恋愛編

□de ja vu
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「すみれさーん、あれ?どこ行ったの?」

辺りを見渡しながら湾岸署内ですみれさんの姿を探して、かれこれ20分。”今日も帰れそうになさそうね”と話してたばっかりなのに、気付くともう居ないんだから。

「あー!!君、君。すみれさん知らない?」
「見てませーん」
「あ、そう。ありがとう。おつかれ様。気を付けてね」
「はーい。おつかれさまでーす」

普段なら諦めて刑事課に戻ってくるのを待つ所なんだけど今日は格別に探している。
仕方ない。
だって、すみれさんが俺の名前で応募した高級フランス料理のレストラン券が当たった事を言いそびれて机の引き出しにいれっぱなしにしていたのをさっき見つけてしまったのだ。
よーく見ると、使用期間が来週まで迫ってると来たもんだ。
これでまた遅れてしまうと確実に殺されてしまう。署内で殺人事件だけは避けたい。
あぁ、食べ物の恨みは怖いぞって和久さん言ってたっけ……。

「はぁ、もう11時か、まだ何もやってねぇよ」

どおりで人がまばらなはずだ。殆どの署員は帰ってる時間だもんね。
それでも諦めずに心当たりある場所を探し続ける。

自販機でしょ、休憩所でしょ、まさか会議室?トイレは探せないか。
うーーん。そう言えばすみれさん、かなり眠たそうだった。
となると仮眠室か。と覗いてみるも、仮眠室はどうやら満室。

「どうして居ないのよ。こんな時に」

ここまで探したんだ。ひょっとすると刑事課に戻っいるかもしれない。
そう思い直し、下の階へとエレベーターのボタンを押した。

ガタンっとエレベーターが動く機会音がする。一階に止まったままだったのか中々扉が開かず、ふぅと一息ついて暗くなった外を遠くの窓から眺めた。

「あれ?」

すると、一番奥の部屋の扉が少し開いているのに気付いた。
こんな時間に使う事はあまりない、小さな会議室。
どちらかというと物置になってたような……。

「なんだ?」

電気も点いていない様子で、物音さえしない。というより、この階に人影すらいない。
結局、やっと開いたエレベーターにも乗り込まず、気になるその会議室の扉にゆっくりと近づいて、少しだけ開いたドアノブを握りそっと開ける。

静かに開いた薄暗いその中は、案の定、机と段ボール箱が幾つか転がっていて、たいしたものは何もなかった。

「ったく、ちゃんと閉めとけよ」

何かあるんじゃないかと不安と期待半分だっただけに、肩透かしで扉を閉めようとしたら、暗さに慣れた目が窓の傍に何かを捕らえた。
ぐっと目を凝らして近づくと、それが椅子を並べて器用に寝ているすみれさんだとわかった。

「見つけた。こんな所に居たのかよ」

あれだけ探してやっと見つけたのがこんな場所で、そんな事とは知る由もないすみれさんが、すやすやと寝息を立てている姿にほっとしたのと呆れたので、気が抜けるように隣へしゃがみ込んでため息をついた。

「しっかし、こんな恰好でよく寝れるよね」

と言いつつも、まるで丸まった猫のように膝を曲げて寝ているすみれさんの姿がかわいくて、つい見惚れてしまう。
窓から射し込む月明かりが彼女の透明感ある白い肌を照らし、より一層美しさを際立たせ、長い睫が影を落とす。

見惚れるなって方が無理でしょ。


「……んんっ……青…島……くん?」
「あ……やっと覚めた?こんな所で寝てちゃだめだよ」

やっぱり流石ワイルドキャット。
どうやら人の気配を感じたのだろう、すみれさんの瞳がゆっくりと開いた。

「どうしたの……?」
「探してた。こないだの食事券当たったの、言いそびれてた」
「……そう」
「あれ?怒んないの?」
「さっきね、夢を見てたの」
「そう、どんな?」
「青島くんとごはん食べてた」
「いつもと一緒じゃん」
「だね」

いつもの強気な発言はどこにもない、寝ぼけた顔で微笑む無防備なすみれさんに慣れない俺には、心のブレーキなんてモノは利かなくて吸い込まれるように口付けた。

痺れるような、すみれさんとの長く甘い口付け。

唇から感じる温もりと名残惜しく離れ優しい瞳を見つめると瞼が徐々に閉じ始め、また眠りに就いた。

「また寝るの?」

きっと俺の声は夢ん中でしか聞こえてねぇなと、苦く笑った。







今日も慌ただしい湾岸署。
その中ですみれさんが俺の名前を叫びながら刑事課に戻って来た。

「ごめん!!青島くん。あたしを探してたんでしょ?」
「あーっ!!すみれさん!!どこ行ってたの?探してたんだよ?」
「ちょっとね。それより何?」
「そうそう、こないだの食事券当たってたの、言いそびれてた。ごめん」

ここは先手必勝!!
殺されてたまるかとオーバーな程に申し訳なく謝まると、すみれさんは急に噴出した。

「どしたの?急に?」
「ふふっ」
「何?怒んないの?」
「さっきねこんな会話を青島くんとしてる夢みちゃった。デジャヴーね」
「へぇ。それでその続きは?まさか俺とキスとかしてる?」
「な、なに言ってんの!!!バッカじゃない!!」
「え?ホントは当ってんじゃないの?」
「そんなワケないでしょ!!」
「だよね……じゃ、頑張って残業しよっか」
「今日も帰れそうになさそうね」
「とりあえず、やりますか」
「そうね」




END

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