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□融解
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部活が終わり次々と部員達が部室を出ていく。
幸村が部誌を書き終えてお疲れ様と出ていく時には部室には柳と真田の二人きりになっていた。
ああ何とありきたりなシチュエーションなのだろうと考えながらレギュラー陣のデータをまとめていく。
真田は隣で柳がデータをまとめ終えるのを待っていた。
当然恋仲であるがゆえに真田は一緒に帰りたいのだろう。
自分のために待ってもらっていると思うと何だか申し訳ない。

ざっとだがデータをまとめあげたものの終わった頃にはもう外は少しばかり薄暗かった。
ふう、と息をつく。

「終わったのか?」

「ああ。待たせてすまない。」

「うむ。では、帰るか。」

二人きりなのだからせっかくだしもう少し居ようとは言えない。
滅多に二人きりになる事はないのだから柳は今の状況を楽しみたいところ。
さて、どうしたものかと考えているとふと閃いた。

柳は弦一郎と呼ぶと何だと言った風な顔でこちらを見ている。
柳は軽く手招きをすれば素直にこちらへとやってきた。
柳は微笑みながら自分の太股をぽんぽんと叩く。
何のことか分からない真田はきょとんとしている様子で、ここに座れという意味を伝えれば一気に顔が朱に染まった。
そんな初な反応がまた可愛らしい。

「俺の膝の上に座るのが嫌なのか?」

わざといじらしく言ってみれば少しムッとした顔でそんなわけなかろうと恥ずかしがりながら柳の膝の上に跨るように座る。

「…これでいいのだろう?」

真田は慣れない体勢のせいか柳の制服をぎゅっと掴みどこか落ち着きがない。
赤くなった顔を隠すように帽子を目深に被る真田の腕をとって優しく指を絡めれば真田は柳の一連の動作をじっと見つめていた。

「弦一郎の手は暖かいな。」

「そうか。蓮二の手は少し冷たいが心地がいい…。」

そんな事を言いながら柳は真田の頬に手をあてる。
その頬はとても暖かなものであり真田は最初こそ冷たさで肩が跳ねたが柳のひんやりとした手が徐々に気持ちよくなったのか目を閉じてふっと笑う。

「気持ちいいか?」

「ああ…。」

柳は自分が言った事なのにも関わらず変な事を想像してしまった己を浅ましく感じた。
今それを言ってしまえばたわけと言われて殴られるだろうなと考えているうちに真田は再び目を開けて柳を見つめる。
その瞳はどこか熱っぽい。
そして何よりそんな真田が物凄く色っぽかった。
そんな真田に柳はたまらなくなり真田との距離を一気に詰める。
いきなりの事でビクリと震える愛しい人。
皇帝なんて呼ばれてはいるもののまるで嘘のようにか弱く見えてしまうのは自分だけだろうか。
柳はもう鼻が触れ合うのではないかという程の距離でいいか?と囁くと真田は微かに潤んだ瞳をゆっくりと閉じた。
それを肯定と受け取った柳は真田の唇に自分のそれを優しくそっと重ねる。
同時に真田が被っていた帽子をとり机の上に置いた。
真田の唇は女性のように柔らかくもないが肉厚で唇が触れ合った時の感触がたまらない。
名残惜しげに一度軽いリップ音と共に唇が離れれば真田はもっとしてと言わんばかりに柳の首に腕を回してきた。
いつもなら恥ずかしいからやめろなど言って拗ねてしまうのだが今日の真田は違う。
二人きりだからだろうか。
勿論そんな詮索をしている余裕など柳にはなくいつもと違う真田に興奮してもう一度唇を重ねていたのだった。
今度は何度も角度を変えながら深く真田の唇を味わい薄く開かれた口内へと舌を忍ばせれば無意識なのか柳の舌に遠慮がちに絡めてくる真田の舌。
舌と舌とが淫らに絡み合いどちらとも分からない唾液が真田の口の端を伝う。
厭に響くキスで生じる水音がより一層お互いを煽り無我夢中でがっついた。
真田の時折苦しそうに…しかしどこか気持ちよさそうに鼻から抜けるような声が何とも色っぽくて柳の理性は空前の灯火。
唾液を掻き混ぜ合うような濃厚な口付けはお互いをとろけさせるのに充分過ぎる程である。

長くて深い濃厚なキス。
一度唇を離せば二人ともまるで走った後のように息を切らしていた。

「…っは…弦一郎…。」

真田の口の端に流れる唾液を指の腹で拭い柳は真田の腰に緩く手を回して好きだと囁いた。

「…蓮二…。」

その囁きは真田の体を痺れさせ陶酔させる甘美な囁き。
真田は柳にもう一度、今度は自分から唇を重ねるも直ぐに離れていく。
その魅惑的な唇は俺も好きだと紡ぐ。
真田も柳と同じ気持ちで柳の事が好きで好きで仕方なかった。

「このまま二人で一つに溶け合いたい気分だ…。」

そんな柳の呟きが聞こえないはずもなく真田はくだらんな、と自分の額を柳の額にコツンとあてる。

「くだらんが…俺も蓮二と一緒の気持ちだ。」

「弦一郎…」

愛している。


たわけがと羞恥で目を瞑る真田に柳は腰に回す手を一層強めた。





嗚呼、このまま一つに溶けてしまえばいいのに。
 

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