☆長編
□龍王 2
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始業のチャイムが学校に鳴り響き、テフテフ歩く先生と見慣れない制服を着た生徒が、乱馬達の教室に近づく。
「みんな静かに!」
がらりと勢いよくドアを開け、ざわつく教室にひなちゃんせんせーの声が響いた。
「静かにしない子はお仕置きですよ」
五円玉をちらつかせ威嚇した。今日はやけに張り切っている。
「おい、あかね。ひなちゃんせんせーやたら張り切ってねーか?」
頬杖していた乱馬があかねにぼやいた。
「ほんとね」
教科書をめくる手を止め、思い出したと小さく呟き乱馬を見た。
「そう乱馬、昨日真くんから電話があってね」
「なんだと?なんの用でい?」
最近忘れていた聞きたくない名前ナンバーワンである真の名前をあかねの口から聞き、ムッとした。
「今日から転校生が、やって来ます。さっ入りなさい」
ひなちゃんせんせーが、教室のドアを明けたと同時にあかねが笑顔でつふやいた。
「今日から真くん転校生してくるんただって、乱馬によろしくって」
"なっ、なにぃ"
「はじめまして、龍王 真です。よろしくお願いします」
低く透き通る声が教室に響き渡る。と同時に
「きゃーカッコいい!」
「アイツ少林寺の」
と、ざわめき始めた。ゆか達は目がハートになっている。やはり面白く無さそうに乱馬は真を見ようともしない。
"あかねのヤツなんで今頃言うんだ"
「静かに!龍王くんは他校から少林寺拳法の強化特待生として、来ています。みんな仲良くね、じゃあ席は・・」
ひなちゃんせんせーは辺りを見回し、乱馬の席の二つ前に空いていた机を指差した。
「あそこの席ね」
「はい」
指定された席に向かって歩き、座る手前で乱馬と目を合わせ
"よろしく"
と微笑んで席に座った。言葉には出さないが口元でわかる。
"なぁにが、よろしくだ"
真の後ろ姿を睨むように見つめた。
「じゃあ授業始めまーす。教科書42ページを開いて」
いつも以上に授業の内容なんか頭に入るわけなく教科書を立てて机に伏せた。少しの間ヤツの存在を忘れていたというのに。これからは、いやおでもあかねの行動範囲が気になる。それも毎日。
"あーめんどくせぇ"
あかねをちらっと見ると何事もなかったかのようにいつも通り授業に集中していた。その態度にもため息がでる。
"ニブいんだよ"
真が狙っている事も知らない張本人は呑気になもんだ。
キーンコーンカーンコーン
「はーい、今日はここまで!次の箇所は宿題ですよ忘れずにね。それと天道さん、ちょっといいかしら?」
名前を呼ばれて驚いたあかねは慌てて先生の所に駆け寄った。
"ん?"
「龍王くんもほら」
「はい」
呼ばれた真とあかねが並んで笑ってるのがつまらなく、頬杖をついて視線を反らした。
「へぇ、君たち知り合いなんだ」
「「はい」」
「調度いいわ、学校の中の案内してほしかったのよ。じゃあ行きましょう」
3人の行動をずっと見ていた乱馬に後ろから肩を叩いて大介とひろしが声をかけてきた。
「よう乱馬。まさかのライバル登場なんじゃねーの?」
「だぁれがあんなかわいくねぇ女の事心配するかってぇの!」
大介は乱馬の机に座り意地悪く突っ込んだ。
「あれぇ?誰もあかねの事って行ってないじゃん。拳法の達人としてライバルか?って聞いたんだけどな」
一枚上手の大介にはめられた乱馬は、しまったという顔をした。
「うるせぇなあ」
大介とひろしが目を合わせて、してやったりと言わんはわかりに笑った。
「しかし、アイツがうちの高校に来るとはなぁ」
さっきまで乱馬を茶化していたひろしが腕を組んで首を傾げた。
「お前しってんのか?龍王の事?」
大介がひろしに興味心で聞いた。勿論乱馬の耳もダンボだ。
「ああ、俺小学校一緒だったんだ。6年の最後で引っ越しして以来かな、そうそう、俺引っ越ししてさあ。」
「お前の事は後に聞くから」
急かしたのは以外にも乱馬だった。
「あ、ああ。アイツの家金持ちであの顔だろ。で、勉強も出来てスポーツ万能。そりゃ人気で」
「拳法一家で道場かなんかやってるのか?」
「いや、アイツん家は音楽一家だ。親父はピアニスト。で兄貴がいて若手じゃかなり有名な指揮者だぜ。たしか」
「・・・」
「え〜?でも少林寺っていってなかった?」
いつの間にか、ゆかとさゆりも会話に入っていた。
「いや、だから不思議なんだよ。小学校まではそっちの方に進みたいっていってたし」
「きっと中学校で電撃的な出会いがあったんじゃないの?ねぇ乱馬くん」
意味深にゆかが乱馬にふってきた。
「しらねぇよ」
"こいつらなんか知ってるな"
「でも、なんでも出来るイケメンで、金持ちって出来杉くんじゃね?」
大介がイヤミっぽく呟いた。
「でも、小学校の時には家族の中じゃ問題児だって言われてたぜ」
「え?あれで?」
「俺達には理解出来んな。なあ乱馬、特にお前の親父さんからは考えられんな」
「ああ、否定出来ないぜ、オヤジ自信が問題児だしな」
確かにイヤミなほどの経歴で、乱馬には理解出来ない。でも自分がそんな環境だったら考えただけでやっていく自信がない。音楽なんか全く興味がないし、知っている名前もベートーベンくらいじゃないだろうか。
「まあ、乱馬よ!嫁さん捕られないように気を付けろよ」
心配してか、楽しんでいるのか、言いたい事だけいって散っていた。
"アイツら好き勝手言いやがって"
考えたくないが、おそらくあかねに出会って真の中の何かが変わったんだと思った。あかねは人の心を動かすような力を持っている。それを他の男に感じさせているのは釈然としないが、自然とそうしてしまっているのでどうしようもないのだ。
どっちにしても、今日から乱馬の悩みが増えるのは間違いない。
"くっそぉ、どこまで案内してんだ"
だらりと机から立ち、教室から出ていった。