■事件編

□恩田すみれ刑事の難事件
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注意:空想の人物が登場します。そして、事件の概要は現実とは異なる場合がありますが、ご了承下さい(無知なりに頑張ってみましたが、これが限界でした(汗))









「さぶっ」


昼間との寒暖差はなかなか身に染みるもんだと、薄手のアーミーコートの上から身体を擦る。
険しい顔をしていたすみれも流石に寒いのか、少々小刻みに震えているように思えた。

「寒くなったねぇ」
「流石にね。明日から冬用のコートに変えなくちゃ」
「俺も。コートのインナー付けよかな。はい、お土産のコーヒー。で、どう?なんか動きあった?」
「今の所は何も。ありがと、気が利くわね」
「長丁場になるかもしれないからね」

青島はコートのポケットから買ったばかりのコーヒー缶を取り出し、得意げにすみれに渡すと、それを嬉しく素直に受け取り冷えて悴み始めていた指先を温めた。

「いつも来年こそは寒くなる前に厚手のコートにしようと思うのに、今年も結局反省は生かせなかったわ」
「そうなんだよね。忙しくて気付くと今年も秋が終わろうとしてるし」
「そうよ、今日こそ早く帰って冬服全部出したかったのに」
「俺も。でもって結局、張り込みだね」
「ついてないわね。あたしたち」

ここ最近の湾岸署は観光客も増え、”空き署”と揶揄された頃が懐かしく思える程忙しい毎日に変貌していた。
昔に比べると本庁が湾岸署に特別捜査本部を立てる機会も増えた事を考えると、事件の数も大きさも変わってきているのだろう。
その中、珍しく二人共早めに帰宅出来る予定にしていた矢先のタレ込み情報を、袴田課長に言い渡されたのだった。「仕方ないでしょ、今手が空いてるの、君たちしかしないんだから」と。

「ていうかさ、ガセネタじゃないの?わざわざ車で来なくてもよかったんじゃない?」

会話している最中も、離れた裏路地の一各にある雑居ビルを片時も目を離さず見ているすみれの背後から、ため息をついた青島が顔を覗かせた。
周りは多くの夜を楽しむ人々がビルを出入りしている飲み屋街。スーツを着たサラリーマンやOLも多く、その中に違和感を抱くような人物は未だ現れない。

「一応捕まえた時の為にでしょ?今日はとりあえず偵察までにって言ってたクセにね、ちょっと期待してるんじゃない」
「捕まえるってさ、タレ込みだよ?それもその事件どんな事件だっけ?」
「3年前に起きた婦女暴行事件よ。4件立て続けに起こしてこっちが足取り掴んで、あと少しで逮捕って時に行方をくらましたの。覚えてない?」
「うーん、薄ら思い出したような。でもさ、ホントにソイツって確証ないじゃん」
「それがね、今回のタレ込み、初めてじゃないの」
「え?そんなにタレ込みあったの?注目度高い事件だったっけ?」

コートから取り出し咥えていたタバコに火を付け、こめかみをポリポリと掻きながら、少しでも事件を思い出そうと宙を睨んだ。

「違うわよ、タレ込んだ人物がって事よ」
「何それ、タレ込みの常習者?」
「これで3件目。最初は誰も真剣に取り合ってなかったけど、1件目のタレ込みが当たったみたいで」
「でも同じヤツじゃないかもよ」
「わざわざお手紙で袴田課長宛てに届くらしいの。それも名無しの速達で。そしてもう一つ。毎回婦女暴行での未解決事件ばかり。どこの誰かわかんない情報だけど、ソイツの情報は信憑性が高いと踏んだのね」
「で、今回も袴田課長宛てに届いたってことか。普通知らない人からの手紙なんて開かないモンだけど。ラッキーだね、課長。検挙率向上キャンペーン中に。で、特徴は?」
「痩せ型で身長は175cm、細目で目つきが悪く、左目の泣き袋に大きな黒子有り。一応、写真あるけど意味ないわね。わかり辛い」

はい、渡された写真のコピーがすみれの言う通りぼやけて見辛く、渋い顔した。

「こんな特徴だけじゃここから見えないよ。あのビル?」
「2階のバーなんだけど、見た目は普通の人しか出入りしてないし……やっぱり潜入しかないわね」
「え?行くの?」
「だて、ここからじゃ見えなんでしょ?」
「そうだけど……。でもまだ早くない?今日は偵察がてらなのに大胆だね」
「いいじゃない、ここ寒いし」
「え?まさか本気?」

冗談かと思いきや、真顔のすみれに驚いた。
いつもだと青島が先走って行動に起こす所なのに、自分を止める役であるはずのすみれが思いもよらない発言をした事に耳を疑いつつ、いつもすみれさんはこんな気持ちになってるのかと思うと少々憂わしくも感じた。

「行くわよ」
「は、はい」

早速ビルに入って行こうとするすみれの後を、慌てて青島も追いかる。
その後ろ姿は口振りとは違い、どことなく意気込んでいるように思えた。
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