炎の蜃気楼/直江受

□弱み
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次の朝、直江は起きてからイマイチ状況が飲み込めなかった。
頭には濡れタオル、乱れた胸元、外されたベルト、散乱した部屋…
そしてベットサイドには自分の手を握った高耶が眠っていた。

「これはどういう…?」

混乱している頭を整理しようと昨日のことを思い出そうとするが、全く思い出せない。まるで霧がかかったようにそこだけ真っ白だった。

…昨日は確か熱があったことは覚えている。

もしかして俺は倒れたんだろうか?それで高耶さんが看病してくれた?
そう考えるのが一番自然な流れだと思った。

「う…ん」

高耶が目を覚ます。

「なお…え?」

寝ぼけ眼で直江を見る高耶だったが、ハッとして起き上がる。

「おまえ熱は大丈夫なのか?」

心配そうに直江の顔を覗き込む。

「はい、もう熱も下がったみたいです。昨日はずっと看病してくれていたんですね。本当にすみません」

いつもの直江だった。

「昨日のこと覚えてるか?」
高耶の様子が明らかにおかしいことに気づく。

「昨日…ですか?
実は洗面台に立ってからの記憶が全くないんです。
もしかして…何か…したんですか?私」

その顔は演技ではなさそうだった。本当に昨日のことは覚えてないらしい。

「おまえ昨日…」

「昨日?」

直江の顔色が蒼白に変わる。何をしたのか覚えていないことほど怖いものはない。普段、理性的に過ごしているだけに熱を出したときの自分の行動に自信がない。

もしかして…この人に何かしてしまったんだろうか。
最後の審判のように高耶の次の言葉を待つ。

「おまえ、むちゃくちゃ重かったぞ!このデブ!!」

「は?…」

「は?じゃねえ!
倒れたおまえを運ぶのにどれだけ苦労したと思ってんだ!!!
あんなところに放っておくわけにもいかねえし、ベッドまで運ぶしかねえだろ。おまえは俺よりデカイんだから倒れた後のこととか考えろ!!
だいたいぶっ倒れるまで体調悪いこと隠して我慢してんじゃねえよ!!
俺がどれだけ心配したと…」

最後まで言い終わる前に直江は高耶の腰を引き寄せ力一杯抱きしめた。

「心配かけてすみません」

肩に埋められた直江の顔がまだ少し熱い。

「バカだよおまえはほんとに」

-----大バカだ

昨日の直江が頭をよぎる。小さくて震えていた直江。28年間誰にも頼らずに一人であの暗闇を抱えてきたかと思うといたたまれなくなる。それでも今の直江はそのことを隠して何事もなかったかのように振る舞おうとしている。

おまえを助けたい
おまえを苦しみから解放してやりたい
おまえを楽にしてやりたい

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