☆長編

□ダメなんだから!! 1
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「ええええっっ!キス?」

「もっ!ゆかってば声が大きいって」

「ゴメン!ゴメン!」
道端を歩いている数人が、ゆかの声に驚いてこっちを振り返った。
「もうっ!」
アタシは次の日、ゆかに昨日あった事を帰宅中に話ていた。黙っておくつもりだったんだけど、もうどうすればあんなことになるのか解んない。
男の子との経験0のアタシが自己解決なんてムリだし、頼れるのはゆかしかいない。


「そんなドラマみたいな事をがあるんだ・・」

ゆかは感心しながらアタシの顔をマジマジ見てる。

「なによ?」

「で、初めてなの?」

「あっ当たり前でしょ。まだ、誰とも付き合ったことないのに、キスの経験なんかあったら可笑しいでしょ?」

「そうなんだ、うらやましぃ」

「どこがよ!」

ゆかは完全に自分の世界に入っちゃって、アタシの声なんて耳に届いらない。

アタシのこのモヤモヤはどうすればいいのよ?

「で、付き合うの?早乙女乱馬くんと?」

「付き合えるわけないでしょ、お互い好きでもないのに」

「昨日ね、私バスケ部の子に聞いたんだ。その早乙女ってヤツの事」

「そうなの?」

そういう情報収集させたら、ネットワークと早さはピカイチのゆか。
将来ゆかはマスコミの仕事が向いてるんじゃないかと密かに思ってる。

「あの子さ、バスケ部の助っ人で来てただけなんだって。だからこないだいなかったのよ」

ゆかのこないだって何時なんだろ?って思ったけどそこには触れないでおいた。

「確か少し前まで中国に留学してたんだって」

「中国?何しに?」

「なんだったっけ?え〜と、ん〜」

ゆかは上向いて、空を見ながら思い出していた。

「拳法っぽいヤツ?」

アタシはヒントになるかなと思って言ってみると、ゆかがぽんっと手を叩いた。

「そんな感じよ。カンフー?だったかな?」

「カンフー?」

「あのルックスだから結構人気らしいよ。いいんじゃない?付き合って見たら?」

ミーハーゆかの考えに、大きくため息ををついた。

「もう!他人事なんだから!」


「だってあかね今まで浮いた話を聞いたことないし」


だって、仕方ないじゃない。アタシ初恋もまだなんだもん。
で、あんなに強引なヤツと好きでもないのに、なんで付き合わなきゃいけないの?

「・・・ていうか、何処に住んでるか知ってんの?次どうやって会うの?」


"・・・確かに!"

「そうよね。もう会うこと無いかも」

「約束しなかったの?」

「あんまり覚えてない・・」

どうだったっけ?思い出せない。
え〜っと、"またな"って言ってたっけ?


「どうするの?あかね?」

「うん」

アタシのモヤモヤは身体の中を駆け巡って、結局出口が無いまま、また心の中に舞い戻った。


悲しいのか、腹が立つのか、辛いのか、よくわからない。ただ、絶体に嬉しいって気持ちじゃないのは確かなハズ!
文句の一言でも言わなきゃこのまま終われないわ。

それか、いっそのこと忘れてしまうのも良いのかもしれない。

そうよ。あれは悪い夢だったのよ。

そうだ。そうしよう。じゃないと、こんな気持ちで毎日過ごせないわ。あれは夢。なんて簡単なの。
さあ、早く家に帰ってアタシも道場でたまには身体を動かそうかな。


「何?あれ?」

「ん?」
自己解決に必死なアタシはゆかの一声
で指差す方へ目線を向けた。

「ぶぶきィィ」

え?こんなところに子豚?

黄色いバンダナを首に巻かれているその子豚ちゃんが凄く可愛くて、近寄ってみた。

「あかね、噛まれちゃうよ」

「大丈夫よ。おいで」

「ぶっ!」
手を差しのべたら、最初は後ずさりしてた子豚ちゃんがアタシの掌を、突き出た鼻でクンクンと匂いを確認して、頭をすり寄せてきてくれた。ちょとかわいすぎ!

「かわいい!」

「ぶきっ?」
抱きしめたくて、ひょいっと持ち上げ
頭をなでると気持ち良さそうにしている子豚ちゃんにおもわず、ちゅっ、とキスをした。



「おい、何やってんだ?」

「へ?」

振り向くとそこには、長い赤毛の髪を束ねていて、服は紺色のチャイナ服。目はクリッとし、鼻筋の通ったかわいい顔立ちの女の子がフェンスの上にたってた。


「あなたのペット?」

「・・・」

フェンスから飛び降りて、無言でアタシに向かってくる。
なんだか凄く怒ってる?
そんなに可愛がってたんだ。この子豚ちゃんのこと。

「ごめんなさい。可愛くて抱き上げちゃった」

「・・・いいご身分だな、良牙」

その赤毛の女の子は謝ってるアタシを無視してこの子豚ちゃんを睨んでる。

良牙?子豚ちゃんの名前?

