tennis
□my dear…
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――なんで、こんなに好きなのにダメなんだろう?
男同士だから?
不二に好きな人がいるから?
伝えないと決めたのは、俺なのに。
どうしてこんなに、悲しいんだろう…痛くて、痛くてたまらない。
放した手。
逸らした目。
寂しげな笑み。
また、あの時と同じように、俺達は『別れ』を繰り返す。
俺は想いを封印し、
そして不二が、
「…じゃあ、そろそろ帰ろうか。」
『さよなら』を言う。
「そだね。夕陽ももう沈んじゃうし…」
ただ、違ったのは。
「…英二!」
歩き出した俺を呼び止めたのが、不二だったことだ。
「僕…僕ね、アメリカに留学が決まったんだ。」
「…へぇ…」
本当は、めちゃくちゃ動揺してる。
「…写真をね、本格的にやろうと思って…学校に講師として来たアメリカのプロカメラマンが、自分のところで勉強しないかって言ってくれて…」
なんで、二年以上会わなかったんだろうってものすごく後悔してる。
「それで…その人の写真好きだし、向こうには父さんもいるし…とりあえず、一年ってことになってる。」
正直、行かないで欲しいって思った。
けど、
「そっか、頑張れよ!」
『親友』の俺は、いつもの笑顔でそう言った。
「――うん。ありがとう。」
「一年って言ったってさ、俺達二年以上会ってなかったんだから、それに比べたらすぐだよな!」
それでも、遠くに行ってしまうということが嫌で堪らない。
「……でも、もしかしたら……そのまま帰ってこないかもしれない。」
――え?
一年…会うかすらわからない一年でさえこんなに嫌で堪らないのに…
帰ってこないかもしれない?
「それでね、出発が明日なんだ。」
…追い撃ち。
つまり、ここでの『別れ』が下手したら一生の別れになるかもしれないんだ。
…どうしよう。
ただ、心臓の鼓動がどんどん速く、強くなっていく…
不二は、どうやら俺の言葉を待っているみたいで真っ直ぐにその目を俺に向けていた。
時が、止まったような錯覚…
「…そっか、不二はすごいね…」
結局、こんなことしか言えなくて。
不二は一瞬視線を落としてから薄く微笑む。
「…すごくなんか、ないよ。」
「そんなことないって!ちゃんと夢の実現のために自分から歩き出してる不二はスゴイよ!!」
俺が言うと、不二はなんともいえない目をする。
そこに宿っていた感情の正体はわからなかったけれどただ、今にでも泣くんじゃないかと思った。
「…英二は、優しいね。昔からそう。……今日だって夏休み真っ最中、いきなり電話したのに嫌な顔一つせず、来てくれた。――僕、どうしてもアメリカに行く前に、君に会っておきたかったんだ。」
「…不二…」
俺が、その言葉をどうやってとらえようか考えていると不二は俺に、軽く抱き付いてきた。
「ありがとう。すごく楽しかった。…まるで夢みたいに。」
歯止めのきかない衝動が、また走る。
俺は、不二に最初で最後のキスをした。