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□【funny sisters】
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0:長女の独白
「こんにちは。ヨヒラです。東のウィッカに所属しております。
ウィッカ領地のはずれにある森の中に、小さな家を構えてそこに住んでいます。
最初は荒れ果てていたその家も、根気よく手入れを続ければとても住みやすく綺麗な場所となりました。
周囲を紫陽花の生け垣で囲い、小まめに面倒見てやれば梅雨の時期には美しい花を咲かせてくれました。
シーズンが終わってしまった今では、すこし寂しげですけど。
話がずれてしまいました。自己紹介はここで終わりにして、本題に移るとしましょう。
私は、自分ではまだ生まれて日が浅いほうだと思っています。
半年は過ぎましたが、私にとってこの島で催される祭りごとはほとんど初めて体験するものばかり。
いつも右往左往しながら先輩アナザーの方々に手をひかれてようやくクリアすることがほとんどです。
そしてそれは、これから始まるソーウィンの祝祭も同じなのです。
アバターコンテストは夏にも体験しましたが、初めてで何をすればいいのか分からずその場のノリで変なことを口走ってしまいました。
穴があったら入りたい、人生が一冊の本だとするならば、そのページだけ破って燃やして捨ててしまいたいです。
その反省を生かし、今回の仮装コンテストはちゃんとした格好をしたい、のですが…。
いかんせん、底辺で戦うへっぽこアナザーなので、仮装に使えるようなアバターがないのです。
というか全体的に露出が高いんです。
ばんそーこーやお札装備、インキュバスの尻尾が生えたズボンと、どうあがいても夏の二の舞になりそうなものばかりなんです。
ううう、と自室でどうにかならないものかとコーディネートを考えましたが、いい案は浮かびませんでした。
有名ブランドであるパンプキンズに手を出すことなんてできず、…はやい話が、諦めました。
今回は家にこもって、おとなしくしていよう…そう考えたのです。
夏のアバコンでの私を知っている皆様。ばんそーこー少女の再来はありませんよ。
望んでいた人がいるかはわかりませんが、期待を裏切るようで申しわけないです。
私の話はこれだけです。ソーウィンはおとなしく観客として楽しもうと思います。
それでは皆様、お元気で」
【平凡な全力少女】
コトリ、とペンを置いて書き上げた手紙を見詰める。
見事なまでに言い訳ばかり綴られた文章だ。自分で書いたものだが、これはひどいなぁとため息をつく。
一緒にソーウィンに行こうと誘ってくれた友人たちに出す手紙を封筒にしまい、届けるために家を出ようと立ち上がる。
その時だった。
こんこん
小さなノックの音が、私の部屋に響いたのでした。
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