小説

□W
1ページ/1ページ





「ーーーねぇ…

……俺だけでしょう……?」



「お前だけ」



「本当に…?」



「…信じて」





その言葉に返すかのように

俺は妖艶な声をあげた。






「…っ、ハァ…っ、……」




ーーー途切れる息と共に

2人の身体がぶつかり合う。






ーーこんなことで


チャニョリは…
チャニョリの全ては

俺だけのものだと

…そう自分に
言い聞かせているのかもしれない。






…チャニョリ………


俺が
何も知らない訳がないでしょう…?




ーー俺は全て知ってる。






お前が…幾度となく

俺じゃない人と



……ルハニヒョンと……


身体を交わしてきたこと。




そして、今も

それは…続いていることを。






ーーーどうして?






「ベク……」




その…低くて

甘い声で……


俺じゃない人の名前を呼ぶの…?




"ルハン"って…

…そう呼ぶの……?





こうやって
いくら甘くキスされたって…

この唇は…俺だけのものじゃない。



その瞳で
ルハニヒョンの何を見て

何を聞いて

何を感じているのか…






「っ、ハァっ…ん…あっ…」


「、………ッ、」




見た目じゃ…何もルハニヒョンに
かなわない俺は…



こんなにも愛してしまった
チャニョリに


…捨てられないように

嫌われないように……





「ッハァ…ッ、」


「っ、…あぁあああッ……」





ただ黙って

こうやって
身体を捧げることしか…


ーーーできないの……?






______








「ーーーヒョン…

また泣いてるの……?」



夜中1時をまわった
薄暗いリビングでひとり

いつものように泣いていた俺に


…カイが
声をかけてきた。




カイは…俺の話を
いつもきいてくれる。



「ごめんね…

こんな情けないこと、話せるの…
カイだけだから…」



「…いいよ…気にしないで…」





ーーきっと…今ごろ

チャニョリは…………



考えれば考えるほど
溢れてくる涙。





「……」


そんな俺の震える肩を

無言で
そっと抱き寄せるカイ。



俺はまた…いつものように

カイの胸で泣く。




チャニョリとは違う…暖かみ。







「ーーヒョン…

…俺は……?」



抱き寄せた耳元で

振り絞った小さな声で…
カイが口を開く。




「…俺じゃ…ダメ……?」






ギュッと瞳をつむって
…より強く俺を抱きしめる。





ーーーカイの気持ちに

気づいていないわけじゃない。



「…ヒョン……」



こんなにも強く俺だけを…

ずっと…
ずっと前から
想ってくれている。





ーーーそれでも俺は



「……ありがとう…」


この言葉しか
返すことはできない。





どんなに優しくされたって…
カイの気持ちに気づいたって…


ーーー自分の気持ちには嘘がつけない。





「……ごめんね…

俺が……悪いんだよね…」




そうーーー…

俺がこんなにも
カイに甘えてしまうから……



だからカイを余計に苦しめる。





「…もう泣かないよ……

大丈夫。

カイ…
本当にありがとう………」






……大丈夫。


強くならなきゃ……。









********







…ヒョン



苦しくなんかないよ




ーーーそう笑顔で伝えたいけど

冗談でも無理みたい。





ーーーー毎晩毎晩

チャニョルヒョンが
そっと部屋を出て行って


気づかず眠ったふりをして

ひとりで泣いている
ベキョニヒョン…





そんなに泣いているのに…



ーーーどうして
チャニョルヒョンなの…?



俺じゃダメなの……?






ヒョンが俺の胸で泣く度に


ヒョンの幸せを守りたい気持ちと

ヒョンを俺のものにしたい気持ち

チャニョルヒョンへの妬みが


俺の心の底で
二度と解けないほどに
…絡み合っていく。





俺はどうしたらいいーーー?




毎晩ひとりで泣いているヒョンを
ただ…黙って

慰めてやることしかできない…?



ヒョンを……チャニョルヒョンじゃなく


…俺が

幸せにすることはできないの……?





___




今夜も
そっと部屋を出て行こうとする
チャニョルヒョン……



ーーー当然、

ベキョニヒョンは
眠ったふりをしているんだろう。







俺は部屋から出てきたチャニョルヒョンの前に立ち憚った。



「…!?…カイ…」



「……ヒョン……

アンタ、どーゆうつもりだよ…」





「…何が……」



「しらばっくれんな!!!!!」



俺は勢いよくチャニョルヒョンの
胸ぐらを掴んだ。




「アンタがどーゆうつもりで
こんなこと毎晩繰り返してんのかは
知らねぇが…!!!!

……ベキョニヒョンの気持ちを
考えたことあんのか!?!!?」





「……」




「ベキョニヒョンはな…!!!

