恋愛編

□二人の距離感@青すみ
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「お待たせ。部屋ん中はあんまり綺麗じゃないからね。あー、すみれさんの荷物はソファーに置いてるから」

慌てて片付けました。といわんばかりの青島は苦笑いしてすみれを玄関まで招き入れた。

「勝手にあたしの荷物を持って入るから、お陰様で何処にも行けなかったわよ」
「どっちにしても行くとこないでしょ?ここしか」
「てっきりマンスリーマンションでも用意してくれてると思った」
「あー、そんな手もあったか。思いつかなかったなぁ。今日も忙しかったしね」
「ホテルだってあるじゃない?」
「だって、お金勿体無いじゃない。それに、ここだったら無駄な経費は掛からない」
「だからって青島くん家だなんて訊いてない」
「言ってなかったっけ?」
「訊いてないわよ!!」
「まあ良いじゃん。ここ寒いから中に入ろうよ。コーヒーでも飲む?」
「ちょっと」
「そこのソファーに手荷物置いてるからね。あと、すみれさんの実家に送った残りの荷物、ここに送ってもらおうよ」
「青島くん!!」
「で、とりあえずここでゆっくり考えなよ。刑事続けるか」
「だから……。」

勝手に話を進めながらリビングに向かう青島に釣られて追い掛けたすみれは落ち着かない様子で、キョロキョロし始めた。

「あんまり見ないでよ。時間あるときに掃除するからさ」
「青島くん、あたしやっぱり……。」
「すみれさん?」

おどけて話を上手くかわし調子よく笑う青島から目を逸らすように背を向けた。

「だって、ねえ?」
「ねえ?ってなに?」
「ここ青島くん家だよ。これじゃ同棲じゃない」
「え?まずかった?」

今の気持ちを上手く表す言葉が浮かばず、背後の青島に振り向く勇気もない。

彼はどんな顔をして、自分の背中を見ているのだろう。
まだ笑ってるのかしら。それとも、まさか怒ってる?

辞めないでくれ。

あの誘拐事件の時に聞いたセリフと青島の温もりを思い出す。
出会って15年間、仕事以外で初めて見せた我欲に驚きと同時に嬉しくもあり、青島と恋仲として過ごす日が来るかもしれないと、病院のベットの上で考えた時もあった。
しかし、胸の後遺症が痛む度、青島を巻き込みたくないと思い始め、また以前のような同僚に戻ったほうがいいと、その先を考えないようにしていたすみれは、この情況に思考が追付かないでいた。

「辞めないでって、言ったじゃない。それって、どういう意味かわかってる?」

今にもここから逃げ出そうとしているすみれの腕を掴み詰め寄った。

「……わかってるわよ。だから警察を辞めるか悩んでるんでしょ」
「なんで辞めて欲しくないか、すみれさん、ちゃんと考えた?」
「同僚だからでしょ?」
「それだけしか考えなかったわけ?ただの同僚の人生、大きく変えるようなこと俺が言うと思ってる?」

この先の青島との関係を考えないよう逃げていたのに、青島の絞り出すような切ない声と強く掴まれた腕が、それを許さないよと言っているようで、思わず振り向き強がった。

「何が言いたいわけ?」
「すみれさんはただの同僚じゃない」
「じゃ何よ?仲間?」
「仲間でもあるけど、他にもあるでしょ」
「なんなのよ?他にもって?」
「だから!!俺は、すみれさんが居なきゃ困る」

青島は自分を睨むすみれの腕を引っ張り、抱きしめると嫌がり離れようと暴れだす。
それでも強く抱きしめた。

「ちょっと青島くん離してってば!!」
「離したら逃げるでしょ」
「逃げるわよ」
「だったら絶対に離さないかんね!!」
「青島くん!!」
「同僚でも、仲間でもあるけど、大切な愛しい女性として俺の傍にて欲しいって思ってるの、わかんない?」
「わ、わかんないわよ」

口ぶりとは裏腹に、徐々に力が弱まっていくすみれを、更に強く抱きしめた。

「それに、後遺症のこと和久くんから聞いた時はショックだった。なんで俺が知らないで和久くんが知ってるんだって」
「あれは偶然、お酒の席で和久くんが隣に座ったからよ。誰にも話すつもりは無かったわ」
「でも和久くんは知っていた。俺ってそんなに頼りない?」
「そんなんじゃない」

今回は刑事を辞めるか悩んでいた時から、青島には頼らないと決めていた。好きだからこそ、頼れなかった。なんて言えるわけなく、煙草の臭いがする青島のシャツをギュッと握った。

「たまには心配させてよ。馬鹿亭主なりに頑張るからさ」
「こんな傷だらけの身体じゃ青島くんには荷が重いっ!!」
「そんなとこ気にしてたの?その傷を含めて、すみれさんじゃない。何言ってるの!!」
「後遺症だってあるのよ?」
「痛い時は絶対に無理せず言ってね」
「言えないわよ」
「なんで?言わなきゃわかんないでしょ?」
「言いたくない」
「素直にならないんだったら、ここに監禁しちゃうよ?わかった?」
「もう十分監禁罪よ。青島くん」
「だって、愛してるんだもん」
「歪んだ愛情表現はストーカー行為になるわよ」
「早く逮捕してくれなきゃ、唇まで奪っちゃうから。唇だけで収まるかなぁ。この気持ち」
「早速捕まえてやる」
「その前に、この手は離さないけどね」

優しく微笑んだ青島の顔がゆっくりと近付いた。
そして、瞳を閉じたすみれに唇を重ねる。

今夜の取り調べは、まだまだ終わりそうになさそうだ。
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