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ここ数日、雨が振りっぱなしである。
ちょっとした諸事象で布団を干したいのだが、こうも雨が続いてはそれもできない。

「あーあ…雨は好きだけど、こうも続くと嫌になりますねぇ…」

こういう時、集落から離れていると非常にめんどくさい。
食材の買い出しに行くにも億劫だし、塔の探索やバトルをしに行く気にもなれない。別に自分が濡れるのは構わないのだが、周囲の目線が煩わしくなる。
びしょ濡れの何が悪い、というのが自分の感性だが、人とのズレがあるのならば自重せねばなるまい。
まぁ、風邪をひくのも嫌だし。雨の日はおとなしくしているに限る。

「…あれ?アナザーって風邪ひくんでしょうか?というかまず、病気になるのでしょうか…?」

…具合が悪くなったら、とりあえずエリクシル飲めばいいか。
雨の日というものは個人的には好きだが、いろいろと行動が制限されるという点だけは好めない。

「カエデもヨルヤも来ないし…どうしましょう。寝てましょうか…」

独り言が多いのは最早癖だ。なんだか虚しいような気もするが、誰も聞いてないのだし、別にいい。
もしかしたら、ソウルストーンの中にいるデビルたちに聞かれているのかもしれないけれど。
…そうだ。

「プルソン、今いいですか?」

ふと思い出し、一体のデビルを呼んだ。部屋の壁にはソウルストーンを保管するためのガラス戸がついた棚があり、そこに今まで私が出会い、共鳴したデビルのストーンが飾られている。
そのうちの一つが、声に応えるようにして明滅していた。
それに手を伸ばし、触れて、改めて名前を呼ぶ。

「…出てきてください、プルソン」

光とともに、デビルがストーンから現れる。深緑の衣装をまとった、赤髪の少女デビル・プルソンだ。
彼女には未来を見通す力がある。その力に何度も、私は助けられてきた。

「…どうなさいました?具合が優れないのなら、山羊の睾丸でも…」
「それはいりません。ことあるごとに薦めるのはやめてください」
「そうですか、残念です」

そう言ってプルソンはクスリと笑う。その顔は特に残念そうには見えなかった。

「それで、お呼びの理由はなんでしょう?」
「ああ、そうだ。ね、プルソン。あなたならこの雨がいつ止むのかわかるのではと思いまして」
「………天気予報代わりにしないで下さい…」

苦笑いを浮かべつつも、プルソンは窓の外を見る。雨粒が絶え間なくぶつかり滴を零す窓の外は薄暗く、プルソンの瞳はその向こう側を見通そうとするかのようにまっすぐだ。

「雨自体は、すぐに止みますよ」
「そう?よかったです。この間ヨルヤにお菓子食べられちゃったから、材料買わないといけないんですよ」
「次のお茶会までに、間に合うといいですね。でもその前に…」

プルソンがそっと微笑む。何?と問えば、すぐにわかりますよ、とだけ返ってきた。
なんなのだろうと首をかしげていると、ノックの音が聞こえた。そして、聞き覚えのある声も。

「ヨヒラさーん、いらっしゃいますかー?」

それは、別のウィッカに所属している友人の声だった。

「…プルソン、視えてたんですか?」
「ええ、言ったでしょう?すぐにわかりますよ、と」

クスクスと笑うプルソンは、まるで悪戯が成功して喜ぶ子供のようだ。
だけどその笑顔もすぐに消えて、またプルソンは遠くを見通すような眼をする。その視線の先にいるのは、私だった。

「だけど、あなたの未来は……。いえ、まだ、口にすべきではないですね」
「…プルソン?どういうことです…?」
「なんでもありません。早くお行きなさい、ご友人を待たせてはいけませんよ」

さ、と私の背中を押して、プルソンはソウルストーンへと戻って行った。
プルソンが視えた未来のすべてを語らないのは知っている。きっと今回も、私が自分で選ぶべきことが視えたのだろう。
その瞬間に、私が何を選ぶのかで、未来が変わる。

「………未来は決して、不変ではない、でしたっけ」

自分に言い聞かせるように呟いて、私は玄関へと向かった。

*
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