カラ松兄さんと一松兄さんの方を見る。
でも2人は、言いにくそうな辛い顔で黙る。

「カラ松、黙ってたら俺達わかんねぇよ。」

「…すまない。
きちんと説明する。」

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