小説

□優しい唇
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…ねぇ


ルハニヒョン………





どうしてーーー……?





僕のこと…

愛してるんじゃなかったの…………?











全部

知ってるのに



……そうやって


コソコソと隠されるのが

余計に苦しくて

辛い。








昨夜も

今夜は疲れているから
一人で寝たい と、


僕とベッドに横になることを拒んだ
ルハニヒョンは………





ミンソギヒョンに…

…………抱かれていた。









知りたくないものほど
頭に入り


見たくないものほど
目に映り


聞きたくないものほど
耳に響く……





僕を見る度
不自然に動くヒョンの瞳が

僕に全てを確信させる。







……それでも

"僕だけをみて"と


全て知っていることを
明かすこともできず


別れることもできない……












……時計に目をやれば


23:45を回っていた。








ーーー今夜も


…ルハニヒョンの部屋で
何が起こっているのかなんて


ルハニヒョンが
どんな表情で

どんな声をあげて

…僕じゃない人に
抱かれているのかなんて


…考えたくもないのに………









ーーー苦しい


苦しい………




すごく…寂しいよ………













ーーー部屋に一人きりで

ベッドの上でうずくまっていることに
耐えられなくなって
僕は部屋を出た。








…この突き当たりにある

ルハニヒョンの部屋………







………知りたくないのに……



身体が…勝手に動く。





一歩ずつ


ルハニヒョンの部屋の扉へと
近づく。







心に

冷たいものが走る。




無意識に………息を殺す僕。







扉の向こうから

………聞こえてくるのは









"ルハ…ニ……っ…"




"んあっ…しうちゃ……ああっ"










バカじゃないの………





ーーー何やってるんだろう

僕は…………






全部分かっていることなのに

自分からこうやって赴いて

心の穴を深くして……





二人の間に割って出る勇気もなく


希望なんてもうゼロに等しいのに

未練がましく
ルハニヒョンと別れることもできない。











気づけば僕は

その場から立ち去り


リビングに逃げ込んでいた。







頬に何かがつたう。




…………涙…。




…ホントバカだよ。





また泣いて……


これで何回目?




いつまでこんなこと
繰り返すの?








声をたてることもなく

ひとり
夜中の薄暗いリビングで
静かに涙を流す。









ーーーー暗い。




……当たり前か………



…もう
他のみんなは寝たのかな……




無理矢理

頭の中をかき消そうと



違うことを考えてみる。







ーーその時………








ガチャ…






薄暗いリビングの扉が開いて


バタッ…と



扉のすぐ隣にあるソファーに
誰かが倒れ込む音がした。










ーーーこんな夜中に誰だろう…





涙を拭って


リビングの中を進み

ソファーに近づいてみると…









ソファーの上で
うずくまって顔を伏せ

肩を震わせている


………ベクヒョンの姿が目に入った。








「…ヒョン…?ベクヒョン…

………どうしたの…?」





声をかけても……無反応。







「ねぇ…ヒョンってば……」





しゃがんで無理矢理
ヒョンの肩を掴んで
こっちへ向けると………



ヒョンの瞳から溢れた涙が

頬をつたっていた。








「!?…ヒョン!?

どうして…何で泣いてるの!?」






「ヒック…うっ……

セフ…ナ……っ」






突然……ベクヒョンが

僕に抱きついてきた。






ヒョンの涙が
僕の肩を濡らす。





…事情はわからないけど

とりあえず
落ち着くように

僕はヒョンの背中をさすってやった。








「ーーーヒョン……何かあった…?

…言いたくないなら…
ムリして言わなくてもいいけど……」






優しくそう問いかけると
ヒョンの呼吸が少し落ち着いた。



そして

ベクヒョンが小さく口を開く。






「僕……もう

耐えられない……」






ーーーー耐えられない…?




「どういうこと……?」






僕に抱きついたまま
ヒョンが続ける。








「…チャニョリと……カイ………

辛くて…怖くて…
逃げたいのに

…逃げ出せないの……」










ーーー僕も

詳しくは知らないけど……



ベクヒョンが今、その二人の間で
挟み撃ちにあっていることは

……薄々気づいていた。










「ねぇ…セフナ…
僕がいけないのかな…?

全部…僕のせいなのかな……」






ヒョンが瞳に涙を溜めて
震えた声で僕に問う。







「……違うよ

ヒョンは悪くない……」








こんなにも健気なベクヒョンを

どうして二人は苦しめるんだろう……





僕なら…

絶対にそんな事はしない。







「僕なら…

ヒョンの立場も
気持ちも考えて……


ヒョンのこと…
幸せにするのに………」











********










ーーーいつからか


チャニョリが
僕を束縛するようになった。





少し、他の男の人と話をしただけで

その場から僕を無理矢理引き連れて

「ベク…何やってんの?」と、
責め立てられて


夜の行為は
重ねる毎に激しさを増す。






チャニョリのことを愛していたけど……

辛かった。









……そしてその頃

カイが僕に声をかけてきた。






"優しくしてあげるから…"





