text

□程度
1ページ/4ページ










「兄さん、困ります…――それは…――はい…分かりました…。」

真田は肩を落として電話を切ると隣で書を嗜んでいた柳がくすりと笑った。

「またお兄さんか、弦一郎。」

柳は今日は真田に書を習う日だった。
だからこうして真田の家に柳はお呼ばれしていつものごとく真田の自室で教えてもらっていたのだが突然掛かってきた電話でそうはいかなくなったのだ。

「ああ…。甥の佐助君をうちに預けるからと言われてな。…もうすぐ着くらしい。」

「そうか。じゃあ今日の書道はお預けだな。」

すまないと真田は謝ると至極残念そうにため息をつく。
別に甥っ子の佐助が嫌いな訳ではないが真田はどうしても柳との貴重な時間を潰された感じがして何処か苛立った。
柳は特に気にした感じもなく直ぐに道具を片付けていく。
暫くして玄関先からチャイムが聞こえてきたので真田は柳にちょっと待っててくれと言って部屋を出て小走りで玄関先へと向かった。



ほどなくして真田と甥っ子の佐助が部屋に戻ってきた。
真田の顔は何処か不満げなのが見て取れて余程柳と二人で過ごしたかった事が伺える。
思わず柳は口元がにやけそうだった。
真田は後ろにいる佐助の背を押して柳の前に出すと

「佐助君、ちゃんと挨拶せんか。」

とまるで父親のような姿に柳は面白みさえ感じてしまう。

「うるさいな、おじさん。分かってるよそれ位。」

佐助はまだ真田の事をおじさんと呼んでいるらしい。
甥っ子なのだから立場的に真田はそうかもしれないが流石に中学生でおじさん呼びは真田も嫌と感じているだろう。
そんな事を柳は考えていると佐助はペコリとお辞儀をしてこんにちはと言う。
柳もこんにちはと返して真田をチラリと見れば眉間に皺を寄せて腕を組んでいた。
相当苛々しているらしい。
柳はそれを見て少し楽しくなり真田を少し苛めてやろうと考えた。

「佐助君、随分大きくなったね。」

「そうかな…?蓮二兄ちゃんは変わってないね。」

柳は何度か佐助に会っている。
蓮二兄ちゃんと呼ばれはじめたのはつい最近の事だ。

「はは…そうか。佐助君、今日は何して遊ぼうか?」

柳は座っていた腰を上げて佐助の頭にぽんと手をやりそのままくしゃりと撫でた。
いつも真田にしてやっている事を佐助にやってやると視線を感じた為に見やれば明らかに真田の眉間の皺が増えていた。
柳は面白くなりこれからどうなるかが楽しみになっていく。
ちなみに柳は真田を完全に無視していた。

「んー…じゃあかくれんぼがいい。おじさんが鬼で、蓮二兄ちゃんと僕が隠れる方。」

「分かった。じゃあちゃんと隠れないといけないな。鬼に見つかると恐いぞ?」

柳はふっと微笑めば途端に佐助君はやったと楽しそうに柳に抱きついた。
柳は勿論これも計算通りで笑いがこみあげてきそうになるも寸での所で我慢する。

「…やるならさっさとするぞ。俺が鬼なのだろう?…早く隠れんか。」

真田は苛々も限界のようで二人をを睨んでいる。
柳は思った通りの反応に自然と笑みが零れた。
しかし同時にやりすぎた感が否めない。
真田は確実に嫉妬をしている。
見え見えの嫉妬。
同時に無視されている事で多少は傷ついているはずだ。

「蓮二兄ちゃん、早く隠れよう?」

柳の服の裾を佐助が引っ張るので柳はすまないと言って佐助の手を引くように部屋から出ていった。
出ていく間際に柳は真田の顔を見やると苛立ちとは別に酷く哀しそうなそれでいて寂しそうな顔をしていた。






次へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