☆長編
□KEEP 1
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何をしていても、気持ちが悪くて、常に身体が水を欲してる。朝も食欲がないし、寝不足だ。そして一番の苦痛…
「頭いったーい」
人生で数えるぐらいしか体験したことがない、二日酔い。今まで体験した中で一番しんどいかもしれないわ。
「あかね昨日の記憶あるの?はい、二日酔いの薬」
「ありがとう、ゆか」
アタシと違って、いつもと変わらないゆかから薬を貰い、朝から飲んでいるペットボトルの水で飲みこんだ。
「トイレに行ってくるって言ったまま、なかなか戻ってこないから心配したのよ」
「ごめん。でも誰かアタシの面倒見てくれて、助かったわ。誰だったの?」
「え?誰もあかねの面倒なんて見てないわよ?だって、あかねがいなくなった事に気付いた時には既にみんな酔っぱらってたし」
「うそ?」
「ホントよ。私が一番に気付いたもの」
「…」
「とりあえず、片づけ手伝うわよ」
「うん…」
週明けから、もうここには当分出社しないと思うと凄く辛い。でも二日酔いでその辛さも半減してしまう。そう思うと二日酔いも悪くないかもしれない。
アタシは片づけた後に各部署に挨拶へ回り、それぞれ労いの言葉を頂いた。
片づけられたディスクに戻った頃には二日酔いも抜けて、さっき営業部から貰った格闘専門雑誌を机の上に置いた。
一息つこうと、オフィスでは飲み放題のコーヒーをマイコップに注いで席に着き、貰ったばかりの雑誌の早乙女乱馬特集を開いた。
”会う前にちゃんと目を通しとけよ。相手の情報を知って会わなきゃ失礼にもなる”
さすが営業部だ。アタシだったらそんな事、思いもせず会っていたわ。
「えっと、100年に一度しか現れない今世紀最強選手、無差別格闘家早乙女乱馬。そんなに強いのかしら…」
雑誌の内容は、早乙女乱馬選手がデビューしてから今までの経歴、練習風景、インタビューまで載っていた。イケメンと評されてる彼は、おさげ髪で、男らしいというより甘いマスクって方があってるかしら。
一通り目を通した後、更にネットで早乙女乱馬と検索すると、ファンクラブのサイトや画像が出てくる。
すっごい人気だわ。
冷めかけたコーヒーを飲みながら、検索画面をマウスでスクロールしていると、気になるキーワードが目に入った。
「ん?噂の彼女…」
彼女いるんだ。まぁ、アタシには関係ないか…。
アタシはそのキーワードじゃなく、”早乙女乱馬、強さの秘訣”をクリックした。
それにしても、誰だったのかしら…昨日ずっとアタシの背中を擦ってくれてた人。
記憶のパーツを拾い集めても、ふわっとしか思い出せない。
でも、帽子を深く被ってたけど酔っぱらいのアタシに、困ったような、呆れてるうな…でも優しい眼差しだけははっきり覚えてる。
「誰だったんだろ?お礼だけでも言いたいなぁ」
もう会う事はないけど…。
「よーし、早乙女乱馬を徹底分析するわよ!」
これも仕事よ!主な仕事内容は確か…あった。
わざわざ社長から手渡しされた、辞令表と業務内容の用紙。そこには、彼と常に行動して、マスコミ対応やスケジュール管理、他にも細かな詳細が書き込まれていた。
どうやっても変わることのない現実をそろそろ受け止めて頑張らなきゃ。
アタシは来週からやってくる新たな環境に備えるために、また、パソコンに目を向けた。
「はぁ???オレに付き人?いらねぇよ!そんなもん。勝手に決めんなよ」
「私に言われても知らないですよ。社長が決めたワケだし。そろそろお見えになるそうです。じゃあ後お願いしまーす」
「ったく…」
事務所の女の子が業務報告だけして、さっさと戻っていった。ぎりぎりになるまで秘密にしてたって所がオレの性格をよく知ってる社長らしいやり方だぜ。もし昨日にでも言われてたら暴れて失踪してた所だ。
冗談じゃねぇぞ。今でさえ誰かに見られてるような毎日ってぇのにさらに管理されるって。ムリだ。ムリムリ!ムリに決まってるじゃねぇか。
まあいい。どうせ貧弱な男が来るに決まってる。ちょっと脅かして辞めさせてやればいい。
「乱馬よ、よかったじゃねぇか。洗濯とかめんどくさい事、全部やってもらえるな」
「じゃあ良牙に譲るぜ。方向音痴のお前の方が必要だろ?」
「うるせぇ!大体、俺は別にお前ほどトラブルは無いし、忙しくはないからな、社長も気ぃ使ってるんだろ。色んな意味で」
良牙はオレをバカにしたような含み笑いでオレを横目で見みた。
「けっ。オレはいつでも潔白でぃ」
「どうでもいいが、一本手合せするか」
「いいぜ。今日のオレはイライラしてるからな、覚悟しろよ」
「望むところだ」
調度良いところにストレス発散の先を見つけたぜ。
オレ達はストレッチをそこそこにリングに上がろうとしたら、入り口から女の大きな声が聞こえた
「す、すいません!今日からここで早乙女選手のお世話をさせて頂く、天道あかねです。よろしくお願いします!!」
「…」
間違いねぇ!あの居酒屋で世話してやった女…。
それも、男が来ると思ってたのに、まさか女が来やがった
ウ、ウソだろ??
色んな事に驚きすぎて口がぽかーんと開いてたオレの側にソイツが走って来てた。
「あ、あの!は、は、初めまして!始めて体験する事ばかりで早乙女選手にはご迷惑をお掛けすると思いますが、精一杯頑張りますのでよろしくお願いします!」
緊張してるのがスッゲーわかるけど、初めまして…か。
やっぱり覚えてねぇよなぁ。かなり酔っぱらってたしな。
「あ、ああ。よろしく」
「はい。先程、社長とお話ししてまいりまして、今日から早乙女選手をサポートするために、常に側で…」
「…止めてくれねぇ?その早乙女選手ってぇの、で、その敬語も」
「む、無理です!」
「じゃあクビだ」
「ちょ、ちょっと待ってください。それじゃ困ります!!」
「じゃ、廃止な。乱馬でいいぜ」
「…はい。乱馬、さん」
「乱馬だ!」
「わ、わかりました。では、今日の日程を案内します」
「だから、敬語もナシだ!いちいちめんどくせぇヤツだな」
「な、なんですって?」
「なんだよ?」
「いえ、別に何でもございません!」
「てめぇ喧嘩売ってんのか?かわいくねぇな…」
「か、かわいくなくって結構です!!これ、昼からの日程なんで、読んどいて下さい!!少し席を外します!!では」
「お、おい!世話係!!!かわいくねぇぞ!!」
オレに背を向けて、てくてく出ていくアイツに、叫ぶように言ってやったのに振り向きもせず、出ていった。
な、なんだアイツ!!!
かっっっっわいくねぇぇぇぇ!!!!