tennis
□my dear…
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「にしても久々だなっ不二と遊ぶの!」
散々、夏の海で遊びまくった俺達は、人もまばらになってきた海岸で夕陽を見ながら歩いていた。
砂浜は転びやすいから、と言って不二が差し出してきた手を繋いだまま。
「うん。なんだかんだ言って、中学卒業以来だからね。」
不二はニコリと微笑む。
二年以上見ていなかったその笑顔は、前と変わっていない。
間近で見て、ドキリとした。
「で、でも、不二はあんま変わってないね。」
「…英二こそ。」
あ、まただ。
久々の再会に、封印していたはずのそれが、紐とかれ始めているのがわかる。
「あ、でもノリは良くなったな!不二ってこういうとこ来ても割と淡々としてたけど、今日結構テンション高かったもん。」
「…まぁ、誘ったのは僕だからね。……でも多分、変わったとかじゃなくて…英二と一緒だからだよ。」
…マズイ。
確実に動き出している『ソレ』。
このままじゃ、抑えきれなくなる。
俺は、意を決してその手を放した。
今放さないと、きっと放せなくなると思ったから。
「…英二?」
「不二はさぁ、前に好きな人がいるって言ったじゃん?…まだ、その人が好き?」
手を放してしまったことに、何故だか罪悪感を感じて話題をふろうとしたら…特に意識もしないのに出たその台詞。
あまりにも唐突で、逆に不自然だ。
――何、言ってんの?俺…
思わず足を止めた俺の動揺に、気付いているのか、いないのか、不二は真っ直ぐ俺の目を見て言う。
「うん。」
「そ、そっか。」
伝えたくなる、衝動。
…伝えられるはずが、ない。
だって、俺達は元部活仲間で、元クラスメートで、親友。
それ以上なんて有り得るだろうか。
…有り得るわけがない。
だから、もう一度封印しよう。
『親友以上』を、望んでしまったこの熱情を。
「…相思相愛なんだ。」
俺は、その笑みに何か寂しげなものを感じながらも、視線を逸らした。
「へぇ!よかったじゃんっ」
そして、何故だか無性に泣きたくなりながら笑う。
…コレデ、イインデショ?
「…どんな人?」
俺が、明るく尋ねると、不二は悩んでいるのか、少し困ったような顔をして笑った。
「そうだね…太陽みたいな人かな。」
「へぇ…うん、合ってるよっ!不二ってなんか月っぽいから!」
「え…どの辺が?」
「んー実は結構冷たいとことか、コロコロ変わって本性よくわかんないとことか!」
「なにそれ…英二、僕のことそんな風に思ってたんだね…」
「あ…いや…」
本当は。
何処か儚げなとこ。
だとか、
綺麗なとこ。
だとか、
理由は他にも沢山あったんだけど…
言ったら、止まらなくなりそうだったから、言わなかった。
「ま、とにかく太陽と月って感じでお似合いじゃん!」
「…そう?でも僕はね、どちらかと言えば、向日葵だと思うよ。」
「え?」
「…いつもいつも、太陽の方ばかり見ていた。」
そう言って、不二は海に沈みかけの夕陽に目をやる。
俺は赤く染まるその横顔が、妙に綺麗で少し困った。
暫く俺達はただ、海に沈んでいく夕陽を見ていた。
波の音がなんだか俺達の会話を全部さらっていくような気がする。
それは、とても切ないことで、酷く寂しかったけれど。
それでいいんだ。と思った。
寧ろいっそのこと、今ここでの出来事を全部、明日には波が何処かへ消し去ってくれたらいいのに。
もし、そんなことが出来るのなら、一度だけ、この狂おしいほどの想いを全て伝えるのに。