松 夢小説

□色松と恐怖体験
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「腕って…?!」

何かを察したカラ松兄さんの顔は青ざめていて、冷静を保っている一松兄さんの顔色もお世辞にもいいとは言えなかった。

「じょ、冗談だろ名前」

「冗談じゃ「冗談じゃありません」」

私のかわりにウェイトレスが返事をする。
この状況でなんで笑っていられるのかが私には理解できなかった。

「貴方方の食べた肉料理は、正真正銘人間の肉でできたものです。
とても、美味しかったでしょう?」

「おい、まてよ。
なんでお前そんなに淡々と言えんの…?」

さすがの一松兄さんもこれには黙っていられなかったらしい。
恐怖とか吐き気だとか怒りだとか全ての感情などを噛み殺しているのがわかる。
一松兄さんの両手は小刻みに震えている。
その隣で、手の甲で口を押さえながらカラ松兄さんは黙ったままであった。
その一方でウェイトレスは、ずっと不気味な笑みを浮かべたまま一松兄さんの質問には答えず、ただただ笑っていた。

私は、「もうダメだ」と思い再び一松兄さんとカラ松兄さんの腕を掴んで逃げ出そうとした。
このままここにいては、いつ料理にされた彼らのようになるかわかったものではない。
混乱と恐怖と怒りがグルグルする中、こみ上げてくるのは吐き気だった。

「兄さん達、逃げ」

2人の腕を勢いよく引っ張ろうとした時だった。

「あ…がぁっ…」

「ぅぐっ…」

2人は苦しそうな呻き声と苦しそうな表情をしてその場にバタンと倒れる。
私は何が起きたのか全然理解できなかった。
ただただ、目の前の紅い床には自分の兄達の苦しむ姿があった。
首を手で抑え声になっていない呻き声と、何かを必死に吐きだそうとしているしぐさをしている。
2人の身体は悶えたりピクピクと痙攣したりの繰り返しであった。

「え…何これ…」

私は兄達の苦しむ姿をみて何もすることはできず膝から崩れ落ちて泣くことしかできなかった。
おもわず耳を塞ぎたくなる。
これが夢なら覚めてほしい。

「心配しなくとも、彼は死にはしません。
ただ、」

「兄さん…兄さん…」

「ただ、もう人間ではなくなりますがね」

その言葉と同時に、あれほど苦しがっていた2人が突然電池切れの人形のように、ピタリと動かなくなった。
その瞬間全身の血の気が引き、私はこれまでにない最低最悪な絶望を味わった。

「死っ…」

「死んではいません。
もう、人間ではなくな、「人間じゃなくなるってどう意味!?説明しろよ!!」あぁ…なんだ、ちゃんと聞いてたんですか。」

私は普段兄弟と口喧嘩している時の口調で叫ぶ。
こんな状況になって顔一つすら変えないウェイトレスがもう化物にしか見えなかった。
なんで私達兄弟がこんな目に合わなければならないの?
私達、貴方達に何かしたの?

「お嬢さんも、アニメや漫画などで聞いたことがあるでしょう?

"食屍鬼"という名を。」

「食屍鬼…?」

「わかりやすくいえば、"グール"。
人間の死体を食べる、人間視点から見れば要は化物ですね。
見た目は人間とソックリそのままですがね。」

「ちょっと待ってよ…」

「元々のグールは、人間の死体を喰らう者。
あぁ、女性の場合はグーラですか。
…今現代に存在するグールは死体でなくとも、人間を喰らうことで生命を維持することができるのです。
そして、我がレストランでは通常の人間でも自分達と同じ人間の肉を喰らうだけで、グールになれてしまう調味料の開発に成功しました。」

いやいやいや。
いきなり食屍鬼とかグールだとか、そんなこと言われても意味がわからない。
確かに漫画やアニメの世界ではそうゆう種族がいてもおかしくなしグールが題材の漫画もある。
けど人間の死体を食べる怪物だとか、そんなの現実の世界にいるわけない。

いるわけない、いるはずがないのだ。

「ただ、1つ難点なのが現代の若い女性は人間の肉を使った肉料理をひどく嫌う。
実際にお嬢さんもその料理を一切口にせず拒みましたよね。
若い女性のグーラを増やさないことには、どんなに人間をグール化させた所で子孫を残せなければ意味がありません。
まぁ故に今回も失敗に終わりましたがね。」

