松 夢小説

□色松と恐怖体験
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建物の中に入ると、どこにでもあるレストランの風景があった。
複数の丸いテーブルと、複数のちょっと洒落たイス。
天井には少し高そうなシャンデリアが各テーブルの上につるされている。

だが、壁紙や床は建物と同じ一面紅い色で埋め尽くされていた。
こう紅い色が強調されていると目が痛くなってくる。
それに、とてもレストランに合う色ではない。
それだからなのか、外から見たときよりもレストランがもっと不気味に感じた。
しかも少し肌寒い。
エアコン聞き過ぎてるんじゃないのかな。

「予想はしていたが、客がいないな。」

「人いなさすぎて…なんか気持ち悪」

「一松兄さんっお店の人に聞かれたら失礼だよ…」

「店の人って…そもそも店員いんの?
いらっしゃいませの一つもないとか」

「一松の言うとおりだ。
人の気配が全然…」

「いらっしゃいませ」

「「「?!」」」

突然後ろから声がしたため思わずビクっとなってしまった。
これは一松兄さんもカラ松兄さんも同じだった。
すぐ後ろを振り返ると、ウェイトレスらしき人がたっていた。

「突然すまない、今ここって…」

「開店してますよ。
お好きな席にお座り下さい。
今、お冷をお持ちします。」

そう言うと、ウェイトレスはゆっくりと厨房の中に入っていく。
その間に、私達は入口に一番近い席を選んで座る。
一松兄さんは、カラ松兄さんの隣に座るのが嫌だから、私は自動的に2人の間の席になるのだが、丸いテーブルだから一松兄さんは強制的にカラ松兄さんと向かい合うような形になる。
それでも隣同士になるよりは良いらしかった。

よくよく考えてみると、私達の家は大家族みたいなものだからあんまり外食したことなかったし、このメンツで出かけるのもある意味珍しいことだ。

「なぁ名前…此処どう思う?」

一松兄さんに問いかけられる。
3人しかいないんだから、カラ松兄さんも会話に入れてあげればいいのに。

「なんか、不気味だよね」

「俺、ここのトイレ1人じゃ無理かも…」

「トイレくらい1人で行ってくれ成人男性」

「今ならトッティの気持ちも少しわかる気がする…」

「なんだ?
一松は1人じゃトイレ怖いのか?」

「あ゛ぁ?!
会話に入ってくんなクソ松!」

「ご、ごめ…」

「てか水遅くない?
メニューもテーブルに置いてないし…もしかしてさっきの人1人でやってんのかな?」

「1人しかいないんじゃなくて、本当は1人もいなかったりして、ね。」

「「えっ?」」

一松兄さんが不気味に笑いながら変なことを言うものだから、私もカラ松兄さんも少し身体が強張る。

「フッ、冗談がすぎるぞ一松」

「そうだよ。
ここどう考えても廃墟には見えないし、さっきだってウェイトレスとちゃんと会話してたじゃん!」

「お冷とメニューをお持ちいたしました」

「「ぎゃあああああ!」」

「…はい?」

「ッククク…」

絶妙なタイミングでウェイトレスが来るものだから思わずカラ松兄さんと一緒に叫んでしまった。
笑ってるクソ四男に殺意が沸く。

「す、すみません。
そこに置いといて下さい。」

「クソ次男と馬鹿妹…」

「心臓がビッグバンだぜ、一松」

「カラ松兄さん黙って。」

「はい」

「ご注文がお決まりでしたら、そちらのベルでお呼び下さい。」

「あ、はい…あのすみません。」

「はい?」

さっきの一松兄さんの話が気になって、ついウェイトレスを呼びとめてしまったが、聞くしかない。

「あの、失礼かもしれないんですがこのレストランってウェイトレスさん1人…ではないですよね?」

「もちろんです。
厨房にシェフがおります。
とはいえ、接客をしているのは私1人だけですがね。」

「1人、ですか」

「なんせ、こんな山の中ですので。
人もさほど来ませんし。」

「なぜこの山の中でレストランを、「じゃあ、このオススメってやつを2つ。」は!?」

「名前は何にする?」

「ちょっと待って!
何勝手にもう注文してんの?!」

「いや、メニュー見たらこのオススメってのが一番安かったからな。」

「かしこまりました。
そちらのお客様はどうなさいますか?」

「い、一緒ので」

「かしこまりました、では。」

ウェイトレスは、カラ松兄さんからメニューを受け取ると、またゆっくりと厨房の方へと向かった。
結局なんでここでレストランやってるか聞けなかったし。
…後でもいいか、どうせこの山の道も教えてもらわなきゃならないし。

