ツンデレ

□ツンデレ
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放課後の運動場。
野球部の掛け声とボールを打つ度に金属音とが響き、いつもと変わねぇ平和な時間が流れてる。

「覚悟しなさい!!早乙女乱馬!!」

「へいへい」

「くぅぅぅっ!!またアタシをバカにしてるわね!!」

オレとコイツ以外は。と補足しておこう。

「してねぇよ」

今回で何回目になるんだ?と考えながら適当に答えてると、怒りに油を注いだのか敵意を剥き出しで構えている拳が、今にも飛び掛かりそうになる。

「もういいだろ?今回で何百連敗だ?」

「う、うるさいわねっ!!アンタに勝つまで終わらないわ!!!!」

「じゃあオレの負けでいいよ」

「くぅっっ!!!!そうやっていつもいつもいつも……。」

オレはその場から去ろうと、背を向けると背後からブツブツと呪文を唱えるように同じ言葉を連呼し始め、それと同時に異様なオーラを放った。

「わぁったって!!やるからっ!!!そのかわり負けても再試合なしだぜ」

「構わないわっ!!かかってきなさい!!」

なんで戦いを挑まれてる方が先に仕掛けなきゃならんのだと思いながらも、渋々軽く宙返りして向き合った。

「じゃあ行くぜ、あかね!!」

「望むところよっ!!!!」

一気に気を引き締めて、相手であるあかねに仕掛けるフリしてバックを取って蹴り出すと、わかっていたと言わんばかりにかわされ空を切る。

「甘いわっ!!」

「………甘ぇのは、おめぇだよっと」

「きゃっ!!」

そう来るとわかっていたオレは、蹴りをかわして気が緩んだあかねの背後を取り、両肩を掴んだ。

「はーい、あかねの負けぇ」

「ちょっ!!まだ……!!!」

「バーカ。肩まで掴まれたらもう負けだ。往生際が悪ぃな」

「痛っ!!!」

勝敗がわかりきっていたのにムキになって挑むあかねが可笑しくて、笑いながらおでこにデコピンすると下を向いてプルプルと震えだした。

「ん?どうした?」

「さ、さ、早乙女乱馬のばかぁぁぁぁ!!!!」

「ぐぇっ!!」

気の抜けた声と殴られた痛みで頬に手を当ててしゃがみ込んでうずくまり、暫くして顔を上げた。

「いてぇじゃねぇかぁぁぁ!!!あかねぇぇぇ!!……て、おい」

目には遠くに走っていくあかねの背中だけが見えて、オレの叫びは虚しくも独り言となっていた。

「おいおいおいおい!!!なんでだよっ!!!」


このふざけた戦い。
それは高校に入学してすぐ始まっていた。



オレは無差別格闘早乙女流を継ぐ者として幼い頃から鍛えている。
誰にも負ける気もしねぇし、将来は格闘家だ。
それは周りも知ってることだから、オレにケンカの勝負を挑むバカなヤツはいなかった。

「アンタ、早乙女流らしいわね。アタシと一本やらない?」

「は?誰だ?」

「アタシは無差別格闘天道流、天道あかねよ!!覚悟しなさい!!」


まさか高校に入学してすぐケンカを売られた挙句、相手が女なんて思いもしていなかったオレは驚いて断る間もなくいると、突然飛びかかってきた以来、今に至るわけ。
高校3年になった今まで、オレはあかねと戦い続けているのだ。




「なんつぅ凶暴な女だ……。」

あのパンチで勝ったことにしてくれりゃいいんだと言いたい時にはいつもいねぇ。
殴られ損もいいところだ。

「おーい、乱馬。天道との愛瀬は終わったか?帰るぞ」

「うるせぇ、どこに愛を感じた?オレは殴られてんだぞ」

悪友のヒロシが呑気に現れ、担いでいたオレのカバンをぽいっと投げ渡した。

「サンキュ」

「それにしてもお前ら、変わった愛の表見だな」

「だから、言ってんだろ?聞いてんのか?オレは迷惑してんだ」

受け取ったカバンを担いで、ヒロシをジロっと睨んだ。

「おいおい、そんな事言ったら、天道の親衛隊が襲ってくるぞ。天道の親衛隊にはかなりの人数が在籍してるってウワサだぜ?それも、お前ら、3年になって同じクラスだろ?絶対に監視されてるぜ」

「あほらし……。あんな凶暴な女の何処に魅力があるのかわかんねぇ」

他人のウワサ話を楽しげに話すヒロシと下校しながら、オレを心配というより何かトラブルがあって欲しそうな意地の悪ぃ顔をした。

「そうだ。お前さ昨日告白された1年の娘どうしたんだ?」

「なっ、なんで知ってんだ?」

「俺を騙せれると思ってるのか。昼休みに呼びだしされてんのは調べ済みだぜ」

んっと、コイツには隠し事が出来ねぇ。
昔っからオレの動向を手に取るようにわかってるのが腹が立つ。
どうせオレが断ってるのを知ってるクセに聞くんだ。

「……断ったよ」

「は?マジで?お前さ、誰だったら付き合うんだ?」

「うるせぇ」

「やっぱり天道か?」

「それは無い。きっぱり言える」

そう、ヒロシは天道あかねに話を持っていきてぇだけ。

「あんなにカワイイのにねぇ……。何が不満なんだ?」

「不満もなんも、アイツがオレを好きだなんて聞いたこともねぇし、オレだってそうなんだよ」

「そうか?お前ら、合ってると思うけどなぁ」

「勝手に言っとけ」

あかねはオレとは真逆で絵に描いた優等生で、生徒会長も務める学校じゃかなりの有名人だ。
綺麗な長髪に整った美人の顔立ちというより、クリッとした大きい瞳に少し目尻の少し下がった幼顔で、黙って座ってりゃ思わず見入ってしまうぐらいだ。
ただ、そんなあかねにいつも決闘を申し込まれているオレには、アイツの怒ったような顔しか知らねぇし、黙って座ってる顔も同じクラスになるまで知らなかった。