「今回もって…」

「お嬢さんもご覧になられましたでしょう。
人間の腕。
あの腕、前回ご来店なさったうち1人の一部です。」

「……」

「若い女性の肉は大変美味なのです。
どんな年代の人間よりも、最高級に美味な肉なのです。
グーラになれなかった残念な若い女性の方には、我々の餌としてその身をささげていただくのです。
あの厨房にいたシェフ達の大半は、元々は普通の人間だったものがほとんどですよ。
まぁ、私は生まれた時からグールですがね。」

「…は?」

「さて、話せることは全てお話させていただきました。
……貴方がグーラになれる最後のチャンスをご用意いたしましょう。」

そうウェイトレスが言い終えると、厨房の中から白いエプロンを身にまとった…恐らくグールと呼ばれる人間の皮をかぶった化け物が次々とでてきた。
私は逃げたくとも、2人の兄達を置いていくわけにもいかずただただ怯えてその場にいるだけしかできなかった。

ウェイトレスがシェフ達に何やら指示をしているようだったが、私はそれを聞きとれなかったのだ。
怯えながらも眉をひそめて「え?」という顔をしていると、複数のシェフ達がグッタリとしたカラ松兄さんと一松兄さんを乱暴に引きずって行こうとしていたのだ。

「?!まって駄目嫌だ!
2人を連れて行かないで!!」

私は死ぬ物狂いで引きずられる2人にしがみついていたがそんな抵抗も虚しく、2人は意図も簡単に乱暴に引きずられて行ってしまい、私も何人かのシェフ達に取り押さえられてしまった。
手足をおさえられて、必死に抵抗するものの全く歯が立たなかった。
でもここで抵抗をやめたらヤバいと思ったのだ。
だって、今からされることくらい想像はついている。

「い、嫌だ…」

ウェイトレスは、とある1人のシェフが持っていた皿の肉にフォークを突き刺した。
そしてそれを私に容赦なく突き出した。
その瞬間、私は口を開くのをやめた。

またこの臭いだ。

見た目もさながらネットリしていて気持ちが悪い。
これが改めて人間の肉だと思ってみるとまた吐き気がこみ上げてくる。

「っ!」

一瞬でも口を開けたものなら、きっとねじ込まれる。
こんだけの人数でおさえつけているのなら無理矢理にでも食べさせようとしているに違いない。
私はそんな作戦にのるまいかと固く口を閉ざす。
そんな私をみて、ウェイトレスは「ハァ」とため息をついた後、いきなり私の鼻をつまんで上にあげた。
自動的に私は口が開いてしまう。

それをいいことに、ウェイトレスは私の口に肉の突き刺さったフォークを勢いよくほおりこみ、素早くつまんでいた鼻を離す。

「あ…がっ…ガハァッ!」

私は頬り込まれた肉をものの数秒でペッと吐きだした。
口の中は血の味と気持ち悪いネットリとした舌触りが残っていた。
今まで我慢していた吐き気が一気にこみ上げてきて、むせ返した。

「あっ…うぇっ…ゴホッゴホッ」

下品にも胃液を床に吐きだした。
先ほど、トイレで吐け出せるものはすべて吐いてきたせいか、でるものが胃液しかない。
せっかく、飴玉で口直しをたのにまた口の中が胃液臭くなってしまった。

「ゲホッゲホッ!!」

吐き過ぎて頭がクラクラしてくる。
顔はきっと、涙やら鼻水やら、唾液などでグチャグチャであろう。
そんな私をみて、ウェイトレスは不満な顔をして、シェフに指示をだした。
今度は、何をするのかと思って考えてみたら朦朧としていた意識がハっと我に返った。

「あっ…あぁっ…」

これは最後のチャンス、とウェイトレスは言っていた。
厨房で見たあの白い腕がまな板に置かれて、切られる瞬間がフラッシュバックする。

「…わかっているとは思いますが、貴方に残った選択は、1つしかございません。」

そういうと、ウェイトレスは私の前から退く。

すると、先ほどまでグッタリと動かなかったカラ松兄さんと一松兄さんが立っていた。
顔は下を向いていて表情を確認することはできない。
だが、ゆっくりとした足取りで私の方に近づいてくる。

「良かった…ちゃんと歩けてて…」

冗談気味にヘラっと私は兄達に向けて笑顔を向けるが兄達は見向きもしない。
2人が私の前に立つと、私をおさえていたシェフ達は全員私の手足を解放したかと思うと、次に私の手足捕えたのは、カラ松兄さんと一松兄さんだった。


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