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□【funny sisters】
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2:三女には信頼

あれよあれよという間にソーウィン会場に連行されたと思ったら、その当の本人はそうそうに人ごみにまぎれて姿を消してしまった。
人ごみの中一人で立ち尽くすのも何なので、適当に会場をうろつく。
夏のアバコンとはまた違う雰囲気に、少しずつ足取りが軽くなっていく。
そうして歩いていると、後ろから声をかけられた。

「ヨヒラねーちゃん!」
「夜弥、来てたんだ」

インキュバスのシャツをはおった彼女もまた、私の妹だ。位置的には三女に当たる。次女は楓だ。
そんな彼女―夜弥は私が素で接せる数少ない相手であり、本音をぶつけることができる相手でもある。本音といよりは、たいていは弱音だけれど。

「ソーウィン出るの?」
「んー…あまりアバター持ってないですし…今回は見学ですかね」
「ちぇー、つまんない。秋のホラー部門とか、ねーちゃんならいけると思ったんだけどなぁ」
「…ホラー系のアバターなんて、ないですよ?」
「いやいや、だってねーちゃん、普段から怖いし」

予想外の発言が飛び出し、思わず間抜けな声が漏れた。
怖い?私が?たしかに、前は鎌系の装備を愛用していたけれど、今は杖系だし。
攻撃力だって高くないし、魔力極振りで守備力も体力も低いし。どこに怖さがあるのだろう?

「模擬戦のときにさー『あ、一発入った!』って思ったら次の瞬間にはブッ飛ばされるし。
 そん時のねーちゃん、超怖い目してるんだぜー」
「夜弥?あなたの目に私はどう映っているんです?」

一応持ってきていた愛用の杖をくるりと構えながら、笑顔で首をかしげて見せる。
いやだなぁ、なんで青ざめて後ずさるのかな?

「ねーちゃん!今のは冗談!冗談だから…!!」
「だったらなんで後ずさるんです?…歯ぁ食い縛れ!!」
「そういうところが怖いんだって…あいたぁ!」

ありったけの力を込めて夜弥の頭を杖で殴った。
そもそもの力がないから、あまりダメージは与えられないだろうけど。
心地よい音で杖は見事にストライクし、夜弥は後頭部を抑えて震えている。

「ひどい…痛い…!」
「人をからかうからです。ほらほら、そんなところにしゃがんでいると邪魔になりますよ」
「いつもの敬語で丁寧なねーちゃんはどこに行っちゃったの…」
「あれは、少しですけど演技が入ってますから」

素だと、私は乱暴でガサツで凶暴だから、それに蓋をしているだけだ。
負けず嫌いで、頑固で、諦めるということが何よりもいやで。だけど走り続けるのも辛くて泣きたくて。
そんなときにいつも支えてくれるのは、この妹だった。

「自分をさらけ出せるという意味では、信頼しているんですよ?」
「…そうゆうことなら、まぁいいかなぁ…」
「ポジティブに捉えていきましょ。何事も前向きに」

…あ、人を言いくるめるのも、実は得意です

【少しシャイなボーイッシュ系少女】

出演:神永夜弥様

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