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□[ヨヒラさんとデビルさん]
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―コツン

バトルを終え、勝利の台詞を言おうとしたヨヒラの頭になにかが降ってきた。

「あいた、」

それほど痛くはなかったが、思わず口に出てしまう。
何が降ってきたのだろうと落ちてきたものを見ると、それはキラキラと輝く小さな石だった。
星のように輝く石を見て、ヨヒラは今日から始まったイベントのことを、ようやく思い出した。

[ヨヒラさんとグラシャさん]
 Milky Star Light Night

自宅の屋根の上に上り、ヨヒラは先程手に入れた星の欠片を月に翳していた。
本当の星のように輝くそれは確かに美しく、あの星が欠けて降ってきたのだと言われても納得できるような気がした。

「…一夜の奇跡…ですか」

小さく呟いて、ギュッと欠片を握りしめる。
流れ星は願いを叶えてくれるという。ならばこの欠片を集めても、願いが叶うのだろうか。
ずっと一緒にいたい、と願えば…それは叶うのだろうか。
くしゅん、とヨヒラは体を震わせてくしゃみをした。大分暖かくなってきたとはいえ、まだ冷えるときは冷える。
思わず自分の肩を摩っていると、ふわりと後ろから毛布が掛けられた。
振り向くと、そこには彼女のデビルである青年が、苦笑いなのか微笑みなのか、ゆるく笑いながら立っていた。

「グラシャ…どうしたんです?」
「いつまで経っても部屋に帰ってこねぇからよ。お前さん、そんなに身体が丈夫ってわけじゃねぇんだから」

気ぃつけろよ、と笑うグラシャに、大丈夫ですよとヨヒラは答えた。
それでも寒かったのは事実なので、毛布に顔を埋める。

「で、何してんだ?まだ冷えるだろうに」
「星を…見たくて」
「星?」
「そろそろ七夕ですから」

織姫と彦星の伝説。
恋をしてから働かなくなった織姫と彦星を戒めるため、ふたりを大河で引き裂き一年に一度しか出会えぬようにした、という伝説。
恋人同士が、唯一許された相瀬の日。

「でもそれって自業自得ですよね。働かないでイチャついてたらそりゃあ怒られますよ」
「元も子もないこと言いなさんな」

確かにロマンも何もない解釈をしたが、ヨヒラは自分が言ってることは概ね正しいと思った。
恋だの愛だの、そういったものを貫くなら己の役目をきちんと果たすべきだ。
それもできない者に、想いを貫くことなどできはしない。

「他を蔑ろしてまで誰かを想って、それで大切ななにかを失ったら意味ないじゃないですか」

それに、とヨヒラは付け足す。

「『君以外のすべてを失ってもいい』なんて言われても、嬉しくないです」
「お前さんは存外、恋愛に疎いようだな」
「よくわからないっていうのが本音です」

呆れたように笑うグラシャに、ヨヒラも笑った。

「そろそろ部屋に戻ろうぜ?アムドゥスキアスやイボスが心配するからよ」
「そうしましょうか。…あ、グラシャ」

手を出してくれませんか?と言うヨヒラに内心首を傾げつつも、言われた通りグラシャは手を差し出した。

「…って、なんで手の甲が上なんですか。普通に掌を上にしてください」
「ああ、すまんね」

くるり、とひっくり返された掌に、ヨヒラは自分の手を重ねる。
そして、握っていた欠片をグラシャの手に落とした。
きょとんとした顔でそれを見つめるグラシャに、ヨヒラは「ありがとう」と笑う。

「俺ぁ、お前さんに礼をされるようなことをしたかね?」
「してますよ、たくさん。数えきれないぐらい」

出会ってくれて。
一緒に戦ってくれて。
お話ししてくれて。
支えてくれて。

「いま、一緒にいてくれています。貴方には一番、助けられていますから」

一番最初の欠片は、貴方にあげます。
自分でそう言いながら恥ずかしくなったのか、ヨヒラは「もう戻りますね」と立ち上がった。
パタパタと屋根裏へと続く天窓に駆けていく少女に、グラシャはなぁ、と呼び掛ける。

「あまり無理するんじゃねぇぜ?」

その言葉に、ヨヒラは笑顔で頷いた。

「皆がいるから、大丈夫です」

天窓に体を滑り込ませ、ヨヒラは屋根の上から姿を消す。
その姿を見送って、グラシャは己の手の上で転がる石を握りしめた。
僅かに彼女の体温が移ったのか、それとも錯覚なのか、温かな石の感触に思わずグラシャは口許が緩む。

「ありがてぇなぁ」

あの少女はこの石の意味を理解してないようだが、それでも嬉しかった。
一番に貰ったのは自分なのだと、アロケルあたりにでも自慢しようと考えながら、グラシャもヨヒラの後を追った。



あとがき
初期の頃からずっと戦ってくれているグラシャに感謝を込めて。
だれかの一位になれる気がしないので、お世話になっているデビルたちに感謝を伝えたいですね。

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