小説

□Heart Hidden Hearts
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ーーー何も伝わらなくていい。




いくらこうやって…


お前が俺を
ギュッと抱きしめたって

ステージ上であるそれは


……ただのファンサービス。




ファンの為に
俺を抱き寄せてることくらい
わかってる。





…それでも


こんな気持ち違うって
間違ってるって

そう頭では分かっているのに


…気づいてしまったんだ。




チャニョリに抱きしめられるたびに

俺の中にある何かが

俺を突き落とすってことに。





______





今日のスケジュールが全て終わって
宿舎にもどる。




「ハイハイ!

風呂は効率よく!サッサと入ってね!」



相変わらずギョンスが
まるで本当のオンマの様に
メンバーに声をかける。




「じゃあ俺
いっちばーん!!」



チャニョリが着替えを持って
風呂へ向かった。







………

スケジュールが終わった夜

風呂を待つ時間とその後寝るまでは
各自自由の時間。



「ベキョニヒョン!

チャニョルヒョンが風呂でるまで
僕の相手してください♡」




「……あとでね」





……どうしてだろう。


セフナと遊んでやれないほど
疲れてるってわけじゃないのに。


ため息が出る。




自分の部屋に入って

パタン、と
扉を閉めた。





…微妙な距離をおいて並ぶ

ふたつのシングルベッドの内の
ひとつに



チャニョリが
今日着ていたジャケットが
無造作に置かれていた。




「……」




ーー何を考えたわけでもない。




俺はベッドに近づき


そっと……

そのジャケットに触れ
手にとった。





「……サイズ…でか…」




……ジャケットから
チャニョリの香りがした。





俺は

瞳をつむって


両手で手にとった
ジャケットに


そっと……頬をくっつけた。






ーーーー何やってるんだろ…




そう思う自分の中にも


今、微かな幸せと
切ない気持ちが

はっきりと感じられた。




……胸が高なる。




幸せだけど…苦しい。





ーーーーこんなに……

チャニョリのこと…好きなの…?




いつの間に

こんなにも気持ちが
大きくなっていたんだろう。





ーー今自分がしていることを

考えることができないくらいに………







大きなジャケットを

もう一度
ギュッと握りしめた

その時……







「…ベク……?」



ーー!?



…風呂を終えたチャニョリが
部屋に戻ってきて

扉を開けるや否や

俺の姿を見て
声をかけた。




「……それ…俺のジャケット…?」



「っ、!!!//」






ーーーー俺のバカ。


何やってんの………





「風呂早かったのなっ…

俺っ、セフナと入ってくる!」




手に持っていたジャケットを
バサっとベッドに置いて…


チャニョリの言葉を聞くことなく


勢いよく俺は
部屋を後にした。




______







狭い風呂だけど
俺は大概、
いつもセフナと一緒に入る。



「…ベキョニヒョン

どうしたんですか?」




「え…?」



シャワーを肩に浴びる俺に
セフナが聞いてきた。



「ヒョン、ここのとこ
ため息ばっかり」



「…そうかな?
そんなつもりはないんだけど…」




「……チャニョルヒョンと

なんかあったんですか?」



!?

……いきなり
チャニョリの名前が出てきて驚く。




「…どうしてチャニョリ…?」



「分かりますよ、僕。

ベキョニヒョン、
最近チャニョルヒョンのことばっかり
目で追ってますから」



「!?…」



「…もし何か…チャニョルヒョンに
伝えたいことがあるなら

早く言葉にしたほうがいいですよ」




「…え……」




「隠すのは辛いことです。

それが
自分の為とか
相手の為だと信じていても

結局、幸せになれないことのほうが
多いんですから」




……何かを
突きつけられた気分になった。





「……なんか…

俺じゃなくて
セフナの方がヒョンみたいだね」



「え?
……そう思います?♡」



「ほら、
褒めるとすぐ調子にのる!」



「今日から僕のこと
ヒョンって呼んでくれても
いいですよ?♡」



「もうっ…調子にのるな!!//」




もう風呂から出るばかりの
セフナの身体に
泡をつけてやった。






___




チャニョリのいる
俺たちの部屋の扉をそっと開いた。




「……」


チャニョリは何も言うことなく

いつもと変わらずに
ベットの上で
ゲームをしていた。




……俺も何も言わない。


でも…

俺が自分のベットに腰をかけた
その瞬間……




「……さっき、どーした?」




やっぱり口を開いたチャニョリ。




……言葉が詰まる。





「…ぐちゃぐちゃに置いてあったから…

たたんでやろうと思っただけだよ」



「……何か、隠してない?」




「!?…」





……セフナは
隠すことは辛いって言ったけど


俺には隠すことしかできない。





ーーーもしこの気持ちがバレたら?


俺が…
メンバーである俺が

男の俺が


チャニョリのことを
"好き"だと伝えたら?




……これまでの俺たちの
全てが壊れる。


全てが……ゼロになる。




目に見えるその未来を
甘んじて受け入れるほど

俺は強くない。





「…、別に何も…」




「…嘘。

ベク、何か隠してる」



チャニョリがゲームを切って
俺のいるベットの方へと
座り込む。


俺を見つめる。

俺は下を向いて顔をそらす。





「……隠してないって…」


「隠してる。嘘つくなよ」


「隠してないってば……」


「隠してる」



「……っ、

隠してないって言ってんだろ…っ!?」



とうとう俺は
声を荒げてしまった。




「……チャニョリは…
なんもわかってない!!!

ちょっとは俺の気持ちも
考えてよ!!!!」




俺はそう言い捨てて…
ベットの布団を掴み
潜り込んだ。




「っ…おい、ベク!」



……チャニョリが何度も
俺に呼びかけるけど

俺は布団の中から出る気はない。





ーーー何も伝えられないんだもん


そうでしょ?



伝わったら
…全てが終わってしまう。



伝えることなんて

なにも
ない。






頬に涙がつたうのに気づいた後…

俺はそのまま


眠ってしまった。
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