炎の蜃気楼/直江受

□弱み
5ページ/21ページ

「あなたは知りたかったんでしょう?28年間俺がどうやって生きてきたのか」

高耶の喉がゴクリと鳴る。直江は口の端を少し面白そうに歪ませた。

「おまえ…昨日のことなんか覚えてないって…」

「ええ、覚えていませんよ。でも、あなたの動揺っぷりを見たら嫌でもわかってしまいます。あなたは嘘がつけないですものね」

「なに言って…」

「俺の病気が出たんでしょう?あなたと再会してから出ることはなかったんですけどね」

「びょう…き…?」

直江は高耶の腰を自分のほうに引き寄せた。

「30年前に犯した罪に苛まれ、あなたを探しては見つからず絶望しどうしようもなかったあの頃、毎晩あなたが夢に出てきました。夢であなたは俺を許さないと激しく責め立て去っていく。俺はあなたを追いかけるけど、絶対に追いつけない」

直江が小さく震え出す。
腰に添える手に力がこもる。

「なお…」

「飛び起きるといつも現実か夢なのかがわからない。夢の続きであなたを探して半狂乱で外に出る。そして家族に連れ戻される」

直江は自嘲気味にためらい傷を触った。

「毎日が地獄でした。生きているのか死んでいるのかわからなかった。いくら手首を切りつけても痛くない。あなたとはもう会えないかもしれない。そう考えただけで頭がおかしくなりそうでした。いや、あの頃は本当におかしかったのかもしれない…」

壮絶な過去を感情のない声で淡々と話す。けれど、その声とは裏腹に直江の震えは止まらない。

高耶の言葉が出てくるのを恐がるように直江は言葉を続けた。

「あなたと再会してからその恐怖は影を潜めたと思っていました。けれど、あなたは俺のことなど全く覚えていない。無意識にあなたは俺を責めたてる。俺の恐怖はまだ終わってはいなかったんです」

「おまえ…」


高耶の言葉を塞ぐように、直江は高耶に唇を重ねた。
「…なお!!!」

息もできないほどの強引な口づけ。舌を絡め、下唇を軽く噛み、そのまま再び深く口を塞ぐ。

「やめ…!」

逃れようとしても逃れられない。逃げようとすると執拗に直江の唇が追いかけてくる。その激しさに高耶の目の端からは涙が滲む。

なん…でこんなこと…?


いや…だ!!

ガリッ!

「…!?」


咄嗟に直江は高耶から唇を離した。直江の唇が切れて血で出ている。

「乱暴じゃないですか。歯で噛み切るなんて…」

息が乱れて悔しさで涙が出る。シャツの前側を持ったまま高耶は直江を睨んでいた。

「悪ふざけもいい加減にしろ!」

直江がピクリと反応を示す。

「あなたはこれが悪ふざけだというんですか?」

「そうだよ!それ以外に何の理由があるんだよ!こんな…こと!!」

高耶は手の甲でさっきまでの激しい行為をなかったことにするように拭った。

「あなたにとっては悪ふざけかもしれない…でも、俺は違う」

直江の握った拳が震えていた。そして、決心したように高耶をまっすぐ見据えた。

「あなたを愛している」

次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