☆中編

□○コラボ小説○love story
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「おい、待てっ!あかね!それは次に出す料理だっ」

「えっ?」

あかねがおれの声で振り向いた瞬間、トレーに乗ってた料理がぐらつき、おれは慌てて腕を伸ばした。

「危ねぇ!」

「すっごいっ!ナイスキャッチ!」

「ナイスキャッチじゃねぇよ」

おいおい、これで何回目だ?

今日も不器用って言葉を絵に描いたようなあかねのドジっぷりにおれは疲労困憊で部屋に戻った。

「あーっづがれだー」

あかねが先に部屋に戻って、準備してくれてた布団へ飛び込むように倒れ込んだ。

一日中、心配で目が離せねぇあかねを見てると、些細な事で急にマジメな顔したり、笑ったり、見てて飽きねぇんだよな。

「……」

夜だって、色んな意味で寝不足でこんなに疲れてんのに、なんであかねの事ばっかり浮かぶんだ?
アイツはただのバイト仲間だ。バイトも終わればそれ限り。それなのに……


「ただいまー」

布団の上でもやもやな気持ちのおれなんか知らねぇあかねが、風呂から戻ってきた。
おれはうつ伏せのまま顔を枕に埋めて、動かずに返事もしなかった。だって、こんな気持ちで石鹸の香りをさせたあかねの顔なんか見れるかっつうの!!

「らんま、今日もありがとね。いつも助けられてばかり。ホントごめん。怒ってるんでしょ?」

「…」

「ねえ、らんま?ごめんなさい。やっぱり怒ってる?」

「怒ってねぇよ」

「ウソ!」

「だから、怒ってねぇってば!」

「じゃあなんでこっち見ないの?」

「…」

「じゃあ、お礼するから」

いきなり身体に重みを感じたと同時に、あかねの香りがおれの身体を硬直させる。

「なっ?!」

布団の上で、うつ伏せのまま硬直したおれに乗っかるあかねがニコリと顔を覗かせた。


「おいっ!何すんだ?」

「いいから黙ってて!」

慌てるおれに、あかねの手がおれの背中を心地よい強さでマッサージを始めた。

んっ?上手いじゃねぇか…

筋肉の揉み加減とか、素人じゃちょっと痛てぇぐらいだけど、おれぐらいの筋肉だと丁度いい。

「気持ちいいでしょ?実は、実家が道場やってて、こう見えてもあたし格闘してるんだ。だからマッサージ得意なの。あっ!ここの筋肉凄い!らんまも何かスポーツやってるの?」

なるほどな……あの身のこなし方も、寝技もこれで理解出来る。

「あ、ああ。おれも格闘を…」

「やっぱり!?嬉しい!友達に格闘してる子いないから、話しても解ってくれなくて。そーなんだ。今度手合わせしたいな。さて、力抜いてね」

あかねは嬉しそうに話しながら、うつ伏せのおれの背中をふわっと抱き締めた。

え?なななっっっなんで??
ヤバイ!おれの心臓の心拍数、すっげぇ急上昇してるんですけどっ!!

「息、吐いて。せーのー!」

抱きついた腕をそのまま思いっきり起こして、おれはいわゆる海老反りになっていた。

「いでででっ!!」

「だから力抜いて、息吐いてって言ったのに」

思いっきり力入ってたし、息なんか忘れてたしっ!

「はいっ!終わりよ。これで許してくれない?」
 
少し困った顔して近付くあかねに、心を悟られる気がして目が合わせれなかった。

「わっわかったから!」

「よかったぁ!明日もしてあげるね」

「…」

「じゃあオヤスミ」

まじですか?あかねさん?
ラッキー!ってコラ!何考えてんだ!!おれはっ!!

明日もって、この状況を耐え抜けるのか?



その日以来、あかねはおれへのマッサージが日課になった。
それと同時に、あかねの態度も無防備になってくる。
二の腕がプルプルするとか言って見せつけられたり、太股が痩せないとか言って触らせたり、同性ならいいぜ?
おれは、男だ。あかねの柔らかいスベスベの肌を手で触るんだぜ?
男の姿だったら、おれのムスコがどうなってたか、考えただけでゾッとするぜ…


仕事中だって、何とか馴れたみてぇだけど、目が離せねぇ。
とか言いながら、仕事っぷりだけを見てるんじゃなく、あかねの全てが気になって目が離せねぇってのが、本音だ。客に笑顔で答えるあかねに、ニヤつく客が多いのなんのって。


「あっあかねちゃん!」

はぁ?またか。客のクセして馴れ馴れしいヤツだな。

「けっ!あかね。戻るぞ」

「ど、どーも」

おれは無視して厨房に戻ろうと、あかねに言うと気まずい顔してソイツに手を振った。

「やあ、あかねちゃん。今日も大変そうだね」

「お疲れ様です。今日もこれから滑りに行くんですか?」

「そーなんだ。やっと自由時間だからね。あかねちゃんも行く?あかねちゃんだったらセンスも良さそうだし、オレが指導すればすぐ滑れるようになるよ。スノーボード」

「バイトの身なんで、また機会が有れば是非…」

なんだ?なんだ?あかねのヤツなんですんなり受け入れてんだ?

