恋愛編

□三人の距離感
2ページ/3ページ

「たっだいまぁー!!」
「す、すみれさんっ靴脱いでっ」
「青島警部補!!りょうかーいです!!」
「あっ、あっ、もうっ!!まだフラフラしてるじゃないの」

住人を迎え入れた部屋に灯りを付け、玄関まで抱え込えてたすみれに靴を脱ぐように言うと、フラついた手で敬礼し、靴を脱ぐ。
すると、足元が覚束ないすみれが倒れそうになり、慌てて抱えてソファーへ運び、そこへ沈み込むように身体を埋めた。

「やっとついたぁ」
「やっとじゃないよ。言っとくけどね、すみれさん飲み過ぎだからね」
「そんなことないわよぉ」
「たまには介抱してる俺に感謝してよね」
「なーに言ってんのよぉ?上がり込んできてるクセに、エラソーにぃ」
「そ、それは、だから介抱するためでしょ?帰ってもいいの?」
「えー?帰るの?」
「やっぱ傍にいて欲しいんじゃない。はい、お水」

青島は引き止めてくれたすみれに嬉しくアーミーコートの大きなポケットから先程自動販売機で買ったばかりのペットボトルを取り出し、隣に座った。

「お酒じゃないの?」
「何言ってんの、まだ呑む気?」
「ダメ?」
「そんなに可愛く言わないでよ。ダメなもんはダメなんだから」
「可愛いく言ってもダメかぁ!!」
「水、飲んでね」
「はーい、飲みまーす。頂戴」
「どうぞ」

喉が渇いていたのか、渡された水を勢いよく飲む姿に、店を出る時より少しだけ酔が覚めているように思えて、胸を撫で下ろした。
それと同時に室井の口から出た、お見合いの言葉を早速思い出す。

「ねえ、すみれさん」
「ん?」
「室井さんのことだけど……。」
「あーっ室井さんっ!!!お礼言ってなかった。電話しなきゃ」
「へ?いやいやいやいや、違う違う。お礼はいいの。あの人上の人間でしょ?奢るのも仕事だから」
「でもお礼しなきゃ」
「こんな深夜に電話?しないよ?普通」
「えー、別にいいじゃないの」
「室井さんは今いいの!!」
「青島くんが言い出したんじゃない。室井さんって」
「誰も電話しろなんて言ってないでしょ」
「でもかけるっ」
「か、かけんなよっ」
「なんで?」
「俺が傍に居るだろ!!」
「……そっか、そうよね。うん。青島くんが傍にいるもんね」

何時にも無く真剣な顔の青島に珍しく素直に頷いて、手にしていたスマートフォンを机に置いた瞬間、着信音が鳴り響いた。
思わず二人は目をあわせ、すみれは置いたばかりのスマートフォンをまた、手に取った。

「誰から?」
「む、室井さんからだ……。」
「む、室井さん?」
「どうしよう、室井さんにバレちゃう」
「え?なんでバレちゃ不味いワケ?」
「さっき青島くんが言ったんじゃない。俺が居るでしょって。室井さんにこんなことバレたくないんでしょ?あたしもよ」
「………いや、違うって。そういう意味じゃないよ。寧ろ知って欲しい……ていうか」
「じゃあ、どういう意味よ」
「だから……今はいいから、取りあえず出なよ、電話」
「イヤよ」
「なんで!!俺が居るから?話し聞かれたくないわけ?出てよ、出ろよ。早く!!」
「やっぱりでも……あっ」
「……ほら、切れちゃったじゃない」
「いいわよ、明日また電話しとくし」

あまり気にも止めない様子のすみれは、鳴り止んだスマートフォンを机に置いて飲みかけの水を口に含くんだ。
そんなすみれが気に入らない青島は拗ねた子供みたいに、口を尖らした。

「後遺症のこと、室井さんが知ってた」
「まぁ、辞表出す時に言ったしね」
「やっぱり室井さんには言ってたんだ」
「何言ってんの?魚住課長と他には和久くんしか言ってないわよ」
「え?でも、室井さんはすみれさんから聞いたって」
「何かの間違いじゃない?」
「ほ、ほんと?」
「え、言ったのかな、あたし」
「ちょっと!!どっち?!」
「どっちでもいいじゃない、そんなの。気にするとこ?」
「じゃあさ、お見合いは?」
「お見合い?」
「そう、室井さんとのお見合い」
「それは………真下くんが勝手に言ってただけよ」
「でも室井さんは満更でもないみたいだったけど」
「うっそだぁ、まっさかぁ。ナイナイ」
「ホントだって。室井さん、嘘言ってる眼じゃなかった」
「青島くんの見間違いじゃない?」
「ホントだって。じゃあさ、すみれさんは……どう思ってるの?室井さんのこと」
「んー不器用な人だなぁって感じ?キャラは青島くんとは真逆じゃない。クソ真面目だし。冗談とか通じなさそう」
「そうじゃなくてさ、だから」

青島は聞きたい事とは違う答えに、胸に何かが詰まるような顔をして眉を眉間に寄せた。

「なんだかわけわかんなーい」

渦中の本人は、この質問の意図が未だに解らず、眠たそうな目を擦する。
そして、フラリと立ち上がろうとしたすみれの手を逃がすかと握り、引き寄せ抱きしめた。

「あ、青島くん?やっぱりへんだよ」
「ちょっと俺も飲み過ぎたかな?ヤキモチなんて焼いてみたりしちゃって。ハハ」
「ヤキモチ?誰が?」
「俺が、かな?」
「青島くんが?」
「悪いかよ。それよりすみれさん、この状況がわかってる?俺、抱き締めてるんだけど」
「うん、なんとなく。酔って可笑しくなったんでしょ?」
「酔ってる。すみれさんに……なーんてな」
「ひょっとして、キスでもしようとしてる?」
「あれれ?わかっちゃった?」
「スケベ!!でも、青島くんって暖かいのね」
「酔ってるからね、ひょっとしたらドキドキしてるせいかな?」

つい冗談ぶっていても、すみれの潤んだ瞳を見つめていると自分でも分かるぐらいに引き込まれていく。高鳴る胸の鼓動がお酒の勢いもあるせいか、やたら五月蠅く耳に響く。
そして、その瞳に導かれるよう顔を近付けると、すみれは青島の腰に手を回した。

「青島くん………。」 
「………すみれさん」
次へ
前へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