炎の蜃気楼/直江受

□弱み
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直江は微熱がまだあるので、大事を取って二人でもう一泊することにした。
直江はもう大丈夫だからというが、直江の大丈夫は信用ならない。帰ることを許せば自分を松本まで送ってそのまま、また体調を崩して倒れてしまうような男だ。

もう、俺のいないところでは倒れてほしくない…。

ホテルの近くのコンビニで買い物を済ませ部屋に戻ると、直江は静かにベッドで眠っていた。

また昨日のように錯乱して外に出たらどうしようかと思って足早に帰ってきたのだが、杞憂に終わったようでほっとする。

食欲のない直江にみかんの缶詰とスポーツドリンクを買ってきた。冷蔵庫に入れようとすると高耶の携帯が鳴った。

「おぅ、リサか。どうしたんだよこんな休みに。」

直江を起こさないように、なるべく部屋の隅でひそひそ声で話す。

「あ?今?今は無理だな。県外にいるんだ。旅行?違う違う。ちょっと用事があって。ああ、うん。再来週なら空いてるけど?ああ、わかった。またな」

携帯を切って向き直ろうとした瞬間、長身の男と間近にぶつかる。

「いてっ…!!」

直江が目の前にいたのだ。
「直江?すぐ後ろに立つなよ。びっくりすんだろ!」

逆光でよく見えない直江の表情だったが、ひどく苦しそうな気がした。

「おまえ寝てろよ。なんでここに…」

「誰…ですか?」

苦しそうに直江は言葉を吐き出す。

「は?何が?」

「電話ですよ」

高耶にはさっぱり状況が掴めないが、直江があまりにも真剣に聞いてくるので圧倒される。

「誰っておまえの知らない奴だよ。中学のときの同級生」

「どこか行くんですか?」

「どこかっておまえに関係ないだろ?」

直江に部屋の隅に追いやられる。後ろは壁でもう後がない。

「関係な…い?」

またあの苦しそうな顔をして、高耶の顔を間近で覗き込み壁に手をつく。

「ただの同窓会のセッティングの話するだけだよ!幹事!幹事なんだよ俺ら!」

直江の言動にイライラしながら話す。

「おまえ熱で頭おかしいんじゃないか?同級生としゃべってただけだろ?なんでいちいち言わなきゃならないんだよ」

「関係…ありますよ…」

「なんでだよ」

答えを出す前に高耶を抱きすくめる。

「景虎様…
昨日の夜、私の秘密を知ってしまったでしょう?」

高耶はハッとして直江の顔を見ようとしたが、抱きしめる力が強くて身動きが取れない。

直江は高耶の耳元でひどく冷静に話し始めた。


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