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□酒は飲んでも呑まれるな
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「な、何よ……。」

「………。」

「な、何か言いなさいよ!!」


広くもない自分の部屋で後退りしながらアタシに向かって来る乱馬を睨んだ。
乱馬はこの部屋に入ってから一度も口を利く事もなく、ただアタシを見つめている。

見つめているなんて言葉は相応しくない。
口角に歪みは無く、そこから感情は何一つ汲み取れない。
何時ものヘタレながらも優しく心地よい乱馬独特の空気感からは想像出来ない、殺伐とした重い気が部屋中に淀む。
目の奥は恐怖を感じる程の闇。
でも、睨まれてる………とも違う。

思わず、唾を呑み込んだ。

カツンとベッドに踵があたり、逃げ場を失った事を悟った所で乱馬の足が止まるわけもなく、アタシはベッドに尻餅を付く。
それに覆い被さるような格好で顔が近付いた。

「ちょっと!!ら、乱馬!!やっ!!イタイっ!!アンタ最低よっ!!」

咄嗟に伸ばした腕も乱馬は軽くかわして掴み、驚く速さで関節技を決めるようにアタシの背中に回した。
悔しさと恐怖から涙が溢れ、痛さで顔を歪めて罵倒しても、乱馬は何も変わらずその無表情な顔でアタシの首元に唇で触れた。

「い、いやぁぁぁっ!!乱馬のバカぁぁっ!!!」

「………誰がバカだ……。」

初めて聞いた乱馬の掠れた低い声が、生暖かい息と共に耳元で響く。
何故か思わず身体がビクンっと震えた。

「ア、アンタよっ!!!い、いきなり何するのよっ!!離しなさいっ!!」
「………。」

止まっていた乱馬の唇が、これが答えだと言わんばかりにまたアタシの首元をなぞり始める。

「やだっ!!駄目っ!!」

首筋にゾクゾクッと鳥肌が立つような感触から逃れようと、アタシは力を込めて暴れてみた。
すると、何故だかわからないけどいつの間にやらアタシは背後から乱馬に抱きかかえられる格好で、雁字搦めになっていた。

服のボタンは外れて乱れ、スカートは太腿の際どい所まで捲り上がっている。
視界に入る、徐々に乱れていく服に益々と羞恥心が溢れ出し叫ぶも、乱馬の指先と唇は奥へ進もうと蠢いていた。

「やぁぁつ!!やめてっ乱馬!!!」
「………まだオレを焦らす気か?」
「じ、焦らしてなんか……きゃっん!!」

「そうやってシラきるんじゃねぇよ」

「あ、あれは………。」


「今日は逃さねぇからな。あかね」




今から数日前だ。


アタシは誤って缶チューハイを一気飲みした。
決して意図的に飲んでしまった訳じゃない。
お風呂上りでジュースを飲むつもりだったのに誤飲してしまったのだ。

そもそも、ジュースを一気飲みしてスカッとしようとしたのも、その日、アタシ自身がイライラとしていたから。

もう少し時を戻すと、その日の夕方、何時もの乱馬とシャンプー達のゴタゴタを目の当たりにした辺から振り返るのがわかりやすい。

世間はまだまだ冬真っ盛り。
それをものともしない彼女達は、乱馬を我がモノにと追いかけ回していた。

「乱馬!ワタシとデートするよろし」
「なにおうっ!!うちとデートするんや!!」
「いいえ、何をおっしゃいますの。ワタクシとデートですわっ」

「お、お前らー!!」

げぇっと言った顔で怯む乱馬は、アタシを置いてその場から逃げ出そうとしていた。

「ちょ、ちょっと!!乱馬っ!!」

普段はいつもの事と無視を決め込むんだけど、今日は二人で買い物の予定にしていたアタシは、その追いかけっこに、つい参加してしまったのだ。
今から思えば、バカな事をしたなと思う。
慣れている彼女達に、アタシが追い付くわけなく、少し後を追いかけているだけだった。

ハァハァと息を切らして、ただその戦いなのか、イチャつきなのか、バカバカしい4人を後ろから見届けるだけで、アタシのイライラ募りはじめていたのに、そのイライラを一気に頂点にさせる光景を見てしまったのだ。

「乱馬ー!」
「うわぁっ!!」

一歩先を行っていたシャンプーが、無理な体制で乱馬に飛びつき、フラついた乱馬はシャンプーと抱き合ったまま倒れてしまった。

「っっ!!」

いててっと頭を擦りながら起き上がる乱馬の上に覆い被さっていたシャンプーは、ご自慢のふくよかな胸と、チャイナ服から覗かせるスレンダーな太腿を乱馬の身体に絡めるように抱きついていた。

そして、極め付けに乱馬の頬へ口付けた。


「ら、ら、乱馬のバカぁぁぁっ!!!!」


その後は、大体想像がつくでしょう?


と、まぁ、ご察しの通り、乱馬は不可抗力だろっ!!の一点張りで謝る訳なく、と言うより、謝られてもね……。虚しい気もする。

そんなモヤモヤした気持ちを払拭術く、家に帰って道場で汗を流して、お風呂に入って、乾いた喉を潤そうと飲み干したのが、缶チューハイだったのだ。

「お、おい!!どうしたんだ?!あかね!?」
「あれ?これ………。ひっく」

ん?これジュースにしては何かへんな味がするわ。
なんて思った時には、アタシは小さなしゃっくりをしていた。

「お前何やってんだ!!それ酒だそ!!」
「おおっ」
「おおっ、て、酔っ払うぞ」
「ふぁ……なんか、斜めになった気がするかも」
「バカっ、それが酔ってるって事だろっ!!」

