text
□懸念
1ページ/1ページ
授業が終わり今は休み時間。
みんながみんな疲れたや時間が長く感じるなどと言い出して授業中の静けさから一変して周りが騒がしくなった。
真田は授業のノートをざっと見直して机の中にしまい次の授業の準備をしようとした時にふと近くで下世話な話をしている同じクラスの男子達の会話が耳の中へ入ってきた。
少しは自重してほしい。
何故ああも大声で猥談が出来るのか不思議でならない。
『やっぱ女は胸がデカい方がいいよな〜。』
『マジで!?俺はむしろ小さい方がいい。』
嫌でも耳に入ってくるはしたない話に真田は耳を塞ぎたくなった。
早く休み時間が終わればいいのにと思った矢先に意外な人物の名前があげられたのでそうはいかなくなってしまう。
『そういや、F組の柳蓮二ってさ、あいつむっつりだよな。俺前一緒のクラスだったんだけどあいつさ〜…』
『ああ〜あの目ぇ閉じてるみたいな無茶苦茶頭いい奴?あいつ確かに口数少ねぇけど本当かよ?』
『そうそう。一回エロ本見せたんだけどよ、あいつ顔を真っ赤にしてどっか行きやがった。』
ギャハハハと笑いが起こる。
聞いていれば失礼にも程がある。しかし何故だか心がズキンと痛んだ。
酷く憤りを感じ一発殴ろうかと席を立ち上がろうとした途端に授業始めのチャイムが鳴り響く。
仕方なく真田は怒りを静めて平静を取り戻すも授業中ずっと落ち着かなかった。
放課後に柳といつものように帰っていると柳がどうしたんだと聞いてきた。
どうやら真田の異変に気付いたらしい。
いつも一緒にいるのだから当然と言えば当然なのだがいざ今日の出来事を話すとなると気まずい。
「…弦一郎?」
「あ、あぁ…すまない。大した事ではないのだが…。」
真田は正直に言おうか迷ったが隠し事が嫌いな為に意を決して柳に話す事にした。
「蓮二は…その、女子に興味がある、のか…?」
「え?」
「今日クラスの奴らが昔蓮二に低俗な雑誌を見せたらお前は顔を真っ赤にしてどこかへ行った、と話していたのだ。」
柳は顎に手をあてて考えた後、あああの時かと思い出したらしいが隣の真田は悲しげな顔をしていて柳は焦って直ぐに事の素性を話す。
「弦一郎、それは違うぞ。確かに見せられたのは事実だが顔を真っ赤にしたのはその雑誌の端の方に映っていたAV男優がどこかしら弦一郎に似ていてな。不甲斐ないがお前と重ねてしまって顔を赤くしたんだ。」
まああんなふしだらな男と弦一郎を重ねる俺は最低だなと続けた。
「そう、だったのか…。」
柳は不安にさせてすまなかったと謝ると真田はほっと胸を撫で下ろした。
もしここで実は女に興味があるなどと柳が言えば今頃は泣いている所だ。
「俺はあんな誰にでも股を開き貞操概念がない女になど興味はない。弦一郎、俺はお前だけが好きなんだ。」
「蓮二…。」
「それは一番お前が分かっているはずだが…まさか俺を信頼していないのか?」
真田はたわけがと叫んで柳の頭に軽く拳骨をくらわせた。
柳は痛そうに頭を押さえてすまなかったと笑う。
「冗談だ、弦一郎。」
「お前の冗談は冗談に聞こえん。」
つんと冷たくなった真田の頬にキスを落として機嫌を直してくれと囁く。
柳の不意討ちに真田は耳まで顔を赤くし見られていないかキョロキョロと辺りを見回した後柳にまたたわけがと叫ぶ。
今度は流石に拳骨を食らうのは御免な為幾らか柳は距離を取っていた。
「蓮二!!!お前は何故いつもこのような人目につく所でそのような事が出来るのだ…っ!!!少しは場所を考えんか!!!」
「だからいつも言っているだろう?弦一郎が可愛いからしたくなるんだ。俺のキスを弦一郎が好きな確率…―――」
「蓮二っ!!!」
真田は自分をからかう柳に向かって拳を振りかざした。
それと同時に柳は笑って真田から逃げていく。
「ま、待たんかっ!!蓮二っ!!」
後を追うように駆け出す真田はどこか楽しげで幸せに満ちあふれていた。
柳のキスを真田が好きな確率100%