tennis
□my dear…
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「…英二?」
たった一瞬軽く触れただけだけど、不二はとても驚いたようだ。
そりゃそうだろう。男に…友達に、キスされたんだから。
「あ…ごめん不二!ホントにごめんっ今のこと、忘れて!!」
俺が頭を下げると、一瞬の間があって不二の声が降ってきた。
「……夢、だよ。」
「え?」
顔をあげると、不二は遠い目をして海の向こう側を見ていた。
「今日の楽しかったことは全部白昼夢。だから…もう、おしまい。」
気付けば、もう太陽はそこから姿を消していて、代わりに白い月が静かに輝いていた。
「英二、バイバイ。」
「…うん。じゃあな。」
不二は、来たのとは別のルートで帰ると言ったから、ここで別れることにした。
あまりにも淡々とした結末に、何度もこれでいいのだと言い聞かせ、
俺は、一度も振り返らなかった。
***
もう、中学卒業から20年。
俺は初めてその墓を訪れた。
「不二…」
懐かしい名前を口にすれば、頭に甦る顔。
俺の中の不二は、ずっと少年のままだ。
実際、彼は少年のままこの世を去ったのだけど。
俺は彼のアメリカ行きを見送りに行かずに、ぼーっとテレビを見ていた。
そうしたらいきなり飛び込んで来たニュース。
『成田空港発、アメリカ行きの飛行機が離陸直後消息を絶ったそうです。』
俺は不二の出発時間なんて知らなかったけれど、こういう時の直感というのは得てして当たるもので。
段々と情報が入って来て、ついに彼の死が確認されたのだった。
俺はその墓のすぐそこに手紙をそっと埋めた。
ガンで余命半年の宣告をうけて最初に浮かんだのは、親兄弟でも妻子でもなく遠い昔の切ない恋だった。
「もうすぐ、俺もそっち行くから…」
会った時、キモいって言わないでくれると助かるんだけど、と苦笑しながら歩き出す。
そう。別にどうしたかったとかいうわけじゃない。
ただ、このままあの強い想いが初めからなかったかのように消えてしまうのが嫌だった。
ただ、伝えたかったんだ。