松 夢小説

□暴君チョロ松
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午後の授業は、昼休みの出来事で頭がいっぱいで全く頭に入らなかった。
「ごめん」その一言であんなにビックリしたことが今まであっただろうか。
今まで、ずっと暴君だとか怒らせたらヤバいとかさんざん聞いてきたけど、本当に普通に接していたら大丈夫なのかな、と少し思っていた。
そんなことを考えながら、教室の掃除をしていると、

「悪い、苗字。
すまないが、学校の裏にある焼却炉にゴミ投げてきてくれないか。」

先生からゴミ投げの依頼をされた。
あぁ学校の裏ってこっから遠いじゃん、と思いながらもゴミ袋二つを持って学校裏へと向かう。
そういえば、学校裏の焼却炉まで行くのなんて今日が1人で行くのが始めてかも。
何気なく友達の付き添いで行ったことはあるが1人では行ったことがなかった。

「えっと…うわぁ、めっちゃサビてる。
これ触ったら手ベタベタになるかも…」

焼却炉の焼却口は長年使われていたからかサビにサビていた。
あまり綺麗なものとはお世辞にでも言えない。
しぶしぶゴミを焼却炉に押し込んで自分の仕事を終え、クラスへと戻ろうと思っていた時だった。

「悪かった!許しくれって!」

「は?何それ」

「頼む!金ならだすから!!」

「そんなの当たり前だろ?
俺たちに喧嘩売っといてタダで帰らすとかありえなすぎ。」

どう聞いてもタダごとじゃないやりとりが聞こえたので、声がする方へとソっと行ってみる。
壁沿いからソっと覗くと、上級生であろう5人ほどの生徒がボロボロになりながらも、土下座をしたり、のびていたりしていた。
それにギョっとしたが、もっと驚いたのはそん例の松野おそ松とチョロ松が上級生たちの前に立っていたから。

「お前らさ、全然反省してないよね。
大勢で来たからって僕たちに勝てるわけないんだよ。」

「チョロ松〜、もう今日はこんくらいにしたら?
俺疲れちゃったし、こいつらももう戦えなさそうだし、それに…」

「!?」

突然、私の方をみた松野おそ松と目が合う。
松野チョロ松も、私の存在に気づく。
喧嘩後だからかはわからないが、今朝や昼休み会った時よりも顔が恐い。
私はゆっくり後ずさって、逃げるように2人に背中を向けると、いつ近づいてきたのかすぐさま松野チョロ松に腕を掴まれる。
今度こそ死を覚悟した方がよさそうだ。

「ねぇ、まって。」

「ご、ごめんなさっ…」

近くにあった校舎の壁に追い詰められて傍から見たら「壁ドン」のような形になっているのだが、こんな恐い壁ドンがこの世に存在してたまるか。

「なんで見てたの?」

ギュっと握られている腕が痛い。
跡が残りそうなくらい、強い力で握られているためにいろんな意味で、血の気が引く。
16年間生きてきて、こんなに恐かったことがあるだろうか。

「せ、先生に焼却炉までゴミ処分しろって言われたので、そ、それでたまたま…。
別に盗み見しようとかそんなことはなくてただ軽い気持ちで…本当にごめんなさい殺さないで下さい…!」

「…見てない、よね」

「はい?」

「何も見てないよね。
僕たちがここで上級生と喧嘩していただなんて、見てないもんね?」

「…っ、見て…ない、です」

「おいチョロ松、あんまり女子虐めんなよ。」

「虐めてない、口封じ」

「それただの脅しだから。
ほらこの子、今にも殺されそうっていう、人生の終わりのような顔してるよ。

「…ハァ。」

松野おそ松に言われたからか、溜息をついて腕を解放する。
思った通り、腕を握っていた手の痕がしっかり残っている。

「ってか、この子チョロ松の今朝隣の席にいた子じゃん。」

「あぁそうだっけ。」

「お前クラスの女子の顔も覚えてないわけ!?
マジ信じられね〜俺なんかクラスの女子の顔と名前どころか、スリーサイズまで知ってんだぜ!」

松野おそ松はヘラヘラと笑っているが、松野チョロ松は笑うどころか、表情を全く変えていない。
六つ子なのに、こんなにも違うものなのか。

「別に、何にもしてない君を殴ろうとか思ったりなんてしてないから。
ただちょっと、念のために口封じしたかっただけだから。」

「口封じって…もう俺らけっこうバレてるけどね。
今更口封じとかしたって俺らもう色々有名人だからね。」

「…引きとめてごめん。」

「え、じゃあ…」

「うん、もういいよ。
…俺らもこいつらから金巻きあげたらすぐ帰るし。
…また、明日。」

そう言って、松野チョロ松は上級生のいる所へと戻っていく。

「んじゃね!」

その隣にいたおそ松も、私に一声かけてチョロ松に後ろに着いていく。
私は、正直帰っていいよと言われてもしばらくの間、その場から立ち上がれないでいた。
聞こえていたのは、倒れている上級生たちに罵声をあびせる松野チョロ松の声のみだった。
ようやく、帰れる状態になったのでクラスにいくと待ちくたびれていた同じ班のメンバーがブーブーいいながら私に文句を言っていたが、「裏で松野兄弟が上級生脅してた」なんて言えるわけもなかったために「迷った、ごめんね。」とごまかした。

1人で下校していると、ふと思い出した。

松野チョロ松野いった、「また明日」と言う言葉が妙に気にかかっのだがあまり思いだしたくない一件だったので、これ以上考えないことにした。



次の日、目を疑うことが起きた。
私よりも早く登校していた松野チョロ松は、やはりクラスで視線をたくさん浴びていた。
そんななか、私は机にどうあがいても行かなければならなかったので、緊張しながらもカバンを机に置いて一時間目の準備をしようとしたとき、突然隣に座っていた松野チョロ松が立ちあがるものだから、私はすぐ友達の所に行こうと、逃げるように歩き出そうとすると、昨日のように腕を掴まれるとクラスのみんなはざわめきだす。

私も何を言われるのかとドキドキしていると、思いがけない一言を発せられた。

「おはよう。」

「?!っお、はよう」

そう返すと、チョロ松は満足したように笑って腕を解放する。
これには、クラスのみんなも驚きを隠せないのか、みんなポカーンとしていた。
もちろん、私もなのだが。
だって、あの暴君が笑った、なんて。
信じられなかった。
私の今までの平和な日常は、なぜかもうもう二度と帰って来ないのではないかと思った今日この頃であった。

 
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