本棚


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緑色の月が照らす道を、黒曜石の鎌の切っ先でガリガリと削りながら、俺は歩いていた。
数日前、彼女と戦ってから、ほぼ無差別に戦いを挑むようになった。見るからに強そうな相手からは逃げているが。突然現れては鎌で身体を引き裂き、戦闘不能になっても嬲り続ける姿から、どうやら自分は死神と呼ばれているらしい、と他人事のように俺は考えた。
死神か。まぁ黒いし武器も鎌だし、お似合いだとは思う。
悪魔よりもタチが悪い、と自虐気味に嗤う。甘い言葉で囁き、魂を持っていく悪魔は交渉の余地がある。だけども死神はそれすらなく魂を刈り取っていく。
アナザーに使役されずに、むしろ彼らを襲っているのだ。そちらの方がふさわしい。
俺は、自分がデビルだと最初からわかっていた。
あの石壁の部屋にずっといた。そしてただ理解していた。自分はデビルだ、と。そして名前も。だけどそれだけで、デビルがなんなのか、この島が何のための場所なのか、そこまではわからなかった。
塔の扉が開かれて、外に飛び出したはいいがどうすればいいのかも分からず、ふらふらと彷徨っていたら―彼女に出会った。
そして彼女の家にあった本を、すこし悪いとは思ったが、見させてもらった。錬金術やホムンクルスについて。魔女狩りについて。この島の噂について。アナザーとデビル、そして魔女について。
デビルはアナザーとセットで初めて力を発揮するということを、知った。
では、自分は?
アナザーからハーモニクスというものを注がれた記憶もない。そもそも彼女以外のアナザーとまともに触れ合ったこともない。
では彼女が自分の主なのか?
わからない。
彼女は、アナザーは魔女の為に戦うと言っていた。ならば、デビルの自分は何のために戦えばいい?
わからない。
わからないなりに、役に立ちたかった。
手を差し伸べてくれた彼女の役に。
戦えばいいのだろうか。彼女とは違うウィッカのアナザーと。
戦い方はよくわからない。手探りで、それでも役に立ちたかった、それだけで、戦ってみた。
だけど、虚しくて。不安だった。これで正しいのか。
たった一言、彼女に褒めてもらいたかった。それだけだったのに…。

「…君は、俺を間違ってるって言うんだね」

目の前に立ちはだかる彼女を見つめて、俺は足を止めた。

「……やっと見つけました」

フード付きの外套を身に纏い、血を吸ったように紅いルビーの宝鎌を携えた彼女は―ヨヒラは、不敵に笑った。

「鬼ごっこはおしまいですよ、ディース」

アナザーがデビルに勝てるわけないのに。
その言葉を飲み込んで、俺は彼女に刃を向けた。

【lonely envy】
Chapter 6: the truth

わかっていた。彼女がまた俺の前に立ちふさがることも。
そしたら俺は、また彼女を切り捨てるのだろうか。
ああ、そんなことを繰り返すだけならば、あの冷たい部屋にずっといれば良かった。
一度得た温もりをもう一度と望んでいるだけなのに、うまくいかない。

「君のせいだよ…ヨヒラ」

あの日から、俺は君に捕まったままだ。

*
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