そう言うと、乱馬は慌ててふらついていたんであろうアタシの肩を抱いた。
でもその時にはまだアタシのイライラは収まってなくて、その腕を跳ね除けた。

「ちょっと、さわらないれよね。けがわらひいっ!!」

シャンプーに抱きつかれた乱馬なんかに触られたくないもん!!
そう思いながらも、フワフワすふ足元によろけて転けそうになる。

「バカっ。ったく世話の焼けるヤツだな」
「やーらぁ!!触るなぁ」
「暴れるなっ!!頭を撃つぞ!!」
「アタシはしょーきよ!!」
「お前、呂律回ってねーぞ」
「そんなわけにゃーい!!」

冷静に考えると、アタシは酔っていた。
でも、この時は自分は酔っているなんて思っていなかった。ただ、足元がフラついてるなーって認識はあった。
そこの認識があるだけに、意識は冷静だと思っていたんだと思う。

そんなアタシを乱馬は野生の猪でも捕まえたかのように担いで、部屋へと連れて行ってくれた。
勿論、アタシは大暴れ。

そして、アタシの記憶はここから物凄く曖昧になっているのだ。
あの時、暴れてしまったのがどうも酔の拍車を掛けていたらしい。

そして、次の記憶はというと、視界がグルグルしていたのと、何故だかアタシから乱馬に抱きついて怒っている記憶。

確か、"どうせシャンプーみたいな色気はないわよー"とか、"シャンプーより胸が小さくて悪かったわねー"とか、"アタシもチャイナ服着てやるー"とか、とか、

お酒って怖い。
アタシはシャンプーが乱馬に抱きついて頬にキスした事だけを怒っていたんじゃない。
シャンプーのスタイルと女らしさに、嫉妬していた。それを口にしたくもなかったのに、アタシは自らバラすような事を、乱馬に言っていた。

乱馬は困った様な顔をしていた気がする。

「仕方ねーだろ。オメーはシャンプーじゃねーんだからよ」

とか、なんとか、言っていたかしら。

アタシは慰めてるのか、貶してるのかよくわからない乱馬の態度にどうも納得出来なかったんだと思う。更なる暴言をしていた。

「何よっ乱馬だって本当はアタシの身体じゃ満足してないんでしょ?!」
「はぁ?」

アタシ達は、既にそういう関係になっていた。
やっぱりそういう事をする時はいつも恥ずかしいし、緊張だってする。
好きだから望んだ事なのに、身体のコンプレックスが以前より気になるようになっていたのは確かだった。

コンプレックスの身体を見られたくないから、隠すし、胸だって乱馬は小さいとか思って触ってるんでしょ?みたいな事を、アタシは発言していた。
言葉にして、乱馬に言ってしまったのだ。

黙って聞いていたかは定かじゃないけど、乱馬の態度がこの辺で変わったのは覚えている。

「………オメーはホント……。」

ほら、怒ってるじゃない!!!
図星だからでしょっ!!!やっぱりシャンプーが良いのね。

多分、この辺も発言している。
そして、アタシは更に挑発していた。

「どうせアンタの身体を見たって興奮しないんでしょ?むしろ見たくないんでしょ?」

本当に、ここからは思いだしたくもない。

そう言いながら、アタシはパジャマを脱ごうとボタンを外して胸を開けた。
すると、乱馬は真っ赤な顔して慌ててアタシに背を向けた。

「なっ!!こ、こらっ!!止めろって」
「ほら、嫌なんじゃない!!」
「違うって!!そうじゃねーだろ!!」
「何が違うのよっ!!」
「じゃあ見てもいいって言うのかよ!!」
「いいわよ!!どうせコーフンしないんでしょ?」

アタシは背を向けた乱馬に開けた胸を押し当て抱きついた。

「うっ!!」
「ほら、嫌がってるじゃないの」

一瞬、固まった乱馬の背中がアタシを拒んでいるように思えて、その背中から離れた。

「知らねぇぞ。オレだって見てぇのに我慢してたってーのに」
「嘘。だって今だって」
「じゃぁ、全部見せてもらうぜ。胸だけじゃねぇ。おへそ、尻、太腿、あかねの大切な所だってじっくり見るからな」
「いいわよ!!望むところよ!!」
「好きな女が全部見てって言ってるだぜ。遠慮なく堪能させてもらおうじゃねーか!!」


何これ?
なんの戦い?そもそも見てなんて言ってないわよ。って、その時思わなかったんだよね。アタシ。

背を向けていた乱馬が振り返り、アタシの胸をマジマジと見て目を合わせた。

「……我慢しねぇよ。酔ったあかねを襲うようなマネしたかねぇと思ってけど、もう知ら………。」





アタシの記憶はここまでで途切れている。
要するに、寝てしまったのだ。


次の日、何もなかった事を知る。
乱馬は"次回は覚えとけよ"とだけ言ったまま、何も語ってはくれなかった。

これはマズイと一生懸命に思い出したあの日の出来事は、これ以上思い出される事はなくそして、今に至る。


「駄目だってばぁ」
「それも、こないだの続きのつもりか?」
「ち、違うってばっ」
「今日はぜってーに逃さねぇよ。あの日からどんだけお預けくらったと思ってんだ?」
「ひゃぁっ……ふぅんっ」

乱馬の手は既にアタシの胸を刺激しはじめ、やめる素振りは微塵もなさそうだ。

「しっかりとオメーの全てを見てやっからな」
「駄目ぇっ」


今日は、みんな外出していて明日の朝までアタシ達二人っきりの予定だった。


「ここまで我慢してんだ、容赦はしねぇ」

それまでの長くて短い時間、アタシは初めて知る乱馬の深く忍ぶ欲を知る事となる。

それは、また別のお話………。

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