炎の蜃気楼/直江受

□鎖の代償
1ページ/1ページ

「さわる…な!!触るな!
俺にさ、わるな!!」

「直江様、私です。八海です!」

体じゅうに痛々しい包帯を巻いた直江はベットから転げ落ちるように男から逃れる。

「来るな!!来るなぁぁぁぁ!」

錯乱状態の直江の腕を掴むと、自分の胸に引き込んだ。

「私が油断してしまったからあなたをこんな目に合わせてしまった。すみませんすみませんすみません」

「はな…せ、放せっっ!」

直江の体は恐怖で硬直し、ひどく冷たかった。震えが止まらない体を八海は力の限り抱き締める。

直江が織田に捕らわれたのは一週間前。直江が景虎の弱みだと知った信長は直江を捕らえた。
しかし、景虎は直江を見捨てるという形で上杉を守る決断をせざるを得なかった。長秀と晴家は強く反対したのたが、景虎は直江を見捨て織田を討つことにした。

八海は直江を見捨てることがどうしてもできず、景虎達が織田に攻撃をしかける前日に忍び込んで直江を助けたのだ。

八海が直江を発見したとき、直江は織田の家臣から激しい暴行を受けたらしく、服はボロボロに裂け体中傷だらけだった。直江本人は痛みのためか気を失っていた。

「直江様…」

あなたをこんな目に合わせるために景虎様にこの人を渡したわけでない。



八海はあの日、愛する直江を景虎に委ねた。それは直江が景虎を愛し、景虎も直江を愛していると思ったからだ。直江の幸せを考えると、自分が身を引くことが当然だと思った。

直江は景虎と幸せにしているものだと信じて疑わなかった。というよりもそう思わないと自分の気持ちがぐらついてしまうからだ。

しかし、景虎は織田を討つために直江を切り捨てたのだ。

−−−−あの人はやはり直江様よりも使命のほうを選んだ。

自分が景虎から切り捨てられたと知ったとき、直江の気持ちはどれだけ絶望しただろうか。考えるだけで辛い。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