☆長編

□KEEP 5
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雑居ビルの中で煌々とライトがソファーに座っている乱馬に当たっている。
その対面には、髪を一つに束ねて、パンツスーツを着こなした女性が手帳にペンを走らせてた。
美人な顔立ちに、真っ赤な口紅が様になる彼女には"キャリアウーマン"という言葉がピッタリと合い、鋭さを増してる。
アタシには無いものばかりを兼ね備えているようで、少し羨ましくもある。

「無敵無敗の早乙女選手ですが、その強さの源は何でしょう?」

そして、その女性の少し後ろにはカメラマンが乱馬にフラッシュを浴びせていた。

「まあ、誰よりも勝ちてぇって気持ち……かな」

「なるほど、そんな早乙女選手に沢山の女性が夢中になるわけですね……。では、プライベートはどのように過ごされてるんですか?」

アタシはそれを離れた場所から終わるのを待っていた。
某女性誌のインタビュー取材。
写真が掲載されるのもあって、今日の乱馬の服装はジャージとか、トレーニングシャツでもない。
隆々とした筋肉が細身の白いシャツからでもわかって、スタイルの良さが際立つ服。
ただ、股を開いた大柄な態度で座ってるだけなのに、やたら男らしく見えちゃうんだから不思議だ。

「そうですね……のんびりしたり、筋トレしたり……。」

「お休みの日まで筋トレを?!例えば何処かに出掛けたりはしないんです?」

女性誌の取材だからなのか、格闘家、早乙女乱馬としてよりプライベートの早乙女乱馬が知りたいようだ。

「あんまり……出掛けないですね」

乱馬はそういう質問が好きじゃない。
自分は格闘家であってアイドルでもモデルでもないのに、メディアの露出の仕事はしたくねぇって、ぼやいていた事があった。

まあ、プライベートを聞かれて、それが公になるのはアタシだって嫌だ。
アタシがもし、乱馬の立場だったら同じ気持ちだと思う。

女性記者だってそれは想定済みだ。

「………そうですか。では、早乙女選手の好みの女性を教えて下さい」

「なっ!!!!!」

「!!!!!!」

アタシに質問をされているわけじゃないのに、痛いく心臓が高鳴った。
いつかその質問が来るだろうなと思っていた矢先に、女性記者がハッキリと口にした。
乱馬はというと、険しい顔をして固まったままだ。

「……どうしましたか?」

なかなか答えない乱馬に、女性記者も身を乗り出した。

何て答えるんだろ………。
思わずアタシも身を乗り出した瞬間、乱馬がアタシに振り向いた。

「あっ!!!!!!」

なんとも間抜けな声が出ると、女性記者がニヤリと笑った。

「なるほど………そういうことですね」

「ち、ちち、違うっ!!!!」

手を突き出して、首を左右に振る乱馬にアタシまで首を振った。

「だ、だから、それは……。」







『お疲れ様でしたーっ!!!!』

スタッフ等のデカイ声と同時に、全身の力をどっと抜いた。

なんだよっ!!!あの質問っ!!!!
それもあかねが居るってぇのによっ!!!!
思わず、み、みみ、見ち待ったじゃねぇかっ!!!あかねをよっ!!!


うっちゃんにちゃんと言わなきゃなんねぇなと思った以来、オレは益々とあかねを気にしていた。
なんとか、あかねを誘えねぇもんかと思っても、なんだかんだと邪魔が入る。

あれからうっちゃんは、何かと事務所に顔を出すようになったし、良牙なんてどっかで見てんじゃねぇかってぐれぇのタイミングで現れる。

だから、そういう雰囲気にもならねぇから誘えてもねぇ。

『恋愛系の話の件はマネージャーさんに確認しておきますね』

って、おいっ!あかねにオレの好きなタイプ聞いてどーすんだよっ!!!!
あかねがタイプだなんて勘違いされなかっただけ良かった。

まあ、顔とかはタイプたんだが……。

「ったく」

そう言われて、否定すんのもおかしい。
しゃーなく頷きその場は済んで、やっとこのわけわからん取材も終わったってぇのに、あかねはあの女記者に捕まったままだ。

「あーーっ」

なんとも言えねぇ声が出る。
こんな着なれねぇ服まで着にゃならんのだ?
オレが逃げると思ったのか、いきなり朝からあかねに連れてこられ文句を言う時間もなく始まった取材。
あかねが付き人じゃなけりゃ、逃げてたぜ。

好きな女だからのもあるけど、それだけじゃねぇような気もする。
もしあかねと付き合ったら、オレってあかねに上手く転がされてんだろうな。
それもなんかかっこわりぃ。
このオレが………。

「お待たせ。乱馬」

「お、おう」

「どうしたの?ニヤニヤして?」
 
「ゴホンっ。いや別に」

「じゃ、帰ろ」

「ああ」

ニヤニヤしてたのかと思うと、尚更かっこ悪くて咳を一つし、眉をしかめた。
そんな事より、あの女記者に何を聞かれたかのほうが気になる。
それをどう聞き出そうか考えながら、そそくさと帰るあかねの後ろを歩いた。

「とりあえず、一緒にいて楽しい女性って事にしておいたわ」

「そ、そうか。………今日はこの後にも何かあるのか?」

振り向きもせず答えるあかねに、なんて返せばいいかわからず、仕事らしく振舞った。

「この後は……5時間後に取材がもう一本あるから着替えないでね。今日はその格好で過ごして」

あかねは歩きながら手帳を開いて、ぶっきらぼうに答えた。

「5時間?何すんだよ。その間」

「移動に40分だから……どうしようかしら」

帰るには面倒くせぇ。
となると、ここは一か八かのチャンスかもしんねぇ……。

「だったら、あかねが行きたい所にいかねぇか?」

「え?アタシの?」

驚いた顔をして振り返った。
平然を装ってるけど、オレの心臓はかなり爆音でドキドキしてた。

少なからずも、オレからのデートのお誘いだ。

「べ、別にする事もねぇし」

「……。」

あかねの返事が長く感じる。
短い時間にも、その間に心拍数はどんどんと上昇していく。

「いいの?」

「え?」

「嬉しいわ」

ニコッとあかねが笑った。

「お、おう。じゃあ行こうぜ」

すっげぇ嬉しくて、内心はガッツポーズなのに、それでもオレは当たり前のような顔して、あかねとビルを出ていった。
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