「名前、ここのレストランは肉料理専門らしい」

「え、そうなの?
んなこと看板に書いてなかったじゃん。」

「メニューにそう書いてあったんだ。
どれにするか一瞬迷ったがな。」

「そっか、カラ松兄さんお肉好きだもんね。」

「俺は肉食系ボーイだからな」

「で、オススメってどんな料理?」

「あぁそれが…。
ただメニューに"オススメ肉料理"としか書いてなかった。
クソ松もパチンコに勝ったつってもそこまで大金持ってないだろうし、俺も所持金0だし、それが一番安いからそれにした。」

「えっそれしか書いてないの?
せめて何の肉使ってるかとか…」

「あぁ、そういえば豚肉だとか鶏肉だとかは書いてなかったな?一松。」

「あぁ、書いてなかった。」

「私、牛肉食べられないんだけど牛肉だったらどうしよ…」

「キャンセルするか?」

「いやぁもしかしたら牛肉じゃないかもしれないし…今キャンセルしたら迷惑かもしれないし。
牛肉だったらカラ松兄さんと一松兄さんにあげる。
私、元からそんなに食べないし…アメでも食べるよ。」

「いいのか?
せっかく来たんだから好きなの頼んでいいんだぞ。」

「まぁ、クソ松が金だすし。」

「いいよいいよ」

「お待たせいたしました。」

先ほどのウェイトレスさんが器用に両手に3皿の料理を運んできた。
するとカラ松兄さんが、

「この肉料理って、牛肉か?」

と聞いてくれた。
そうすると、ウェイトレスさんはニっと笑うと「いえ、牛肉は使ってませんよ」と言う。
その言葉に私は安堵した。

「よかったな名前」

「うん、ありがとう」

そうカラ松兄さんにいうと、ウェイトレスさんが私の目の前に料理をおく。
カラ松兄さんは、「うまそうだな」とつぶやいて、一松兄さんは無言でもう食べ始めようとしている。
ウェイトレスさんは、そんな2人をみてから「ごゆっくり」と言った。
その時のウェイトレスさんの口角が少し上がっていたような気がしたが、私は気のせいだと勝手に解釈をし、さぁどんな料理なのかと皿に目線を落とした時だった。

「っ!」

「名前どうしたの?
食べないの?」

「中々味にクセはあるが、うまいぞ名前」

運ばれてきた料理に目を向けた途端、私はひどくこの料理を気持ち悪いと思ってしまった。

見た目はさながら高級店に出てくるような綺麗な盛り付けをされた肉料理だった。
薄く切られたその肉は、綺麗な紅い色をしていた。
焼き色1つついていない、恐らく生で食べられる料理なのだろう。
わかりやすく説明すれば、見た目は生ハムのようなだった。

でも、その肉をみた瞬間悪寒がした。
まるで、自分の身体がこの肉を食べてはいけないと言っているような感覚。
それにこの生々しい何とも言えない気持ち悪いにおい。
腐ったゴミの臭い、血の臭いがグチャグチャに混ざったような変な臭いだ。

今にも吐いてしまいそうだ。

「うっ」

「どうした?!
名前っどこか悪いのか?」

「顔色悪いけど…」

2人の兄は心配して、食べていた手を止めていた。
なんで、兄さん達は普通に食べられるのだろうか。

「ねぇ、兄さん達はそれを普通に食べれるの?」

「あぁ、普通に食べれるぞ。
たしかにちょっと変わった味はするが、いい味だぞ。」

「普通に食える。」

「な、なんでさ。
こんなにも気持ち悪い…うぇ」

ダメだ、本当に吐きそう。
手で口を押さえているが、胃液がだんだんとこみ上げてくる。
我慢できなくて、イスから立つ上がるが立ちくらみがして床にうずくまる。

「「!?」」

「名前!」

「名前大丈夫…?」

カラ松兄さんは、私の背中に手を置いてさすってくれている。
一松兄さんは、多分自分が何できるかがわからなくてとりあえず、しゃがみこんでカラ松兄さんと同じように手を置いてさすってくれている。

「ごめん、お手洗い行ってくる…。
兄さんたちは食べてて」

私は今にも吐きだしてしまいそうなのを我慢して、無理矢理立ちあがると2人は心配して一緒に立ちあがってくれた。
そして、最初に口を開いたのはカラ松兄さんで、

「着いていかなくて大丈夫か?」

「うん、大丈夫…2人は食べてて。
私のも食べていいから。」

「あっ…名前っ」

弱々しい声で私を呼ぶのは一松兄さん。
いつもの闇オーラは全然感じない。

「大丈夫…すぐ戻るから。」

そう言って、私はお手洗いと書かれていた案内板を頼りにお手洗いへ急いだのだ。


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