…言葉通り

すごく優しかった。




躰を重ねて分かる
チャニョリにはない
優しさがあった。





僕は
ダメだと分かっていても

カイに流されて
チャニョリの目を盗んで

何度もカイと躰を交わした。









…そんなことが
チャニョリに暴露てしまうのも

そう遅くはなかった。







ーーー最悪だった。






「ふざけんな!!!!」



「ごめんなさいっ…ごめんなさい…っ」




チャニョリからの
度重なる暴力。


ますます酷くなる
束縛とセックス。





チャニョリとカイには
大きな溝が出来てしまった。






そして……

あんなにも優しかった
カイまでもが
変わってしまった。




それまでのカイが
全て嘘だったかのように




チャニョリから僕を
無理矢理奪い取り

部屋に鍵を掛け


自分のものであることを
僕の躰に刻み込むかのように

深く

激しく


ひたすらに躰を交わす。








「…いやァっ…ハァッ…ああんっ

カイ…ぃやめ…てぇ…っあん…い…あああッ」






「……ッ、ハァ…ッ」








チャニョリと同じように…。





僕を奪い合い
犯し続けるその二人から


……僕は逃げたいのに

逃げることが許されない。







毎晩毎晩
奪い合われ

どちらかの束縛にあい

優しさの欠片もない
もはや愛なのかどうかも
分からない快楽で

躰を繋ぎとめられて
イかされ続ける。






ーーーーもう、心も躰も

ボロボロだった……。







誰かに
助けを求めることなんて

できないと思っていた。






……のに…









「僕なら…

ヒョンの立場も
気持ちも考えて……

ヒョンのこと…
幸せにするのに………」







涙が…さらに溢れる。





躰をいくら熱く交わしても

心の中は冷たいままだった僕を

優しく包み込んだ
セフナの躰が

じんわりと暖かくした。












そして……僕は……







「セフナ…



キス……して…」









ただ……優しさが欲しかった。


人の温もりが……愛が欲しかった。







「え………

……どうして……」






「いいから……

セフナにキス……して欲しいの……」







戸惑うセフナの瞳を
真っ直ぐに見つめる。









………セフナの頭の中に
何かがよぎった様な表情を…

一瞬…見せたけど




……何故か寂しそうな瞳で

僕の顔にゆっくりと近づき




壊れ物にでも
触れるかの様に




優しく……



唇を重ねる……。










ーーそう…



この優しさ……


温もり………





これが欲しかったの


ずっと………









最初は優しいだけだったキスが

少しずつ

ゆっくりと

深く…甘くなっていく……







……ここまでしても

僕を突き放さないセフナは……



もしかしたら

僕と同じ気持ちなのかもしれない……と

つい思ってしまった。







セフナも…何処かに

寂しさを
抱えているのかもしれない………










ーーー長く、深く、甘いキスを終えて

そっと唇を離す。





……セフナが……

寂しそうに

僕の名を呼ぶ………。






「ベク…ヒョン……」






僕の頬に手を添えて

……首元に舌を這わせる。






「……っあ…


セフ…ナ…ぁ……」






気持ちいい………



こんな風に優しく愛されるのは

すごく久しぶりで……









「ヒョン……」




「…なに……?」







「…ヒョンの…嫌な記憶……

全部消してあげるから……



今夜は…

ヒョンの躰を

僕のモノにさせて……」










ーーーセフナが

何を考えていたのかは分からない。






それでも…



あまりに寂しそうな瞳で
そう言うセフナを……


こんなにも優しく愛してくれるセフナを






…僕が拒める訳がなくて







「…いいよ……


セフナ…

優しく…して………」







……そう答えると同時に

セフナが僕を押し倒した…。











********










……ベクヒョンの喘ぐ声が
頭の中に響く。







「っあっ…セフ…ナぁっ…」





「…ベクヒョン……ッハァ…」







ただ……
寂しさを紛らわせる為の
行為なのかもしれない







自分に嘘をついて
ベクヒョンを抱いているのかもしれない









「っ、あ…ハァ……ヒョ…ン……」





……こんなになってまで
未練がましく


ベクヒョンの躰の何処かに

無理矢理……

ルハニヒョンを探してしまう自分が
嫌でたまらない








……それでも

こうやって





ベクヒョンの心に欠けたもの

僕の心に欠けたもの



…互いの心に欠けたものを

埋め合わせるかの様に




優しく躰を交わせば








「…ああっ…だめぇ……っ
気持ちイ……っ」








一時の快楽に身を任せれば







「セフナ…っはぁっ

セフナぁあ……ッ」







誰かに…求められて


誰かを求めて…







「ッ……ヒョンっ…いい…?…ッ」








「あぁっ……うん…ッはぁっ…

出し…てぇっ…」








……それだけでいい。







「ヒョン……ッ、アァッ」








「セフ…ナぁっ…

あッ…あああああああッ」















自分の心についた嘘を

……本当にできるなら。






心に開いた穴を………

塞ぐことができるなら。









「………セフ…ナ…


キス…して……………」









互いの
全ての傷を



……その優しい唇で






"ゼロ"に

できるなら………。












Fin.

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