「確かに優等生と劣等生じゃ、釣り合わねぇな。ハハ」

「おい、劣等生は言い過ぎた。アイツがクソ真面目なんだよ」

「はぁ?お前既に夏期講習内定者だろ?中間で言われるって相当だぞ」

「うるせぇ、オレは格闘家として生きてくんだ。生き物の生態とか難しい古書なんざ読めなくても生きていけるんだっつうの」

「お前が夏期講習してる間、俺がヒマなんだよ」

「そっちかよ。だったらお前も受ければいいじゃねーか」

「そりゃ勘弁だ。天道が教えてくれるんだったら別だけどな」

「なんだ、お前ってあかねが好きなのか?」

「嫌いな男はいないんじゃないか?付き合いたいって贅沢はいわん。でも、仲良くしたいって思うだろ」

「………そんなもんかね」

「そんなもんだ。おっと、じゃあな」

ヒロシと帰る方向が変わる、いつもの曲がり角にさしかかると、肩をポンッと叩かれた。

「おう、また明日」

「そうそう、明日の体育は水泳だから水着忘れんなよ」

「サンキュ」

軽く手を挙げてヒロシと別れ、夕方だというのに暑さが残っている家までの道のりをゆっくり歩いた。

"あっちぃな"

自然と浮かぶ言葉を、まだ日の照る空に浮かぶでっけぇ雲を眺めて呟いた。
夏は嫌いじゃねぇ。
この季節は、何かが待ってそうな期待でワクワクすんだ。
だからといって、いつも何かがあるわけじゃねぇんだけど、毎年思わせる何かがある。

それも高校生活最後の夏――
そう感じると、この暑さも気持ちいい。



今年はきっと何かがまってるんだ━━━━









「ねぇ、今日もするわけ?もう諦めたら?」

「いいの!!どうしても勝ちたいのよ!!早乙女乱馬にっ!!」

「ムキになっちゃって……。昨日も負けたんでしょ?」

「これは、格闘家としての宿命なの!!」

「あっそう」

昼休み、アタシは友達のさゆりに呆れた声でいつもの会話をしていた。
いつも。そう、いつもさゆりはアタシが早乙女乱馬に勝負を挑む事を諦め半分に止めてくる。

「さゆりにはわかんないのよ!!くやしいのっ!!」

「わかったって。勝ちたいのよね」

それにいつもムキになって手に持っているお箸を強く握りながら、訴えては慰められる。というのがお弁当を食べながらの会話の一つ。

「あんなにカッコいいのに、ライバルとしか見れないなんて……もったいないわ」

「かっこいい?どこが?」

「そ、そんなに真面目な顔して言われても……ねぇ。あーあ。あかねが男に少しでも興味持ってくれたらなぁ。男性諸君たちと遊びに行けるのに……。」

「え?たまに行ってるじゃない」

「うーん。たとえば夜遅くまで遊んだりとかね」

「な、なに言ってるの?そんな事出来るわけないでしょ!!アタシ達はもっと他に……。」

「わ、わかったから」

それ以上はゴメンだと言わんばかりに、さゆりはアタシを止めてため息をついた。

「んんっ」

それに納得いかないのに、ため息なんてつかれちゃそれ以上何も言えなくて、口籠りながらさっきからさわがしいクラスメイトに目をやった。

「……。」

そのグループには、いつも必ずあの早乙女乱馬がいる。机の上に座って大柄な態度に腹が立って今にも注意してやりたいっていうのに!!!
ホント、なんであんなヤツに負けちゃうの?


アタシが早乙女乱馬を知ったのは、この学校に入る前の事。


アタシは無差別格闘天道流の家に三人娘の末娘として産まれ育った。
でも、小さい頃から鍛えていたのはアタシだけで、格闘に興味のなかった姉ちゃん達じゃなくアタシが道場を継ぐんだって思い続けてきた。
お父さんだって、そのつもりだと口癖のように言ってくれている。
だから、天道家の名に懸けて強くあり続ける為に毎日稽古をしてきたアタシは、誰にも負けたことがなかった。

もちろん、高校生になっても負ける気はしなかったのに……。

同じ高校に強いヤツが入ってくるって聞いて、すぐに戦いを挑んだ。それが早乙女乱馬なのだ。


でもその戦いは、あっさりと終わった。

圧倒的なアタシの負けで……。




「あかね、そろそろ行こうよ。次プールよ。着替えなきゃ」

「あ、うん」

「あぁ、やっとプールの季節ね」

「……。」

さゆりに急かされ、慌ててお弁当を片付け水着の袋を手に持って教室を後にした。
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