女の子は、アタシの手元にいた子豚ちゃんを乱暴に掴んだ。

「あっ?」

すると、アタシをチラッと見てニヤリとし、しゃがんだかと思うと、大ジャンプで二階建ての家の屋根に移り、子豚ちゃんと姿を消した。


"あのニヤリとした顔・・・"


ていうか、なんてジャンプなの!!!

「信じらんない・・」

一緒にいたゆかが呆然と呟いた。

「ゆか、ごめんね」

「なんだか不思議な子だったわね」

顔は凄く可愛いのに野性的というか、雰囲気がフツーの女の子と違う。

「・・行こっか。アタシ本屋さんに雑誌買って帰りたいの」


アタシ達は何もなかったように、そのまま商店街に寄り道して帰ることにした。



「ただいまぁ」

今日もかすみお姉ちゃんがエブロンで濡れた手を拭きながら、笑顔で玄関まで迎えに来てくれた。

「あかねちゃんお帰りなさい、お友だちが来てるわよ」

「友だち?」

「あかねちゃんを訪ねて来たからお友だちだと思うんだけど。帰るまで道場で待たせて下さいって」

「まだいるの?」

「いらっしゃるんじゃないかしら」

「ありがと」

アタシは駆け足で道場に向かった。
誰だろう?ゆかはさっき別れたばっかりだし、中学の友だち?

道場の扉に手を掛けそっと中を覗いたら、そこには・・・

赤い服を着た早乙女乱馬くんがアタシに気付いて振り向いた。


"あっ"

「よっ、あかね」





"あっ"

「よっ、あかね」

「ど、どうしたの?こんな所で?」
予想していなかった乱馬くんの訪問に自分でも情けない質問をしてしまった。

「彼氏に対してどうしたの?はないだろ?」

ちょっと!いつの間にアタシが認めたのよ!

「まっ待ってよ、アタシまだ付き合うなんて、まだ認めてないわよ!」

鼻息荒く言い返すと、乱馬くんは何も喋らなくなった。


「・・・・」


「ななっ何よ?」

すると、乱馬くんはアタシに近付いてバカにした様な顔をした。

「あかねまさかファーストキスだったのか?」


「っっ!」
アタシの怒りを無視して聞いてきた質問の内容に頭が、かぁっと熱くなった。


「悪い?」

「そうか、だったら尚更オレが責任取らなきゃな」


ふざけてるわっ!!
アタシは謝りもせずあっけらかんとしている彼に、あまりにも腹がたって渾身のパンチを放った。

「はっ!!」

「よっ!」


あれ?よそ見してたのにかわされた?
眺めてる腕を捕まれ乱馬くんの身体を引き寄せられる。
「きゃっ!!」

「けっこう見た目より腰が細ぇんだな。
おっでも、ここに肉ついてんぞ」

「やだ、変なトコ触んないでよ!」

「お前が殴ろうとするからだろ」

でた、あの意地が悪そうな顔!!!

離そうと力をいれるんたけどまったく歯が立たなくって、どんどん身体がくっついていくぅぅぅ!


「ダメだってば」


恥ずかくって、ドキドキして、頭が沸騰しそう。それが乱馬くんにバレるんじゃないかと思うと嫌で仕方なくって顔を隠す様に下向き加減で抵抗した。


「お願い、離してっ!!」

「嫌だって言ったら?」


「それでも、離してっ!」

「じゃあ、キスしてくれたら離してもやってもいいぜ」

へっ?

「無理よっ!」

ムリムリムリっ!ぜっっったい無理!

「え〜なんで?」

「アタシからなんてムリよっ!!」

「さっきしたクセに?」

更に顔を近づけて迫ってくるんですけどぉぉっ!

「誰ともしてないわよっ!ていうかそんな人いません!」

「じゃあオレからならいいんだ?仕方ねぇなぁ」

「だから、なんのこ・・・」


最後のアタシの言葉は乱馬くんの中に吸い込まれるように、消えていく。



「っっんんっ」



自分勝手で全然優しくないのに、全て染まってしまいそうな、

昨日とは違う・・キス

さっきまで沸騰してた頭の中が、今は痺れるような感覚で力が入らない。


「いい子だ」

「・・・」

「そんなぼーっとした顔してっからつけ込まれるんだぜ」

「そんなこと・・・ないもん」

「わかってねぇなぁ、闘い以外でオレを腹立出せたヤツお前ぐらいだぜ」

「よくわからないんだけど」


「その内に解らせてやるよ」

そう話すと、アタシのおでこに軽くキスをした。

今まで感じた事のない気持ち。

あんなにムカついてたのに、今乱馬くんの胸の中に居るのが・・・嫌じゃないかも・・・

「オレ、ここに住もうかな?」

「はっ?」

「なんてなっ?」

もおぉ!この男は何がホントか、全然解んない!!!

こんなんじゃアタシの心臓が持たないよぉ。

「明日、学校帰りに迎えにいってやるぜ、校門でまってな」


「いいわよ、別に」

「そーゆう訳にはいかなくなったんでね」

「?」

その時、アタシには乱馬の意図が全く理解出来ずにいた。
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