小部屋の片隅で
□闇を抱いて
闇に抱かれて
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窓から吹く風が、無造作に結ばれた紫色の長く美しい髪をなびかせる
一束にまとめられた髪がサラサラと背中の上を駆けて遊ぶ
大きな赤と紫の瞳を持ち中性的で端正な顔つきの青年が、静かな室内にペンの走る音と紙の捲る音を生み出していた。
いつもにまして厳しい視線は紙を睨み付け、しかし手は休むことなく文字の羅列を綴り続ける
コンコン──
静かな部屋に生まれた音の波紋
視線を動かさずに声だけで答える
『開いてるから勝手に入れ』
「おや、あなたが仕事するなんて珍しいですね」
聞き覚えのある声に手を止めチラリと来客の姿を見る
蜜色で肩まで伸びる美しい髪に赤い瞳
青年とはたま違った端正な顔立ち
普段は確認などしないが、なんと無くその姿を確認する
しかしそれも一瞬の事
再び書類を手に取りペンを走らせる
『うっせー。黙ってろや』
今度は視線を動かさず、明らかに不機嫌丸出しの声で命じる
命じられた当人はヤレヤレといった仕草をし、壁に寄りかかり静に見ていた
それからどれくらい経ったか
青年がぐっと背伸びをし、席を立つ
『あー…疲れた。』
「終わりましたか」
男性も壁から離れ、青年へ近づく
『で?なんかあったか?』
ドカッと再び椅子に座り、左を上にして足を組み、右手で頬杖をついて尋ねる
「特に用事はありませんよ」
『ふーん…用事も無いのに来るなんてお前昔のディスト並みに暇人だな』
「そうですね」
答えるのと同時に、何かがジェイドの左顔すれすれを駆け抜けた
それは真っ直ぐ飛び、後ろの壁に派手な音を発ててぶつかりバサリと落ちた
「…なにするんですか?」
『二つ程指摘してやるよ
一つ。まずあいつは何の用もなしに来ない。特に俺が仕事してる時はすぐ帰るか、なんだかんだ俺に追い返されない様必ず理由を付ける。
二つ。ディストの名前が出たのにそんな淡白な反応はしない。』
それを聞いた“ジェイド”がニヤリと楽しそうに笑った
それはそれは寒気がする程不気味な表情で。
「な〜んだ。ばれてたのか、つまんないなぁ」
その声はジェイドの声に似ても似つかない、まだ子供の様な高い声
ゾクリとその声にすら鳥肌がたった。
みるみるジェイドの姿から青年、いや、少年の姿に変化する
髪も着ている服も真っ黒なモノに変わった
『…お前、何?
人間か…?』
呆気に取られた声色で、何故か頭を過った言葉がそのまま口から溢れる
「ぼく?ぼくは君の“闇”そのものだよ♪」
『や、み…?』
「そ。君が心に鍵を幾重にも掛けてしまいこんで、自分でも気付いていない“闇”
君はぼくで、ぼくは君なんだよ?だから君の全てはぼくのもの───」
人間とは思えない早さで近づき、髪に触られる
反射的にレイクは腕を振り、それを殴り飛ばしていた
『ち、近寄るな!』
「酷いなぁ。君はまたそうやって人を傷つけて不幸にするんだね」
『は?』
意味が解らず眉をひそめると、ソレがパチン!と指を鳴らす
次の瞬時に現れたのは、自分を囲むように数えきれない程の人。
一緒に旅をしている仲間
六神将
今まで出会った人
これから出会うであろう人
そして“レイク”の本当の家族
誰も瞳に光はなく濁り、しかし視線はレイクを見ている
あぁ…気が狂いそうだ
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