short
□crazy for you
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朝の冷たい空気が布団から出るのを億劫にしてしまう。きっと少し身体を動かしたぐらいじゃ、暖かさは取りもどせねぇぐらい今日はやけに寒い。本当は少し前に目が覚めてた。もうひと眠りしようと目を瞑ろうとしたけど、腹が減ってそれを身体が良しとしねぇ。
しぶしぶ起き上がって、温もりを求めるように小走りで身体を擦りながら居間にあるコタツを目指した。
「乱馬くんあかねを起こしてきて頂戴」
「まだ寝てるのか?」
「そーなのよ、昨日は随分遅くまで起きてたみたいなのよ」
「その内に降りてくるだろ」
「家族みんなでお参りしに行くから、早く行ってきて。いつも起こしてもらってるしょ?」
「へぇい」
なびきはぬくぬくとコタツの中で、みかんを食べながらオレをあしらうように手を振ってあかねを起こしに行くよう急かした。
目指したコタツを目前に、なびきからの注文にめんどくせぇながらも、いつも起こしてもらってるでしょ、なんていわれりゃ行かなきゃなんねぇだろ?オレはくるっと背を向けて、小走りであかねの部屋に向った。
それにしてもあかねが寝坊なんて珍しいぜ。
そういえば、オレがあかねを起こす事って今まであったっけ??
AKANEの文字が刻まれてるプレートの前に着き、扉をノックした。
”コンッコン”
「おーい、あかね入るぞ」
いつものように返事が返ってくる前にオレは扉を押した。おきまりの、”勝手に入ってこないでよ”って声が返ってくるかと思いきや、何も返答が無く、光を遮ったままのカーテンから少しだけ漏れる光で、あかねがまだベットの中に潜って一度も出てきてない事がわかる。
「…おい、いつまで寝てやがるんだ?起きろ!!」
「…」
ピクリとも動かないベットに近づいて、あかねを布団越しに揺さぶった。
「ったく…おい!起きろって」
「…んん、乱馬、もう少し…だけぇ」
揺さぶられたあかねは布団から顔をひょこっと出し、たぶんこれ以上起こさないで欲しいのか、オレの手を掴んだ。
「は、早く起きろよ、みんなでお参り行くっていってるぞ」
「あとチョットだけ…」
甘えた声と無防備なあかねにオレの心が揺さぶられ、部屋の寒さとは対照的にあかねの温もりが握った手からじわじわと伝わる。
「お、お前なぁ。何時だと思ってんだ?早く起きねぇと…」
「起きないと?」
「べ、別に何でもねぇよ!!」
本当は、心も身体もこの温もりを感じてぇけど、オレはあかねを起こしに来た目的を忘れちゃならねぇ。
危うく忘れかけてた任務を自分に言い聞かせるように、あかねの布団に手をかけようとすると、あかねは握ったままの手を、そのまま布団の中に引っ張った。その拍子にオレがあかねに覆いかぶさるような恰好になる。
「きゃっ」
「あぶねっ」
予想してなかったアクシデントに、驚きながらも、刺激するかのようなあかねの甘い香りをオレは無意識にも、おもいっきり吸い込んだ。
オレの心臓が跳ねるように音をたてた。それはドキっというよりは、ドクンっといった表現が正しい。
「こ、こら!!寝ぼけてんのか?」
「寒かったんだもん!!ど、どけてよ!!」
オレの気持ちも知らずに、あかねが照れながらも強がるから、ガマンしてたのについ言っちまった…。
「そんなことばっかやってると、キスすっぞ!!」
「!!!」
「ホントにするんだからな!」
「出来ないくせに!」
「そう、思ってるのはあかねだけたろーが!」
逃げてくれりゃ、冗談にでもなるのに、お前は動きもしねぇ。
「そんなことないわよ!」
強がれば強がる程に、オレの意思が固くなる事を早く気づけよ。
「じゃあやるぞ」
オレは未だに戸惑うあかねの顎をくいっと上げて唇に視線を落とし、その唇にゆっくりと触れるようにキスをした。
「んっ」
鼻にかかった甘い吐息がオレの感覚全てあかねに集中していくのが、おかしい程わかっちまう。もっと鳴き声が聞きたくて、身体が熱くなってくる。
「あかね…」
「んんぅ…」
そして、唇からうなじにかけてキスをしていく…
「ら、乱馬…」
「乱馬!」
「乱馬!!お正月早々いい加減にしなさい!!」
「いってぇ!!」
「寝ぼけて襲うなんて、もう二度と起こしてあげないんだから!!」
あかねが怒って部屋を出ていく音が、ドスドスと鳴り響いた後にオレは我に返り、辺りを見渡すと、布団をひいてる見慣れた自分の部屋が広がってた。
へ?さっきのは??状況がよくわからん!寝てたのは、オレ?
てぇ事はだ…。さっきのは夢!!
でもって、オレは起こしに来たあかねを現実で襲いかけたのか??
ああぁぁぁっ!!
ぜってぇ怒ってるだろうな…あかねのヤツ。
それよりもだな、情けねぇがあの続きの夢が見てぇ…。どうして起こしたんだよ!!
「あかねぇぇぇ!!」
オレはもう少し後に、それが初夢だったという事とに気付かされる。
そして、さらにその時に、あかねの唇を奪った事実を知るのは、もう少し先の事。それまであかねに無視されてたのは言うまでもない。