全部知ってんだよ!!!!
全部知ってて
アンタに捧げてんだよ!!!!!」



チャニョルヒョンが
驚いた顔をみせる。


ヒョンの声がこわばる……。





「…全…部……知って……」



「今ここで決めろ」



俺は
ヒョンを鋭く睨む。




「ベキョニヒョンを想うなら

…もうルハニヒョンのもとへは
二度と行くな。


…そうじゃないなら
二度とベキョニヒョンに近づくな」





チャニョルヒョンが

……言葉を詰まらせる。




ーーーこれでいい。



これでチャニョルヒョンが
ベキョニヒョンだけを想って…


ベキョニヒョンが
チャニョルヒョンの手で

……幸せになってくれるなら。




そう…これで………






「ーーーわかった。

……もう…



…ベクには近づかない。

全て終わりにする。」






ーーーーー……は……?




「……何言って…」




「だから、…ベクには
もう二度と近づかない。

…これが俺の答えだ」




ーーー俺は……唖然とした。



「……ベキョニヒョンじゃなく…
ルハニヒョンを

取るってことかよ………」




ーーー……最低。





妬み恨みじゃない。


もう……
何て言葉にしたらいいかわからないほど


失望して………




ベキョニヒョンが

俺じゃなく
…こんなチャニョルヒョンを

想い続けていることが……


すごく
悔しかった。






胸ぐらを掴んでいた手も
すっかり力を失って

…俺の手は
チャニョルヒョンの手に払われた。





「もう……いいだろ…」




……そう言い払って

チャニョルヒョンが去ろうとした




その瞬間ーー……







「…ど…して………」





…!?



俺とチャニョルヒョンが

震える小さな声のした方へ


振り向けば…



そこには

部屋から出ていた
ベキョニヒョンが…


扉の前に
……立ちすくしていた。





「…ベキョニ…ヒョン……」




「ねぇ…チャニョリ………

……ウソでしょ…?

ねぇ……ウソだよね……?」




ポロポロと
ヒョンの頬に涙がつたう。


チャニョルヒョンは
真っ直ぐ前を向いて…

ベキョニヒョンを見ようともしない。





「ねぇチャニョリ…?

俺だけでしょ?
そう言ってくれたよね…っ、…?

チャニョ……」



「全部聞こえてただろ…?

……今まで…悪かった。
俺のことは…」



「何…言ってるの…っ?

…嫌だよ…っ、…!!!」




ベキョニヒョンが
チャニョリヒョンの背中に抱きつく。




「俺に悪いとこあるなら直すからっ…!

俺………

ルハニヒョンみたいにできるよっ…!?

ルハニヒョンより…
チャニョリのこと
満足させてあげれるからっ…

お願いチャニョリ……っ、…

俺…」




「…悪かった」


ーーーチャニョルヒョンは
そう言い捨てて……

ベキョニヒョンの腕を払い……


去って行く…。






「…ッ、やだよっ…

チャニョリ………!!!!
まってよぉ…っ!!!!!」




大粒の涙を流し
チャニョルヒョンを追いかけようとする
ベキョニヒョンを…


俺は……気がつけば

ヒョンの背中に抱きついて
必死に止めていた。




「やだっ……離してぇッ……!!!!

チャニョリっ…
チャニョリぃッ!!!!」




「……ヒョン…っ、」



「チャニョリぃ!!
…チャニョリぃッ!!!!」




ーーチャニョルヒョンの名前を

こんなにも泣いて
必死になって呼ぶ
ベキョニヒョンの瞳には


……俺なんかいない。




そんなこと…わかってる。



それでも………





「チャニョリ!!!……チャニョ…」


「ヒョン…!!!」




俺は……ベキョニヒョンを


正面から勢いよく

強く…抱きしめた。




…抵抗する力もなくなったのか

声をあげて
泣き崩れるヒョンを

強く…強く……抱きしめる。





ーーヒョンの涙が
俺の肩を濡らす。

ヒョンの泣き声が
俺の耳に響く。





ーーーお願い…

ヒョン……


一度でいい。


一度でいいから………




「……俺を………みてよ…」




……いくら強く抱きしめたって

いくら強く想ったって




…ベキョニヒョンの口から出る言葉は



『チャニョリ』

その一言だけで……。






こんなにも守りたいのに

想っているのに……





どうして…

どうして……?









ーーーヒョンが

俺の腕の中で呟いた…。



「…チャニョリじゃなきゃ……

…ダメなの……


俺……

チャニョリじゃなきゃ……

…死んじゃうよ………」




___





ーーーーヒョンの瞳は

赤く腫れていた。


この
あまりにも愛しい赤い瞳の中に

……俺の姿は映らない。





俺は

ただ、強く

決して報われない想いと共に


ヒョンを抱きしめることしかできない。




掴めない気持ちを
後から後から…

追いかけることしかできない。





ーーー愛しすぎたんだ。


俺も……ヒョンも…………。






ーーーヒョンの
掠れた小さな声が
…耳に響く。




「…こんなに…愛してるのに……」




ーーー…そう…………





こんなに…想っているのに……






…どうして………?







"『どうして……


…俺じゃダメなのーー……?』"










Fin.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