tennis
□Present for…
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『イヴの日、暇っスか?』
11月の終わり頃、急に届いたメール。
テニス部で集まりでもするのだろうかと思って『空いてるよ。』と短く返したら、
『じゃあそのまま空けておいて下さい。』
とのこと。
了承のメールを送った直後届いたメールには…
『不二先輩、『約束』だからね?その日、一日俺に付き合って下さい。』
騙されたような気分だったけど、何故か僕はそれを断らなかった。
Present for…
「寒っ…」
あまりの空気の冷たさに、思わずそう口にしてから姉さんの言葉を思い出す。
なんでも今日は午後から雪が降って、所謂『ホワイトクリスマス』になるらしい。
姉さんと母さんは何処か楽しそうにそのことについて話していたけれど、僕からすればただ寒いだけで…どちらかといえば迷惑な話だ。
本当ならそんな日は、家にいるのが一番なのだけど。
一ヶ月も前からの『約束』を無碍にするわけにもいかないので、僕はクリスマス・イヴの朝にもかかわらず、待ち合わせ場所に時間5分前にやって来たのだ。
なのに。
イヴの日を空けておけと言った張本人が、まだ来ない。
お陰で僕は現在、一人寒い中こうして佇んでいるわけだ。
待ち合わせ時間の10時をすぎてもう25分。
かれこれ30分はここにいることになる。
今思えば彼の遅刻なんて当たり前なんだから、待ち合わせ場所を何処か屋内にしておけばよかったんだ。
「…不二先輩…」
僕が今日もう何度目かわからない溜息をついた時、やっと待ち人が現れた。
「…僕をこんなに待たせるなんて、いい度胸だね。」
笑顔を作ってそう言うと、越前は一瞬だけ顔色を変えて…負けじと笑顔で言ってきた。
「こんくらいの度胸がなきゃこれから先やってけませんから。」
全く、何処まで負けず嫌いなのか。
「…まぁいいや。こんなところで無駄な言い争いを続けても寒いだけだし。」
「…俺は暑いけど。」
「僕はついさっきまで走ってた君と違って、ここで30分以上誰かさんを待ってたんだけどな。」
僕の言葉に、彼は目を瞬かせる。
何か変なことを言っただろうか…?
「先輩、まだ待ち合わせ時間30分もすぎてないっスけど。」
「…5分前からいたから。」
嫌味のつもりで言ったんだけど、何故だか彼は笑う。
「何?」
「先輩も楽しみだったんだ。」
「え?」
なんでそういうことになってるんだろう。
「だって先輩、遅刻こそしないけど、待ち合わせ時間前にくるのが常識だってタイプでもないでしょ?」
言われてみれば、確かに待ち合わせ時間前に来るなんて珍しいことだった。
でもだからって『楽しみだった』なんて結論はあまりにも短絡的じゃないだろうか。
「じゃ、行きますか。」
でも、いつもクールな彼が楽しそうだからいいことにしよう。
「行くって…何処に?」
詳細を一切告げられていなかった僕が尋ねると、悪戯っぽい笑みを浮かべて彼は言った。
「着いてからのお楽しみ。」
***
「…此処…」
連れて来られた場所を見て僕は思わずそう呟いた。
「俺の家。…先輩は来たことなかったっスよね?」
「ああ、うん。」
付き合えというから何処に連れていかれるかと思えば……
場所の意外さに驚いていると、いつの間にか家に入っていた彼が少し呆れたような声で言った。
「何してるんスか。早く入んないと風邪引きますよ?」
とても寒空の下先輩を30分以上待たせておいて謝りもしない奴の言う台詞ではない、と思ったけれど、ここでまた無駄な言い争いをするのもバカバカしいので、おとなしくその言葉に従って僕は彼の家に足を踏み入れた。
「…で?此処で何をするために僕を連れてきたわけ?」
「何のためって…別に。」
「だったらどうして…」
僕が尋ねると彼は大げさに溜息をついた。
「あのさ、もっと気楽に考えられないわけ?」
「気楽にって…?」
「先輩は、俺の家に遊びに来た。OK?」
OK?って…遊びにこさせられたんじゃないか。
そんな文句を心の中で言って僕は彼の後について行った。