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□アナタノムネデ
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乱馬とあかねが珍しく、二人で居間のテレビの前にいた。
「お前、こんな時間にこんなの観て大丈夫か?怖くて眠れなくなるぜ」
少し馬鹿にした素振りであかねをチラ見した。
「大丈夫よ。だって、これそんなに怖くないもん」
テーブルに肘を付き、顎を乗せた格好で視線だけ乱馬に移し
「ばーか」
と付け加えた。

「よく言うぜ」
「だってこれ、芸人が話してるから笑える物もあるもん」
「あっ、わかる。だからオレも観てんだけど」
「でも、笑いと恐怖とどっちなのか最後で聞かなきゃわかんないのよ。でもそこがハマっちゃうのよね、あー始まるよ乱馬」
その後、芸人達のゾッとする話に二人は釘いるように観ていた。




面白い番組というのは、あっという間に終わるもの。
「今回も面白かったなぁなあ、あかね」
満足げに話しかけた。
「・・うん」
思った返事が返ってこないと不思議に感じ、あかねを見ると少し涙目で強ばった顔をしていた。
「え?な、なんで?どうしたんだ?え?どこか痛いのか?」
全く予想していなかった態度に慌てながら、あかねの背中を擦った。

「大丈夫。なんでもないんだけど、最後の話スッゴく怖くて」
あかねの上目遣いで目が合い擦っていた手が止まった。


"・・うっ。か・かわいい。
っておい!あのレベルでか?嘘だろ!"


「嘘だろ?」
思わず、ツッコミが口から出てきた言葉にびっくりした表情をしたあかねが
「え〜怖くなかったの?」
と質問返しをした。
乱馬にとっては、怖いなんて一つも感じない内容だっのでまさかの質問返しに驚いた。

"コイツ、今までこのレベルで怖がるくせして観てたのか?嘘だろ?"

「ちなみに、どのへんが?」
「深夜に雷が鳴って、目を開けたら天井に女の人の顔がっ!って」

確かに話をしていた芸人は身振り手振りでリアリティーある、旨い話し方をしてた。でもよくあるパターンの話しだ。

"ったく・・"

「だから言ったじゃねぇか。止めとけって」
「いいもん。別に」
可愛らしい頬を膨らましてプイッと顔を反らされ、そんな態度に乱馬のイタズラ心が湧いてきた。
"へーそんな態度とっていいのか?"

「おいあかね!外見てみろ。雨が降ってる」
先程まで降っていなかった雨をテレビの内容とリンクさせ、あかねをからかいだした。

「なによ」
「よく見てみろ、外が光っているってことはそろそろ雷が鳴りそうだぜ」
「えぇ、」
「さ、家族みんな寝静まってることだし、部屋に戻ってオレも寝るとするか」

「う〜ん」

みるみるあかねの顔が変わっていくのが乱馬には面白く、もっとからかいたくなる。

「じゃあ、オレ先に部屋に戻るからお前も"一人で"早く寝ろよ」

足早に立ち上がり、部屋に戻るふりをする。

「まっまってぇ」

"よし、きた"
背を向けていた乱馬がニヤリとした。

「どうした?寝ないのか?」

わざとらしく側に行き、そっとあかねの肩に手を乗せて彼女の行動を待ちわびた。
「一人に・・・しないで、怖いの」

あかねは乱馬の服の裾をぎゅっと握り、俯いた。

"・・素直じゃねぇか"


子供のように"いかないで!"と駄々をこねると思っていただけに、この先の事など考えていなかった乱馬はかなり動揺していた。静まり返った居間の中で、あかねの不安の方が勝ち、先に口を開いた。

「乱馬、御願い。ダメ?」

"そんな顔をすんなよ"

ちょっとしたイタズラ心が違う形に変わっていく。みるみるうちに・・

「ダメなわけ、、、ないだろ」



雨音が急激に激しくなり、雨雲の間を光りが駆け巡る。

乱馬はそっとあかねの頭を撫で、とりあえずあかねを部屋に連れていくことにした。
「部屋に戻ろう」
「うん」

自分がイタズラに怖がりの彼女を不安にさせたしまった事に対して罪悪感と、感じてはいけない期待感とが入り交じり複雑な気持ちでいた。


いつものパターンなら、今頃"乱馬のバカー"って殴られて怒って部屋に戻るのに。そんな不安な顔をすると、抱きしめたくなるだろ。


部屋までの短い距離までと決め、その小さくいとおしいあかねの手を握りしめた。
時折、空が光る度にびくつき、強く握ってくるのがわかる。
あっという間に部屋につく。導くように手をひっぱり、ベットに座らせた。

「そろそろ寝ようぜ」

名残り惜しくその手を離し、優しく髪を撫でた。それでも寂しそうな目をする。

「何処にも行かないで」

撫でていた乱馬の手を握ってきた。いつもの強気な姿はどこにもない。むしろやけに素直でかわいい彼女に我慢できず抱きしめた。

「安心しろって」

何故だろう。自分までもが素直になれる。

遠くで響いていた嵐が、あかねを脅かすようにすぐ側で唸りだす。

「怖いの」
「ああ、わかった。このまま寝ればいい」
「乱馬」

そのまま二人でベットに倒れこみ、あかねの恐怖を払拭するかのように自分の胸に強く抱きしめた。

「お前ホントに怖がりだな」

「・・そう、かな?」

「ああでも大丈夫だ。オレがいるから。いつでもこうやってやるさ」

「・・・・」

"あれ?返事が返ってこない。嫌なのか?"

少し力を抜いて胸に押し込んでいたあかねの顔を除き混んだ。


"嘘だろ?もう寝てやがる"

正直、ショックだった。

せっかく素直に言ったのに。こんな気持ちになったのはオレだけなのか?
大体なんで寝れるんだ?
こんなに緊張してるってのに。


ニブイし色気も可愛げも何もかもねえ。挙げ句料理だってまともに出来ねえ。なのになんでコイツじゃなきゃならねぇんだろう。あんなにいい雰囲気だったんだぜ?ぶち壊しだろ。


期待してなかったと言えば嘘になる。でも、これはないだろ。


昔から他人に全く興味がないオレが初めて興味をもった。
恋や愛なんて言葉じゃ片付けれねぇ。そんなもんじゃねんだ。


こんなに思ってやってんのにスヤスヤ眠りにつくなんて。
オレの事、男として見てないのか?

なああかね、お前の中のオレはただの居候で親から決められただけの許嫁なのか?

「ら・・・んま」

乱馬は名前を呼ばれて、ドキッとした

"・・・寝言か・・・"

お前の夢の中で、オレはどうしてる?

「これ以上オレから離れるなよ」

「・・・」
やはり返事はなく、あかねの健やかな寝顔に居たたまれなくなる。

"なにやってんだ?自分の部屋に戻ろう"

そっと抱きしめていた腕をほどき、気持ち良さそうに寝ているあかねを起こさないよう身体を離した。


「・・・行かないで。約束でしょ」

「!!」

「・・離れ・ないわよ」

「起きてたのか?」
驚いた顔をしてあかねを見た。
「うとうとしてただけよ。だって乱馬の腕の中だと安心するから。ここ、アタシだけの場所てしょ?」
眠たそうに答える愛しい彼女に目眩がする。

「ああ、そうだ」

より強く抱きしめる。

先程の嵐がまるで嘘のよう。

月明かりが二人を照らす。

アナタノムネデネムリニツク

7月7日、雨のち晴れ、年に一度だけ素直になれる特別な一日


アトガキ

七夕のお話でした。

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