「おい、早くしろよ」

「待って、らんま。すいません。失礼します」

あかねはペコリと頭を下げてのおれの後を付いてきた。
いつの間にあんなヤローと仲良くなったんだ?

「機嫌悪い?」

「別に」

「そう?」

あかねがおれの知らない所で、他の男と仲良くしてたって知っただけで、こんなにイライラしてしまった。
そして、あかねは女のおれしか知らねぇって事が、更におれをイラつかせた。





「ねえ、らんま。ストレス溜まってるの?」

「別に」

あたしは今日もらんまに、お礼を込めてマッサージをしている。ホントにスタイル良すぎて妬けちゃう。
らんまは何時もなんだかんだってあたしを優しくフォローしてくれる。どんなにドジをしても、本気で怒られた事がない。でも今日は目立った失敗をしていないのに少しピリピリしてた。

「そう?」

なんだか気不味い。あんまり触れてほしくないのかも。
あたしはそのまま無言でらんまのマッサージを続けた。

「なあ、あかね。お前なんでここでバイトしてんだ?」

「えっ?」

「話したくないんだったら別にいいけどよ」

「そんなんじゃないわ」

らんまからの質問って、凄く珍しくてマッサージしていた手も止まるぐらい驚いた。

「ここの旅館、友達の親戚が経営してて、ホントは友達が毎年働いてたみたいなんだけど、今年は彼氏が出来たから、彼氏のいないあたしに代わって欲しいって頼まれたの」

「…彼氏、いねぇんだ」

「好きな人、いたんだけど告白する前にフラれちゃった。今、その人はお姉ちゃんの彼氏なの。笑っちゃうでしょ?」

「…」

こんな事、誰にも言うつもりなかったのに、自然と口から出てしまった。それはらんまだからかもしれない。
らんまの背中に乗ってマッサージしてるから、らんまがどんな表情をしてあたしの話を聞いてるのかわかんない。それでも、少しだけ楽になった気がする。

「今、その、気になる人とか、い、いないのか?」

「いないわよー!恋はもういいや」

「…そうか、じゃあ、さっき話ししてた、あのウェア着てたヤツは?」

「あの人は友達のイトコで、スノーボードのインストラクターとして今はここに住み込みしてるの。慣れないあたしに優しくしてくれてるだけよ。ただ、ちょっとお誘いが多くて少し困ってるんだけどね」

「ホントか?」

「ホントよ。じゃあ、らんまはいないの?好きな人?」

「…秘密でぃ!」

「え〜あたしだけ?せっこーい!!」

らんまの秘密って言葉が、らんまらしくって、でもなんだか悔しくて、あたしはらんまに後ろから抱きつくように腕で首を絞めるフリをした。

「やっやっやめろって!!!」

「ダメー!教えてくれなきゃ止めないからね!」

「ヒミツって言ってるだろー!!」

「じゃー止めない」

「ばっばか!」

「格闘してるんだったら、あたしを倒せばいいじゃない?」

あまりにも口を割らないらんまに冗談混じりに、言ってみた。だって、あたしだって格闘してるしバックから、それも寝技のように押し倒してる訳だし、らんまの強さも少し気になってた。

「…いいんだな?」

「へっ?きゃっ」

なっ何が起きたの?

さっきまで、らんまの後ろから寝技のように押し倒してたのに、なんでらんまとあたしが逆転してるの?
しかも、腕を掴まれて動くことが出来ない。


「「…」」

「わ、ワリイ」

らんまは、掴んだあたしの腕を慌てて離して、あたしから離れた。

「お、おれ風呂入ってくるわ!」

らんまは下を向いたまま、急ぐように部屋から出ていった。


ら、らんまって強いんだわ!!

あたしなんか敵わないぐらい。
だって、あの体勢からあっという間に逆転してた。
なのに調子に乗って、あたしを倒したらなんて…。
らんまに嫌われてなければいいけど…




はぁ、あかねに悟られてねぇよな。

あれはマズいよな。

思わず部屋からとびだしたのはいいけど、戻らねぇと余計怪しいよな。
でも、流石にそろそろ限界だ。
女の姿だから大丈夫だとか思ってたけど、一瞬あかねを襲いかけてた。

おれってこんなに理性がねぇのか?!

言い訳じゃねぇけど、あかねに彼氏がいないって知ってほっとしたんだ。
サイテーにも、失恋したって聞いて嬉しいって思ったんだ。

あかねは男のおれを知らねぇのに……



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