炎の蜃気楼/直江受
□告白の予感
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「高耶さん、進級おめでとうございます」
学校近くの喫茶店で直江信綱は幼なじみの仰木高耶とコーヒーを飲んでいた。
直江と高耶は家が隣同士で小さい頃からのつき合いだ。
11歳年上の直江は高耶をとてもかわいがり、高耶も直江を兄のように慕っていた。
直江が年上なのに高耶に対して敬語なのは直江の癖らしく、高耶もそれをごく自然に受け入れていた。
最近は直江の仕事が忙しくなかなか会えなかったが、今日は2週間ぶりに会う。
直江はそっと高耶に用意していた花束を渡す。高耶は照れたように花束をぶっきらぼうに受け取った。
「花とかいっつも大袈裟なんだよ!進級くらい皆するだろ。おまえ、俺のこと相当バカにしてるだろ」
「いやいや、バカにしてるなんてそんな…多少、物覚えが悪いと思ってるくらいですよ」
「おーまーえーなぁ、それをバカにしてるって言うんだよっ!」
高耶は拳を高く掲げ直江の頭を殴る。
「まぁ、でもあの素行の悪かったあなたがここまでまともに成長してくれたことが私は本当に嬉しいですよ」
殴られた頭をさすりながら直江は高耶を優しい瞳で見る。
高耶はその直江の真摯な眼差しに照れてそっぽを向く。
「別にんなしみじみ言うなよ。昔のことだろ」
直江はそのぶっきらぼうな高耶の横顔もかわいいと思いながら、また眼を細めた。
高耶の両親は高耶が小学生のときに離婚して、妹と共に父親に引き取られた。
しかし、父親は酒浸りで暴力を振るい手がつけられなく、高耶は幼い妹を守るために殴られ役に徹していた。
中学のときそんな父親に嫌気がさし、高耶は寺で養護施設を経営している直江の家に妹を預けると家に帰らない日々が続いた。
高耶は街でも評判の悪い不良グループとつるむようになり、毎日喧嘩に明け暮れていた。
たまに美弥の様子を見に来ると、傷だらけの高耶を見て直江は心底心配し、気にかけた。
「高耶さん…もう危険なことはやめて下さい。あなたに何かあったら妹の美弥さんはどうするんですか?」
「…美弥を預かってもらってて悪いと思ってる。でも、おまえには関係ないことだ。俺に関わるな」
心配する直江に高耶はイライラをぶつける。
「おまえにはわかんねぇよ」!!」
「高耶さん…!!」
高耶さん…
あなたに何かあったら私も耐えられないんですよ…。
直江は高耶に払いのけられた手をじっと見た。