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見つけたソウルストーンを抱いて塔を降りる頃には、後ろをついてきていたアロケルはソウルストーンに戻っていた。そういえば、私が目覚めてからずっと実体化したままだった。そろそろ限界だったのだろう。無茶をさせてしまった。
…?何かを忘れてる気がする。
「ねぇ、アロケル。私、何日寝てたんでしたっけ?」
『三日だな』
「…お茶会っていつでしたっけ?」
すっかり忘れていたが、今週は東のお茶会があったはずだ。アロケルはめんどくさそうな声をあげながらも、とりあえずは答えてくれた。
『今日じゃね?』
…わかっていましたよ。言われなくても。でも否定してほしかったんですよ。無茶な注文でしたけど。
「お菓子も何も用意してなーいっ!…げほっ」
『叫ぶと怪我に響くぞ』
「お、おそい…です…」
思いっきり叫んだせいで塞がりかけていた傷が引きつり、ゲホゲホと噎せた。
ソウルストーンの中のアロケルが呆れている。でもそれどころではないのだ。お茶会なのに何も準備してない。いや、仕方がないと言えば仕方ないけれど。お菓子を楽しむようなお茶会になるかもわからないけど。
「…できるなら、開催の前にケリをつけたいですね」
『オメーがやる必要、本当にあんのか?』
「半ば意地ですよ」
装備の整えに行くため、ウィッカの広場ではなく家のある森のほうへと足を向ける。
「確かに私はまだ弱いですけど…それを言い訳にしたくないです」
彼と言葉を交わしたのは、きっと私だけだから。
私の言葉なら、彼に届くかもしれないから。
自惚れかもしれない。それでも、私はもう一度、彼と話したい。話さなければならない。
「手伝ってくれますか?アロケル」
『どーせ一人でもやんだろ?だったらついてってやるよ』
しかたねーからな、とぶっきらぼうに付け足した彼に、クスリと笑う。本当に、根はやさしい人(デビル)だ。
彼のソウルストーンをそっと撫でて空を見上げると、夜の闇を切り裂く緑色の翼が見えた。
腕を差し出し、その翼の主の名を呼ぶ。
「クルミリア!」
声が届いたのか、魔女の使い魔である緑色の梟が私の腕を目指して降下してくる。速度を下げて、私の腕にとまったクルミリアの羽を撫でてやれば、気持ち良さそうに目を細めた。
ふと、その足に何かが括りつけられているのを見つけた。結ばれているそれを解き、広げてみると、何やらチケットのようだった。
金と銀の、二枚のチケット。なんだろうと首をかしげ、数秒後にようやく思い出した。
少し前に開かれた、ウィッカイベントの景品だ。魔女の交換権、ゴールドとシルバーが一枚ずつ。あとはいくつかのアバターが贈られる予定だったのだ。すっかり忘れていた。
「…魔女様、このタイミングで送ってくるなんて…」
でも、これがあれば。
二枚のチケットを握り締め、くるりと踵を返す。向かうのは、このチケットの交換所だ。
いつだったか眺めていた、チケットで交換できるデビルの能力を思い出す。
「…いける!」
頭の中で構成を組立て、シュミレーションを繰り返す。
今夜。今日で終わらせなければ、この事件を。彼を止めなければならない。
他でもない、私が。
誰かが言っていた。これは君のための物語だと。
流されるだけでは嫌だ。解決を待つだけでは嫌だ。
私が、私の手で、この物語を終わらせる。
島全体の運命を動かす場所に立つことはできなくても、たったひとりの少年を止めるぐらいは、できるはずだ。
「絶対に、終わらせる!」
そう叫んで、私は走り続けた。
そして、私は―
*