☆中編
□キスの距離感
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「「‥‥」」
あかねは何も答えない代わりに、オレの腰に腕を回した。
「‥っ!」
それってあかねもこのままがいいって事だよな?
思ってたのと形は違うが、こないだの続きの話出来るチャンスじゃねぇの。
「あ、あかね。オレ‥」
「‥なぁに?」
俯いてたあかねは名前を呼ばれ、顔を少し上げ、オレを上目遣いで見た。
「だ、だから、その、話しを‥」
「ん?」
オレの声が徐々に小さくなってくのにつれて、話を聞こうと一生懸命なあかねの顔が近づく。
うっ、それは、その、く、唇がオレに近づいてるってわけで‥
「そ、そのだな‥‥」
「‥‥?」
あああっ、ヤベェ。なんも考えられなくなってきた。
それより、半開きになったあかねの可愛らしい唇に、ふ、触れてみてぇ。
なんで気付かねぇんだよ?って気持ちと、あとちょっとで‥‥って気持ちがオレの頭でぐるぐる回っちまって、結局どこかで期待しちまう。
「‥‥どうしたの?乱馬?」
見つめる口元が小さくオレの名前を呼んだ。
あっ。オレもう限界。
「‥あかね‥」
「えっ?‥‥あっ」
オレの態度にやっとこの距離に気付いたみてぇで、あかねの身体が少し強張った。
「‥‥いいよな?」
口元から、瞳に視線を移してあかねの答えを待った。
「‥‥」
あかねは何も答えねぇ代わりに、少しはにかんで潤んだ瞳を閉じた。
いいって事だよな?
やっと触れる事を許されたオレはゆっくりとあかねの唇のとの距離を縮めた。
「‥んっ!」
や、柔らけぇ。
そっと触れたあかねの唇が一瞬ビクンとなりながも、オレの腰に腕を回して身体を預けるあかね。
あかねを抱きしめるオレの腕にも、自然と力が入っちまう。
オレにも少し余裕が出てきて、あかねの唇の感触を楽しんだ。このままずっと触れときてぇ。
「‥うっ」
何故か息を止めてたあかねが苦しそうにオレの唇から離れた。
「あ、あの、苦しかった?」
「息するの、忘れちゃってた」
「は?ここで溺れる気か?」
あかねらしい、どんくせぇ所がおかしくて、ついニヤリと笑っちまった。
「なによ、もう」
照れながらもぷくっとほっぺたを膨らましながら、オレに少しだけ甘えるように服の袖をぎゅっと握った。
か、可愛すぎるぜ。
「ねえ?」
「な、なんだ?」
あかねはまたもや潤んだ瞳で見つめて首を傾げた。
もう一回の催促か?おいっ?オレは全然問題ないぜ。むしろ、もう一回したいぐれぇだからな。
「シャンプー帰ったんじゃない?声聞こえないよ」
「あっ」
忘れてたぜ。オレ、シャンプーに追いかけられてたんだったっけ?
言われりゃ耳を澄ましても声がもうしねぇ。
「ホントだな」
「じゃあここから出ようよ。そろそろ寝なきゃ」
「あぅ」
情けなくも、も少し期待してたオレを置いてあかねは襖の扉を開けてそそくさと出て、部屋からも出て行こうとした。
「あ、あかね?」
「なに?」
「あの、もう一回‥‥」
あー!あかねを止めてまで何言ってんだ。オレは!
でも、もう一回あの感触が確かめてぇんだ。
「‥‥後でね?」
「‥‥!!」
真っ赤にした顔を隠すように、あかねは視線を逸らした。
えっっ!まじですか?
今日朝まで二人きりですよ?あかねさん??
「ほ、ほんと?部屋に行っていいのか?」
「‥‥その代わりキスだけよ!」
「お、おうっ!当たり前だろ」
「じゃあ、アタシ部屋に戻ってるね」
「ああ」
強がった声のわりには、顔を赤らめたまま、あかねは部屋に戻っていった。
‥‥
‥‥‥
‥‥‥‥‥顔がにやけて止まんねぇ。
と、とりあえず、大きく深呼吸だ!落ち着けって。キスだけだぞ。でもあかねの部屋ん中でキスしていいって事だけ言ってて、一回だけなんざ言ってなかった。て事は‥‥
おい、待ってろよあかね!!
オレは握り拳を強く握り直し、勢いよく客間から出てった。
その瞬間‥‥
「きゃーPちゃん!お帰り!」
「ぶきぃー!」
そこには、P助があかねの胸に飛び込んでいく姿を目のあたりにした。
「なっ?」
りょ、良牙ぁっ!!
嘘だろ?!!!
「ごめん、乱馬。やっぱりまたでいい?」
「ぶきぃー」
あかねはP助をぎゅっと抱きしめて、オレの返事も聞かずにそのまま部屋に戻っていった。
「えっ」
ウソだろーーっ!!
覚えとけよっ!良牙ぁ!!あの、オジャマムシめぇ!!
次のチャンスはいつだったって?
そそそ、そりゃオレとあかねの秘密でぃ!