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□【another oneself】
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翡翠の月に照らされた、薔薇園。
そこは、東のウィッカで愛されている場所の一つ。
そして、お茶会の会場がある場所でもあった。
今宵も、東のアナザーは会場に集まり、自分たちの母が愛した薔薇園を見ながらお茶会を楽しんでいた。それぞれが持ち寄ったお菓子や軽食、淹れたての珈琲や紅茶に舌鼓を打ち、夜は更けていく。
だけどもそんな楽しい時間も、無限ではない。
茶会の主催である使い魔が終了を告げると、皆名残惜しそうにしつつもその言葉に従った。雑談を始めるもの、今日得た新たな知識をまとめるもの、塔へ向かうもの、交流所へ向かうもの…なんにせよ、アナザーたちは会場からぞろぞろと出て行った。
だけども、会場から出て行かず、その場に残っているものが何人かいた。
その中の一人、茶色く長い髪を緩く結んだ少女が、パンと手を打った。
そして声高に、お茶会終了後のもうひとつのイベントの開催を告げた。

「さぁ、みなさん!お仕事の時間ですよ!!」

わっと声が上がり、それぞれ掃除用具を引っ張り出してきたり皿やカップを洗い場に持って行ったりと慌ただしく動き始める。
その動きを見つめながら、少女も持参したモップとバケツを片手に微笑んだ。
ここにいるのは、お茶会会場を掃除するためのボランティア組織のメンバーだ。少女はその創設者であり、一部のメンバーからは隊長と呼ばれている。本人としては、隊長などと呼ばれるほど自分は偉くない、と思っているのだが。
ズボンから生えた尻尾を揺らしつつ、彼女もまた床を磨くために、モップを握る手に力を込めた。

【another oneself】

彼らは、「お茶会会場掃除し隊」。
今日も今日とて、東のお茶会会場を清潔に綺麗にするため、箒と雑巾とスポンジ片手に活動中です。

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